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「今日も委員があって、お昼、ご一緒できないんです……」
(バート様の卒業のパーティーだから、委員に立候補したけど、集まり多過ぎ。しかもシアン様のせいで副委員長になっちゃうし)
ティアラの言葉に気持ちが落ち着かなくなる。
同じ委員にコードウェルがいて委員長に立候補し、ティアラを副委員長に推薦してきた話は先日聞いた。
意地悪で役員を任されたとティアラは思い込んでいるが、あれは多分……
──俺はコードウェルが嫌いだ。いつもティアラの周りをウロチョロしているし、婚約が決まってからもちょっかいを出してきて、気に喰わない。
しかも最近、ティアラをボッーと見つめたり、目が合うと赤くなったりして、本当になんていうか──
(どうしたんだろう。珍しく怖い顔……? 急に断ったりして、怒ってる? でも私だって一緒に食べたかった……)
ティアラの悲しそうな表情を見て、慌てる。
ごめんね。違うんだ。
「……残念だ」
なんとか声を絞り出す。
「え……」
(『残念』って……怒ってるんじゃなくて、寂しくて? バート様も私との食事を楽しみにしてくれてたの? 何それ、嬉しい……!)
その心の声を聞いて反省する。
ティアラが俺を好きでいてくれているのは、分かっているんだ。
心が狭いぞ。年上の余裕を見せてやれ。
ただの委員会だ。別に二人きりじゃないし。
自分に言い聞かせ、精一杯笑顔を作る。
「明日は?」
ティアラの頭をそっと撫でた。
「もー。子ども扱いしない約束ですよ、バート様。明日は委員ないです」
と言いつつ、ティアラの口元が緩む。
(本当はバート様に頭を撫でられるの、好き……)
淡い桃色の髪から、甘い香りがしてクラッとする。
「俺も空いてるよ。明日は一緒に食べよう」
「はい」
(嬉しい! 約束……)
はにかむティアラにキュンとする。
その細い肩を思い切り引き寄せて、腕の中に閉じ込めたい……
──時々、衝動に駆られそうになる。
ここは学院の廊下で、いつ生徒や先生が通るか分からない。
息を吐いて、なんとか衝動をやり過ごす。
撫でていた手を離した。
(あ……離れちゃった。残念。もっと触って欲しかったな)
『もっと』
ティアラの発した単語にグラグラきつつ、なんでもない振りをして、言葉を探す。
「帰りは?」
「特にないです。バート様は?」
目に見えて、嬉しそうな顔をしている。
淑女は表情を表に出さない方が良いとされているが、俺はティアラのこういう素直なところも好きだ。
「今日は生徒会ないよ。一緒に帰ろう」
「はい!」
(やった! また肩を抱いてもらえるかしら。最近、行き帰りの馬車が楽しみで仕方ない。ドキドキするけど、バート様、優しいし、益々好きになっちゃう)
心の声にむず痒くなる。
今日は肩にしよう……
さっきまでの胸のモヤモヤは霧のように晴れていった。
「じゃあ、中庭で待ち合わせでいい?」
「ええ。では放課後に」
手を振って別れる。
若干浮かれながら階段を登ると、人が立ちはだかっていた。




