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「ギル。落ち着け。落ち着くんだ。お前は天才だ。挨拶は練習の通りにすれば、問題ない。陛下は優しい方だから、何も心配いらない。緊張した時には、し……深呼吸をして、ゴホッゴホッ!」
国王陛下への初めての謁見。当の本人より緊張している父上の顔は土色だった。
(緊張で吐きそうだ。陛下は鬼か! 正式な謁見だなんて、まだ10歳の子どもに酷過ぎる!)
宰相を務める父上は国王陛下の側近で、どんな時も冷静に判断するブレーンだなんて言われているが、息子に対しては少し──いや、かなり重度な心配症である。
「宰相殿、陛下のご準備が整いましたので、ご令息とご一緒に王の間へご移動ください」
侍従が知らせに来ると、父上は俺をじっと見つめた。
(ギル。やっぱりやめようか? 仮病を使えば、いけると思う)
あまりの心配ぶりに笑ってしまってから、口を開いた。
「大丈夫ですよ、父上。紳士らしく、立派に挨拶して参ります」
(成長したな、ギル。……昔からしっかり者だが。偉いぞ! 流石は我が息子! お前の覚悟はよく分かった! よし、当たって砕け散って来い!)
……いやいや、砕け散ったら駄目でしょう。
心で突っ込みつつ、父上と一緒に王の間へ入った。
美しいシャンデリア、きらびやかな金の装飾品、真っ白な壁、赤いカーペット、どこもかしこもギラギラしていて、落ち着かない。
「君が宰相の息子か。面を上げよ」
玉座から重厚な声が響き、顔を上げた。
「王国の太陽にご挨拶を申し上げます。お初にお目にかかります。ギルバート=レヴァインでございます。国王陛下、ご機嫌麗しく──」
手を胸に当て、目線を下げる。
「固くならずとも良い。遠方からご苦労だった。しっかりしておるな。齢は?」
「先日、10歳になりました」
「随分と利発そうだ。私の目を見てみなさい」
言われて、陛下を見つめる。
エメラルドの瞳はまるで宝石のようだった。
(私の声が聞こえるなら、瞬きを一度せよ)
ゆっくりと目を閉じ、開いてから目線を合わせる。
(今度はしゃがんで)
言われた通り、片膝を突く。
「……紛う事なき、本物よ。王家は神に祝福された者を歓迎する。ギルバート=レヴァイン。お前を我が息子、王太子の遊び役に任命する」
「ありがたき幸せ。謹んでお受け致します」
緊張しながら、そう答える。
「はっはっは。10歳には見えんな。ジークによく似ている。これから王太子の話し相手になってくれ。頼んだぞ、ギルバート」
国王陛下の口角が上がり、優しい顔になる。
なんとなく怖いイメージを持っていたので、ほっと胸を撫で下ろした。