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コードウェルの息子の隣で悲しそうな顔をしているルアーナ嬢を想像しただけで辛い。
──できれば、ずっと笑っていて欲しい。
貴族は政略結婚が普通。きっと今回をやり過ごしても、すぐに次が舞い込んでくる。
この気持ちをなんて伝えればいいか、分からないんだ。
一緒に過ごした時間はほんの僅か。
でも──
君と一緒にいると楽しい。
温かい声に、優しい声に、素直な声にほっとする。
心の声が聞こえないように気を付ける、気を張る必要もない。
君と会ってみたのは父上に勧められたから。
けれど、今は相手が君で良かったと思っている。
「身分とか関係なく、君がいいと思ったんだ」
女の子を口説いた事なんて一度もない。
それでも思っている事をなんとか伝える。
(レヴァイン様も顔が赤い)
心で指摘されて、余計に照れてしまう。
「……俺じゃ駄目?」
彼女が家柄を気にして返答に困っていたから、あえて、そういう言い方をしてみる。
「だ、駄目なんて滅相もない……」
(レヴァイン様、こんなに格好良いのに、可愛いなんて反則です! 駄目よ。ニヤけては! 淑女はニヤニヤしない!)
……君の方が可愛いだろ。
男に『可愛い』はやめてくれ。褒め言葉じゃないから。
「本当に私でいいのですか?」
「ルアーナ嬢がいい」
目を逸らしてしまいたいのをグッと我慢する。
……顔から火が出そうだ。
(レヴァイン様、真っ赤だわ。恥ずかしい思いを堪えて、伝えてくれているの? や、やだ……キュンとしちゃう。そうよね、クールって言われても同世代の男の人なんだし。やっぱり優しくて誠実な人……)
じっと見つめられて、鼓動が早くなる。
(初めて会った時から、私だってレヴァイン様の事ばかり考えてた。それにお父様とお母様みたいに恋愛結婚でいつまでも仲良し夫婦が私の理想。家の家格を考えれば、身の程知らずもいいところだけど。『損得で結婚したくない』。つまり、私の内面を見て選んでくれたって事? それって……それって嬉し過ぎる……)
彼女の目が潤む。
それを見て、テーブルに置いておいた花束を掴む。
レヴァイン家の家訓を思い出し、心を落ち着かせる。
ここまできたら、『当たって砕け散れ』!
「ルアーナ嬢、俺のお嫁さんになってくれる?」
白バラの花束を差し出す。
「…………はい」
ルアーナ嬢は恥ずかしそうに受け取ってくれた。




