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「俺と結婚しないか?」
考えるより先に、言葉が出た。
彼女は勿論、その場にいる全員の動きが止まった。
しまった……!
急に求婚する奴があるか!
(え⁉ 今、なんて……⁉)
見る見るうちに、彼女の顔が赤くなる。
な……なんて言えばいいんだ。
君の心の声を聞いて、求婚の話は知っていた。コードウェル侯爵家の息子よりは俺の方がマシかと思って──
って、言えるか!
どういう風に伝えれば⁉
心を読める事を彼女に知られて、もし『気持ち悪い』と思われたりしたら──
焦れば焦る程、何も言葉が浮かんでこない。
じわりと全身が熱くなってくる。
(結婚⁉ き、聞き間違い⁉)
羞恥心に勝てず、下を向いてしまった。
「……その、初めて会った時から君の事、可愛いなと思っていて……俺は兄弟もいないし公爵家の跡取りだから、両親からそろそろ婚約者を決めるように言われていていたんだ。女の子、苦手だったんだけど、君はいつも笑顔で親しみやすいし、一緒にいて楽しいなと思って。ケーキを美味しそうに食べるところも、猫に優しいところも、特待生で真面目なところも好ましい。きょ……今日も……君と仲良くなりたくて招待したんだ」
一気に言ってから、滝のように汗が流れる。
全部本当の事だけれど……
今の言い方だと、俺が片思いしているみたいに思われる……?
もう一回、やり直したい!
阿呆みたいに、ペラペラと──
心臓が狂ったように鳴っていて、息まで苦しくなってきた。
どうしよう。どんな風に思った……?
なかなか顔を見る事ができない。
しばらく経ってから、彼女が先に口を開いた。
「……私、伯爵家の娘ですよ」
「知ってる」
目を伏せたまま、答える。
「身分が違い過ぎます」
「身分は関係ない」
「レヴァイン家にとって、何一つ得はありません」
「損得で結婚したくないんだ」
「それに私は公爵家の淑女に程遠いと思います」
「そんな事ない。君は立派な淑女だ」
「きっとご家族に反対されます」
「父上と母上は絶対に喜んでくれる」
「でも……」
思ったより冷静な会話に恥ずかしさが高まる。
もしかしたら俺とも嫌だって可能性も──
そこで初めて、思い切って顔を上げた。
(どうしよう‼ 心臓、止まりそう‼ 嘘みたい! これってプロポーズよね⁉ なんで私⁉ 待って待って! お……落ち着いて、頭を整理するのよ。レヴァイン様、『俺と結婚しないか?』って言った? きゃーー‼ 無理無理、頭が回らないわ! 本当に⁉ へ、返事をしないと……)
大音量で心の声が流れてくる。
──全然、冷静じゃなかった。
結婚なんて妥協するしかないと思っていた。
でも、ルアーナ嬢が他の誰かと結婚すると聞いて、盛大に焦る位には彼女を気に入っている。
俺も……
俺だって……
一生添い遂げるなら、ルアーナ嬢みたいに心の優しくて素直な人がいい。




