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婚約者の心の声が可愛過ぎて困っています  作者: りょう
第一部

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19

「俺と結婚しないか?」

 考えるより先に、言葉が出た。

 彼女は勿論、その場にいる全員の動きが止まった。

 しまった……!

 急に求婚する奴があるか!


(え⁉ 今、なんて……⁉)

 見る見るうちに、彼女の顔が赤くなる。

 な……なんて言えばいいんだ。

 君の心の声を聞いて、求婚の話は知っていた。コードウェル侯爵家の息子よりは俺の方がマシかと思って──

 って、言えるか!

 どういう風に伝えれば⁉

 心を読める事を彼女に知られて、もし『気持ち悪い』と思われたりしたら──

 焦れば焦る程、何も言葉が浮かんでこない。

 じわりと全身が熱くなってくる。

(結婚⁉ き、聞き間違い⁉)

 羞恥心に勝てず、下を向いてしまった。


「……その、初めて会った時から君の事、可愛いなと思っていて……俺は兄弟もいないし公爵家の跡取りだから、両親からそろそろ婚約者を決めるように言われていていたんだ。女の子、苦手だったんだけど、君はいつも笑顔で親しみやすいし、一緒にいて楽しいなと思って。ケーキを美味しそうに食べるところも、猫に優しいところも、特待生で真面目なところも好ましい。きょ……今日も……君と仲良くなりたくて招待したんだ」

 一気に言ってから、滝のように汗が流れる。


 全部本当の事だけれど……

 今の言い方だと、俺が片思いしているみたいに思われる……?

 もう一回、やり直したい!

 阿呆みたいに、ペラペラと──

 心臓が狂ったように鳴っていて、息まで苦しくなってきた。

 どうしよう。どんな風に思った……?

 なかなか顔を見る事ができない。

 しばらく経ってから、彼女が先に口を開いた。


「……私、伯爵家の娘ですよ」

「知ってる」

 目を伏せたまま、答える。

「身分が違い過ぎます」

「身分は関係ない」

「レヴァイン家にとって、何一つ得はありません」

「損得で結婚したくないんだ」

「それに私は公爵家の淑女に程遠いと思います」

「そんな事ない。君は立派な淑女だ」

「きっとご家族に反対されます」

「父上と母上は絶対に喜んでくれる」

「でも……」

 思ったより冷静な会話に恥ずかしさが高まる。

 もしかしたら俺とも嫌だって可能性も──

 そこで初めて、思い切って顔を上げた。


(どうしよう‼ 心臓、止まりそう‼ 嘘みたい! これってプロポーズよね⁉ なんで私⁉ 待って待って! お……落ち着いて、頭を整理するのよ。レヴァイン様、『俺と結婚しないか?』って言った? きゃーー‼ 無理無理、頭が回らないわ! 本当に⁉ へ、返事をしないと……)

 大音量で心の声が流れてくる。

 ──全然、冷静じゃなかった。


 結婚なんて妥協するしかないと思っていた。

 でも、ルアーナ嬢が他の誰かと結婚すると聞いて、盛大に焦る位には彼女を気に入っている。


 俺も……

 俺だって……


 一生添い遂げるなら、ルアーナ嬢みたいに心の優しくて素直な人がいい。

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