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レヴァイン家に産まれた男児は祝福を授かる。
その証にこの国では珍しいロイヤルブルーの髪とサファイアの瞳を持つという。
『心を読む力』
その力は他者を寄せ付けず、圧倒した。
目を見ただけで、相手の思いを読み取る。それは希少な力であると崇められ、立場を確立していく。
諸刃の剣のような能力は、王家のみに明かされ、代々秘密は守られてきた。
祝福の力を使い、王家に貢献。表向きは宰相として、裏では政敵を探り、王家に災いを持たす者を排除。数百年の間、レヴァイン家は政に関わってきた。
俺も同じ祝福を与えられ、生まれてすぐ、教会で洗礼を受けた。
親族は男児の誕生にこぞって喜んだが、両親だけは俺の未来を案じ、不安を感じていたという。
言葉を覚えるより先に、力のコントロールを学び、王家に仕える為の教育を受けた。
それでも幼い頃は幸せだったと思う。
「大好きよ。ギル」
(笑顔が天使のよう! うちの子が一番可愛いわ)
「よく覚えたな。偉いぞ」
(俺の息子は天才だな。顔も可愛いし、優しくて性格もいい)
両親に愛され、なんの不自由もなく穏やかに過ごしていた俺は、信じて疑わなかった。
──祝福は選ばれた人間に与えられた力で、幸せなものであると。
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育ったのは、緑の多い辺境地。子ども達の遊び場は森位で娯楽も何もない場所だったが、体の弱い母上が静養する為、俺を身篭った時から住んでいた。
「ギルバート君、心の声が聞こえるって本当?」
「凄い! 今、読んでみて!」
「記憶や映像も見えるの?」
『祝福について、他人に洩らしてはいけない』
父上に厳しく言われていたが、幼い子どもには無理だった。
すぐに噂は広まった。
「レヴァイン令息は心の声が聞こえるらしい」
「気味が悪い」
初めて、耳にしてしまった時はショックを受け、立ち直れなかった。
「一緒に遊びたくないわ」
「私達の事、馬鹿にしてる」
「笑顔が嘘っぽい」
「目を合わせなきゃいいんだ」
年齢が上がる毎、目を逸らされ、陰口を言われる事が増えてきた。
(こっちに来ないで!)
(読むなよ。気持ち悪い)
(嫌だ。どこまで聞こえてるの?)
(何が祝福だ。ただの呪いじゃないか)
日に日に遠慮がなくなる心の声。ぶつけられる敵意を受け流す事もできず、段々と心を閉ざしていった。
「……父上、俺、心の声なんて聞きたくありません」
「そうだな」
理解者である父上へ、こんな風に訴えたのも一度や二度じゃない。
「皆、笑顔で怖い事を考えている」
「俺も昔は人間不信だった」
人は普通を好む生き物だ。皆、祝福の力を恐れ、次第に居場所はなくなっていく。特別は例外なく排斥され、距離ができていった。
孤独だった幼少期、何度、この『祝福』を呪ったか、分からない。
耳を塞いでも聞こえてくる悪意。
一つ言えるのは、選ばれた人間でも、俺は不幸だったって事。
「俺は妻と出会って、救われた。ギル。お前も10歳。そろそろ婚約者を──」
「いりません」
他人と一緒に暮らす。とても、そんな恐ろしい事はしたくなかった。
「そんな事を言わず、姿見だけでも」
「結構です」
すっかり人間不信に陥っていた頃、父上の功績が国に認められ、国王陛下から邸宅を賜った。
──今なら分かる。
母上の容態が落ち着いてきたのもあるが、移住を決めたのは、俺が孤立し、周りと上手くやれなかったからだろう。
王都に移り住み、王立学院に入学。誰も知らない地で、やり直す事となった。
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