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「使って貰えて嬉しいです」
(お会いする日に使ってくれるなんて……レヴァイン様、優しい。何を渡そうか悩んだ甲斐があったわ。ハンカチにして良かった。使ってくれて嬉しい……)
心の声が素直で困る。
──二人で紅茶を楽しんでいると。
「ご歓談中、大変申し訳ございません。失礼を承知で申し上げます。うちのお嬢様に至急お話したい事が……」
ルアーナ家の従者がガーデンテラスに現れ、深々と頭を下げた。
「……すみません。少し席を外します」
ルアーナ嬢も不思議そうな顔をして、席を立った。
急ぎの知らせとはなんだろう……
それより、今のうちに。
「家令」
「はい、坊ちゃん」
「庭師に白バラの花束を作ってくれと頼んで欲しい」
その場にいた全員の目が丸くなる。
「メイド長」
「は……はい、ギルバート様」
「すぐにパティシエの所へ行ってくれるか。彼女は甘い物が好きみたいなので、いくつか土産に包んで欲しい。あと少し風が出てきたから、膝掛けを」
この際だ。全部頼んでおこう。
「はい! かしこまりました! じぃの命にかけてもこの世で一番美しい花束を完成させます‼」
家令の目に涙が溜まる。
そんなに意気込まないでくれ。花束に命をかけなくてもいいから。
半泣きの様子を見て、心で突っ込む。
「ギルバート様、素晴らしいお心遣いです。私、私……感動で前が見えません……」
メイド長は泣き出してしまった。
もう、本当にどうしてくれよう……
「メイド長、泣いている場合ではございませんわ! 任務を全うしなくては‼」
メイド達がハンカチを差し出し、背中を擦っている。
「そうね、私とした事が……! ギルバート様のお気持ちが伝わり幸せが溢れるような手土産を作って参ります‼ あなた達、お客様用のブランケットで一番肌触りが良い物を準備してちょうだい‼ 彼女はクリーム色のワンピースを着てらっしゃったから、優しい色のものを!」
メイド達に指示を出すと、メイド長は物凄い勢いで行ってしまった。
(うちのギルバート様にもようやく春が……!)
(見てるだけでドキドキしました!)
(初々しくて、お似合いの二人……)
(頑張ってください! ギルバート様!)
(白バラの意味を分かって贈ったんですよね……?)
いつもはお喋りなのに誰も一言も話さないし、顔が全員、緩んでいる。
残った皆の声も生温か過ぎて、耐えられない……




