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「このフルーツタルト、とても美味しいです!」
顔を綻ばせて、嬉しそうに彼女が笑う。
(レヴァイン家のパティシエ、最高! 果実の酸味とクリームの甘みが絶妙! 彩りも綺麗だし、紅茶もフルーティーでほんのり甘くて美味しい! ガトーショコラも美味しそう。食べてみたいけど……お代わりなんて、はしたないよね。我慢我慢)
こんなに美味しそうに食べる子、今までいなかったな。
「うちのパティシエの一番のお勧めはガトーショコラなんだ。良かったら食べてみない?」
皿が空になったのを見て、声をかけてる。
「はい! 頂きたいです」
(じっと見てたの、バレちゃった……? でも勧められたし。やった! 自分から『もっと食べたい』って言ってないし、セーフよね)
「美味しい!」
余程気に入ったのか、パクパクと食べている。
美味しそうに食べるなぁ……
それに、食べながら笑う子って珍しい。
「ニャーン」
突然、飼い猫のミィがルアーナ嬢の膝に飛び乗った。
思わず慌てる。
「こら、ミィ!」
ワンピースが汚れる!
急いで席を立ち上がると、少し紅茶を零してしまった。
「可愛いですね。ミィちゃんって言うんですか?」
「ごめんね。スカートが汚れる」
「これ位、大丈夫ですよ。随分人馴れしてますね。小さい頃、私も猫を飼ってましたの。妹がアレルギーで泣く泣く手放しましたが」
そう言いながら、ミィの喉を撫でている。
「妹さんがいるんだ」
「はい。兄が二人、姉が一人、妹が一人、弟が一人の六人兄弟です」
「六……それは賑やかそうだね」
「ふふ、おやつはいつも取り合いでしたわ」
だから、デザートに目がないのかな。
(レヴァイン様の口元が緩んでる……『完全無欠貴公子』は無口で無表情って、皆、口を揃えて言うけど、そんな事ないじゃない)
また新しい呼び名……
しかもネーミングセンス、ゼロ!
堪えきれず、笑ってしまう。
「あ! 笑いましたね。いつも食い意地を張っているわけでは……」
慌てて否定する様子を見て、さらに笑ってしまう。
会話に詰まったら、気まずいと思っていたけれど、そんな心配は杞憂で、彼女はとても話しやすかった。
「それよりレヴァイン様、濡れてます」
心配そうに言われ、上着の裾を見る。
多分、さっきの紅茶だろう。
ポケットからハンカチを出して、ハッとした。
ルアーナ嬢から貰ったハンカチ……
紅茶だと色がついてしまうかもしれない。
「家令、上着を預って貰えるか」
「はい、坊っちゃん、替えの上着もお持ちしますね」
気を遣って言ってくれ、頷いた。
(あの、ハンカチは……! 紺色、白バラ……!)
「ハンカチ、使ってくださってるんですね」
嬉しそうに言われて、急に恥ずかしくなる。
なんて返すのが正解なんだ。
すぐに切り返せず、黙っていると、ルアーナ嬢はやわらかく微笑んだ。




