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婚約者の心の声が可愛過ぎて困っています  作者: りょう
第一部

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16

「このフルーツタルト、とても美味しいです!」

 顔を綻ばせて、嬉しそうに彼女が笑う。

(レヴァイン家のパティシエ、最高! 果実の酸味とクリームの甘みが絶妙! 彩りも綺麗だし、紅茶もフルーティーでほんのり甘くて美味しい! ガトーショコラも美味しそう。食べてみたいけど……お代わりなんて、はしたないよね。我慢我慢)

 こんなに美味しそうに食べる子、今までいなかったな。

「うちのパティシエの一番のお勧めはガトーショコラなんだ。良かったら食べてみない?」

 皿が空になったのを見て、声をかけてる。

「はい! 頂きたいです」

(じっと見てたの、バレちゃった……? でも勧められたし。やった! 自分から『もっと食べたい』って言ってないし、セーフよね)

「美味しい!」

 余程気に入ったのか、パクパクと食べている。

 美味しそうに食べるなぁ……

 それに、食べながら笑う子って珍しい。

  


「ニャーン」

 突然、飼い猫のミィがルアーナ嬢の膝に飛び乗った。

 思わず慌てる。

「こら、ミィ!」

 ワンピースが汚れる!

 急いで席を立ち上がると、少し紅茶を零してしまった。

「可愛いですね。ミィちゃんって言うんですか?」

「ごめんね。スカートが汚れる」

「これ位、大丈夫ですよ。随分人馴れしてますね。小さい頃、私も猫を飼ってましたの。妹がアレルギーで泣く泣く手放しましたが」

 そう言いながら、ミィの喉を撫でている。

「妹さんがいるんだ」

「はい。兄が二人、姉が一人、妹が一人、弟が一人の六人兄弟です」

「六……それは賑やかそうだね」

「ふふ、おやつはいつも取り合いでしたわ」

 だから、デザートに目がないのかな。

(レヴァイン様の口元が緩んでる……『完全無欠貴公子』は無口で無表情って、皆、口を揃えて言うけど、そんな事ないじゃない)

 また新しい呼び名……

 しかもネーミングセンス、ゼロ!

 堪えきれず、笑ってしまう。

「あ! 笑いましたね。いつも食い意地を張っているわけでは……」

 慌てて否定する様子を見て、さらに笑ってしまう。

 会話に詰まったら、気まずいと思っていたけれど、そんな心配は杞憂で、彼女はとても話しやすかった。


「それよりレヴァイン様、濡れてます」

 心配そうに言われ、上着の裾を見る。

 多分、さっきの紅茶だろう。

 ポケットからハンカチを出して、ハッとした。

 ルアーナ嬢から貰ったハンカチ……

 紅茶だと色がついてしまうかもしれない。

家令(ロバート)、上着を預って貰えるか」

「はい、坊っちゃん、替えの上着もお持ちしますね」

 気を遣って言ってくれ、頷いた。


(あの、ハンカチは……! 紺色、白バラ……!)

「ハンカチ、使ってくださってるんですね」

 嬉しそうに言われて、急に恥ずかしくなる。

 なんて返すのが正解なんだ。

 すぐに切り返せず、黙っていると、ルアーナ嬢はやわらかく微笑んだ。

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