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馬車から、彼女が顔を出した。
今日は髪の毛を編み込み、白い帽子を被っている。淡いクリーム色のワンピースもよく似合っていた。
「お手を」
エスコートをする為、手を伸ばすと、ルアーナ嬢は控えめに微笑んだ。
小さな手が腕に触れる。
急にドキドキしてしまい、目を逸らしてしまった。
殿下や皆が変な事言ったせいだ……
「本日はお招き頂きまして、ありがとうございます」
お礼を言われて、顔を見ないわけにはいかない。
「父上達は仕事があるらしいから、お茶でもどうかな。その……ハンカチのお礼に」
彼女の色白な頬が赤く染まった。
それを見たら、また変な気分になってくる。
(さ……触っちゃった。家族以外にエスコートされるの、初めて! 流石、公爵家! なんか甘い香りがするわ。バニラ……?)
そうか。俺が初めて……
だから、どうした。俺は何を喜んでいるんだ。
自分の思考回路が分からなくなる。
無言のまま、彼女をガーデンテラスへ連れて行く。
そよそよと風が吹き、白バラが揺れる。
……そうだ。褒めるようにアドバイスされていたな。
今日のワンピース、よく似合っているね。
帽子も髪型も可愛い。
なんて……
────言えない。
皆、簡単に言ってくれたが、女の子を褒めるのって難しい。
落ち着かない気分でいると、ルアーナ嬢が振り向いた。
「見事なお庭ですね」
(レヴァイン様、私、あなたのファンクラブに入ったんです! 一ファンとして、そっと眺めているだけのつもりが、なんのご褒美かしら。今日もまつ毛長い。髪もダークブルーのシャツも似合ってるわ! 留具やカフスが瞳と同じサファイヤ。お洒落ね……)
ファ、ファンクラブ⁉
おまけに『今日もまつ毛長い』って、どういう事⁉
思わず躓きそうになった。
「美しい白バラ……」
うっとりとバラ園を眺める彼女。
「……帰りに持って帰る?」
ついて出た言葉に彼女が驚く。
(白バラの花言葉は「純粋」「深い尊敬」「相思相愛」……『これから親密になりたい』という意味で贈ると聞いた事があるわ! いえいえいえ! レヴァイン家の家紋だから育てていて、たまたま話題に上がったから、ご厚意で言ってくださっただけ)
意味を知らなかったわけじゃなかったけど……
そこまで深読みされると照れる。
「ご厚意に甘えて頂いてもよろしいですか?」
「帰りに準備しよう」
深呼吸し、なるべく浮ついていないような声で返事をした。
──どうしよう。
始まる前から、胸が騒がしいんだが。
「まぁ、素敵!」
彼女はガーデンテラスに準備されたテーブルを見て、嬉しそうな声を上げた。
紳士らしく……
「どうぞ」
椅子を引き、座るよう促す。
「ありがとうございます」
(レヴァイン様は大人っぽいしスマートね。この年で、こんな風にレディ扱いしてくれる人は他にいないわ)
彼女を座らせてから、向かいの席に腰を下ろした。




