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「ギルバート様、スカーフはこちらの色がよろしいかと。更にスマートに見えますわ」
(今日が勝負の日よ! 伯爵家のお嬢様が遊びにいらっしゃるなんて、初めて! 完璧に着飾らなくちゃ!)
「最近は男性でも髪に香油をつけるのが流行ってますのよ。これはバニラの香りです」
(清潔感を持たせつつ、女性の好きな甘めの香りにして……洋菓子が好きだと言っていたから、会話に詰まった時は話題にもなるでしょう)
「留具とカフスはサファイアにしましょうか」
(旦那様が言うにはとても心優しい方との事! このご縁、なんとしてでも結んでみせますわ!)
キャッキャッとはしゃぐメイドにうんざり。
「クッキーはこちらのスタンドへ。ケーキ類は盛り付けてからフルーツを敷き詰めてはいかがでしょうか」
(ギルバート様のお見合い、絶対に成功させるぞ!)
「シルバー類はどこに準備しますか?」
(お相手は同じ学院のご令嬢。丁重にもてなして、レヴァイン家を気に入ってもらわなくては!)
パティシエ達や従者達も異様に張り切っていて困る。
「時間がないので、花を飾り付けてきますね」
(坊っちゃんがご令嬢を家に招待する日が来るとは……長生きもしてみるもんだ。いかんいかん。気が緩むと嬉しくて涙が出そうだ)
家令の涙目を見て、絶句。
なんだろう。この本人を放ったらかしにした盛り上がりは。
できれば言わせて貰いたい。
これは見合いではないし、俺が招待したわけでもない。
……一体、父上は皆になんて言ったんだ。
納得はいかないが、皆、俺が生まれる前からレヴァイン家に仕えていた大切な家族のような存在だ。俺の為を思って、朝早くから支度を頑張ってくれたのが分かるからこそ、何も言えない。
「ギルバート様、素敵に仕上がりましたね!」
(ルアーナ伯爵のお嬢様と上手く行きますように‼)
おまけに庭師や馬小屋番からの声援も熱い。
俺はルアーナ嬢から貰ったハンカチをそっと上着のポケットへ忍ばせた。
✳✳
「いらしたわ! ルアーナ家の馬車よ!」
一人のメイドが叫ぶと、その場に緊張が走った。
「従者は馬小屋の案内を! 厨房は準備を開始! 執事、メイドはエントランスでお出迎えを! 誠心誠意込めて、お迎え致しましょう!」
メイド長のステラもノリノリである。
なんだか、まるで戦闘でも始めるみたいだ。
「坊っちゃん、じぃと一緒に外でお出迎え致しましょう」
家令と緊張しながら、正面玄関へ向かった。
「ギルバート様、笑顔を忘れずに!」
(あー。心配だわ。普段、ご友人も連れて来られないし、ちゃんと会話できるかしら)
「女性には優しくしないと駄目ですよ」
(坊っちゃん、頑張ってください。見守っております)
「ご令嬢のお洋服とか髪型とか、とにかく褒めてあげてください」
(どうかどうか、うちのギルバート様を気に入ってくださいますように!)
皆の声がうるさ過ぎる……




