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「お二人共、幸せそうでしたね」
(王太子殿下がアイリーン様を見る目が優しくて……こちらまで幸せな気持ちになりました!)
帰り道の馬車で、ティアラが嬉しそうに話す。
「そうだね。寒くない? 閉めようか?」
すっかり夜も更け、馬車の窓からは三日月が見えた。
「大丈夫です。ちょっと火照ってしまったので……王太子殿下はピアノも弾けるんですね。アイリーン様に曲を贈るなんて素敵……」
(アイリーン様も感動して、泣いちゃっていたし)
パーティーの最中に行なったサプライズの事だろう。珍しく殿下は緊張していて、俺までドキドキしてしまった。
結果は大成功。練習が実を結び、アイリーン様は嬉しさのあまり、涙していた。
「ピアノは嗜む程度だったと思うよ。今日の為に猛練習したんだよ。アイリーン様をびっくりさせたくて、頑張ってたみたい」
殿下も幼い頃から、アイリーン様一筋だった。
そんな二人が結ばれ、俺も嬉しく思う。
二人共、この日を待ちわびていた事だろう。
「王太子殿下はアイリーン様が大好きなんですね」
「そうなんだよ。惚気てばかりで大変なの」
(惚気るのは、バート様を信頼してるから……本当に王太子殿下と仲良しですね。男性の友情って素敵……お二人は親友って感じがするし、今後はお仕事まで一緒だし、羨ましい位)
俺の言葉を聞いて、ティアラはくすくす笑っている。
好きな人と一緒になる。貴族であれば、とても難しい事。王族なら尚更。
俺の周りでも身分差で恋を諦めたり、婚約者がいるのに他の人を好きになってしまい、苦しんでいる人もいた。
「俺も早く結婚したい」
素直に伝えると、ティアラの頬が赤く染まった。
「……私も二年後が楽しみです」
(毎日、一緒に食事をして、隣りに居て……お話して……これ以上にない幸せです)
ティアラの言葉にキュンとして、キスをした。「バート様……」
「ティアラ、これからも俺の側にいてくれる?」
「……はい!」
(明日、世界が滅びようとも一緒にいます!)
例えが重いから……
笑いを堪えてもう一度キスをして、抱きしめた。
愛しくて、胸が温かい……
幸せには終わりはないのかもしれない。
結婚して、愛を育んで、子どもを授かり、その成長を見守る。
「愛してる……」
窓から見える月に誓い、そっと願う。
ティアラとずっと一緒にいられますように……




