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王太子殿下の結婚の日──
国費は民のものであると考える王家は華美な式を避け、しめやかに婚姻の儀が執り行われた。
とはいえ、近隣の王族も参列している為、品位やパーティー、パレード、賓客や歓待について、臣下達を含め、会議に会議を重ねて、計画したそうだ。
「では、誓いのキスを」
殿下はベールを上げ、アイリーン様に口づけをした。
たくさんの拍手の中で二人が微笑む。その様子をティアラと一緒に見つめた。
殿下は白のタキシードを、アイリーン様は美しいレースのウェディングドレスとベールを纏っている。
その時、殿下がこっちを見てきた。
(ギル! 俺、幸せ……)
殿下は珍しく口元が緩んでいる。
俺も二年後が楽しみだな……
横にいるティアラを見ると、目が合った。
「お二人共、素敵ですね」
(アイリーン様、本当に綺麗……私も二年後には……! 待っていてくださいね、私も頑張りますから!)
感動したのか、涙目になっている。
こういうところも好きだな……
張り切るティアラの手をそっと繋ぐ。
「そのままの君が好きだよ」
耳元で囁くと、ティアラが目を細めた。
「そんな事を言って、私が甘いものばかり食べて、まんまるに太ったら、どうするんですか」
照れながら言ってくるティアラに笑いかける。
「可愛いかも」
「も、もー。あまり甘やかしていると、我儘になっちゃいますよ」
「なってよ。ティアラに甘えられるの、好き」
言葉にすると、ティアラは嬉しさを隠せなかったようで、ふにゃっと表情を崩した。
(甘えられたいんですか!? 子どもっぽいって思わない?)
期待と不安が入り混じった顔で見られる。
「思わないし、もっと甘えてほしい。……俺だけに」
心が読めると告白してから、俺はティアラに一層、言葉で伝えるようにしている。
俺が伝えると、ティアラは本当に嬉しそうに笑ってくれた。
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華やかなパレードでは、たくさんの花やドラジェが準備され、お二人は市井を回り、民に振る舞っていた。ドラジェは砂糖がけのアーモンドで『幸福の種』という意味があるらしい。
王太子殿下と王太子妃を一目見ようと、たくさんの人が集まり、賑わっている。街中、お祭り騒ぎだった。
小さい頃からお互いを一途に思い続けた王子と公爵令嬢の結婚は民からも支持され、観劇にまでなっているそうだ。純愛物語が特に人気で、チケットは取れない位。
「この国もこれで安泰だな」
「王太子殿下も王太子妃も昔から、教会のバザーを手伝ったりしてるんだって」
「頻繁に訪問して、子ども達に本を読んであげたり、勉強、編み物や刺繍を教えたりしてあげてるんでしょ?」
「一緒にクッキーを焼いたりもしているって聞いたわ。お抱えのパティシエではなくて、ご自分達でされるみたい」
「尊い立場なのに、優しくて偉いお人なんだなぁ」
「おまけに博学で努力家。市井によく目をかけてくれる方だし、きっと、もっと暮らしやすくなるわよ」
すれ違う人の言葉を聞き、自然と笑顔になった。




