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(良かった……一番理解してほしい人に分かってもらいたい気持ちはよく分かる……俺に感謝しろよ。俺が植物園に付き合ってくれって言った事がきっかけで二人は出会ったのだから)
殿下の言葉を聞いて、昔を思い出す。
俺とティアラの出会い……
あの時はまさか婚約者になるとは思わなかったな。
殿下と一緒に植物園に行っていなければ。
同じ学院に通っていなければ。
父上に婚約者として進められなければ。
コードウェルとの婚約を嫌がっていると知らなければ。
どれか一つ欠けても、今、一緒にいなかったかもしれない。運命は本当に分からない。
(ギルも成長したな……昔は友人も恋人も婚約者もいらないとか言っていたのに)
まるで親みたいな言い方だ。
思わず笑ってしまうと、殿下もつられて笑顔になった。
殿下は昔から俺の恋愛を心配していた。人嫌いで不器用だった俺を放っておけなかったのだろう。
「ありがとうございます」
一言だけ礼を伝えると、殿下は口角を上げた。
(ふふ。俺のお陰だと分かればいいんだ)
得意げな殿下を見て、肩を竦める。
「式、楽しみですね」
「準備は完璧だ」
(アイリーンのウェディングドレス、きっと綺麗なんだろうな……ここのところ、悪阻も落ち着いてきたし、思い出に残る一日にしたい)
殿下とアイリーン様はこの後、結婚式を挙げる。少しでもアイリーン様の名誉を守る為、懐妊の件については、王家の中でもごく一部のみに明かされず、国民への発表は頃合いを見て、行うそうだ。
アイリーン様を喜ばせる為、色々と準備を頑張っていたから、俺も楽しみだ。
「そういえば……」
殿下は言いかけて口を噤んだ。
(……進展はしたのか? 凄く親密になったようだし……もしかして一線を超えた? 言ってくれればいいのに)
「ケホッ」
その声を聞いて、持っていた紅茶を吹き出しそうになった。恨みがましく軽く睨むと、殿下は相好を崩した。
(俺とお前の仲だろ。いいじゃないか。それ位、聞いたって)
「……まだです」
口元をハンカチで拭いていると、殿下は笑いを堪えている。
そのやり取りを見て、ティアラが顔を覗き込んできた。
(王太子殿下と内緒話ですか? 狡い! 私ともしましょう。何を話してたのか、後で教えてくださいね)
ティアラから心へ話しかけられ、つい吹き出してしまった。




