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(今までの……やっぱり恥ずかしいので、変なのは忘れてください……)
ティアラは申し訳なさそうな顔で、お願いしてきた。
「そんな事ない。いつもティアラの素直な言葉に救われてたし、嬉しかったよ。俺、子どもの頃は人間不信で人嫌いの上、殻に閉じこもってたから……ティアラと出会えて、こんな自分でもいいんだと初めて思えた。俺は本当に幸せだと思う」
精一杯の想いを伝える。
子どもの頃は、誰も好きになれないと本気で思っていた。
ずっと一人かもしれないと、孤独も感じていた。
できれば届いてほしい。
(私の心を知った上で、『好きだ』と思ってくださったなら──ありのままの私でいいって事?)
ティアラが躊躇いがちに見上げてくる。
「心が綺麗な人って意外と少なくて……いつもはなるべく他の人と目を合わせないように気を付けていたんだ。読まないようにしてたんだけど、不意に聞こえる心の声に悩んだり、落ち込んだりしてばかりで……ティアラの心の声はいつも温かくて、ほっとして……何度、君の優しさに癒やされたか、分からない」
(そこまで言ってくれるなんて……だからなのかな……バート様は言葉で自分の気持ちを伝えてくれた)
ティアラの目が潤んでいる。そっと目元を拭うと、はにかまれた。
(バート様、王子様みたい……あ! つい、いつもの癖で……聞こえちゃいました?)
「うん、ふふ……」
耐えきれず笑ってしまうと、ティアラもつられて笑顔になった。
(バート様)
「うん?」
(これから内緒話がしやすくなりますね。手を繋ぎたいとか、これからこっそり頼みます)
ティアラの反応は俺の思っていたものと全く違っていた。完全に受け入れ、少し楽しんでいるようにも見える。
ティアラの優しさに包み込まれて、あの悩みは何だったのかと思える程。
生きてきた中で今日が一番、ほっとしたかもしれない。
髪を撫で、自分の方へ引き寄せる。
「ティアラ、大好きだよ」
「私もバート様が大好きです」
その時、俺の腹の虫が鳴った。
(え! 何、今の可愛い音!)
「お腹空いちゃったんですか?)
ティアラは笑いを堪えている。
「……緊張して、昨日の夜から何も食べてなかったんだ」
(笑っちゃって、ごめんなさい)
ティアラは黙ったまま抱きついてきた。
「あと……お願いなんだけど……この力は王家とレヴァイン家の密事なんだ。……ご家族や友人にも秘密にしてくれる?」
「はい。お約束します」
(私は将来、レヴァイン家に嫁ぐから、話してもらえたんだわ。立派な公爵婦人になれるように、勉強や社交にダンス、頑張ります! 安心したら、私もお腹が空いてきちゃいました!)
「まずは何か食べに行きましょう。ケーキはどうですか?」
(クラッシックショコラな気分だわ。でもスフレチーズケーキも捨て難い……)
いつもと同じやり取り……
こんな当たり前のように受け入れてもらえるなんて……
でも甘える事なく、俺も誠実でいよう。心の声が聞こえるのに驕らず、ティアラを大切にし、しっかりと言葉でも伝えたい。
──きっと今日の事を一生忘れない。




