12
無事にティーパーティーを終え、招待客も帰り、会場はガランとしている。
「ギルバート様。王太子殿下がお呼びです。自室に来て欲しいとの事です」
侍従に言われ、軽く会釈してから殿下の部屋へ向かった。
「楽しそうだったな、ギル。植物園の時の子だろ? あんなに優しい顔、初めて見たんだけど」
開口一番、そう告げられる。
「この前のお礼をされただけです」
「俺にはギルから話しかけに行ったように見えたけど? 何、貰ったんだよ。令嬢から何かプレゼントされても、いつも一切受け取らなかっただろ?」
見られていたのか。
何をどう言っても、突っ込まれるに決まっている。
「……」
黙りを決め込んだら、殿下がクッと笑った。
「お前、本当にどうしたんだ。女嫌いどころか人嫌いのだったのでは……?」
からかう気満々で疲れる。
「ちょっと喋っただけで、なんで、そこまで言われないといけないんですか」
ムッとして返すと、殿下が顔を覗き込んできた。
(ムキになるところが怪しい。遅い初恋ってやつか)
こ、恋⁉
頬が急激に熱くなる。
「そ、そんなわけないでしょう! 会って、まだ二度目ですよ!」
(ギル、真っ赤だぞ)
声には出していないが、ニヤニヤしている殿下を睨む。
「赤くありません!」
(そんな風に大声を出すのも珍しい)
「そ……それは……殿下が変な事を言うからで」
すぐに返せずに言うと、殿下は腹を抱えて笑っている。
「ギルにもこんな可愛い一面があったとは」
「は、はぁ⁉」
殿下までおかしな事を言ってきて、不敬とも取れる不機嫌な声を出してしまった。
「しっかり者のお前が取り乱していて、面白い」
面白いってなんですか。
「いいじゃないか、あの子。真面目で一途そうだし、ギルに似合ってると思う」
「……殿下」
「なんだよ。怒るなよ、ギル。お前にも幸せになって欲しいだけ」
肩をポンポンと叩かれ、溜息を吐き出す。
親みたいな事を言って……
「アイリーン様はお帰りになったんですか」
逃げる為に話題を振る。
「『もう少し一緒にいたい』って伝えたら、『私も』って言ってくれて……手……繋いだ」
殿下の頬が赤く染まる。
(可愛くて、どうしようかと思ったよ。手を握り返して恥ずかしそうに笑ってくれて、可愛かったなぁ……)
デレデレと惚気始める殿下を一瞥。
心の声も浮かれていて、花でも飛んできそうだ。
自分で聞いておきながら、もう帰りたい。
「俺さ、アイリーンに気持ちを伝えてから、毎日、幸せなんだ。ギルも素直になれ。今時、無愛想なんて流行らないし、意地張らない方がいいぞ」
緩んだ顔をして、殿下が笑う。
彼女の心の声はとても素直で綺麗だ。
それは否定しない。
恋……?
別にそういうのじゃない。
──胸が騒がしくなるのは、からかわれて居心地が悪いだけ。




