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『実は俺、人の心が読めるんだ』
『私の考えが分かるって事ですか?』
ティアラの顔が曇る。
『ずっと黙っていて、ごめん』
手を伸ばしたら、ティアラは一歩下がった。
『触らないでください。今まで心の中を勝手に覗いていたんですね! 気持ち悪い……』
その瞬間、足元が崩れ、どこまでも落ちていった。
ガバッと起き上がる。そこは自室だった。
夢か……
外では雨が降っているようで、朝なのに暗い。激しく鳴る胸を押さえた。
今のは夢だ……
けして秘密を明かしたとしても、ティアラはそんな風に言わない。
ティアラとの距離が縮まれば縮まる程、大き過ぎる隠し事が後ろめたくなってくる。
話して、もし笑ってくれなくなったら──
……そんなの、耐えられそうにない。
一生黙っているのは卑怯な気がする。でも事実を知ってしまってからの負担と苦痛は想像もつかない。
一方的に心の声を覗かれていた。何年も騙されていたと知ったら──
距離を取りたいと思うのが普通だろう。
俺の事を信じてくれているティアラに全てを明かしたい。
でも、それは本当に正しい選択なのか、分からないんだ。
✳✳
「なんだか元気ないな」
(ルアーナ嬢とまた喧嘩か?)
授業が終わり、教材を片付けていると、殿下が心配そうに覗き込んできた。
「違いますよ」
(また俺に相談してもいいぞ?)
違うと言っているのに、殿下は心の声で語りかけてきた。
「……ここだと」
一言だけ言うと、殿下の顔がパッと輝いた。
「じゃあ、生徒会室へ行こう」
(場所変えたら話す? あのクールなギルが俺に相談を……! 前に喧嘩した時にも相談されたし……俺、頼りにされてるんだな)
不敬だから突っ込めないけれど、なんだか浮かれた声が聞こえてくる。相談に喜んでいる殿下を見て、困ってしまう。
喧嘩じゃないけれど……
でも心の声を聞かれる事を幼い頃から受け入れてきてくれた殿下にも色々聞いてみたい。
生徒会室は誰もいなかった。
「……で? どうしたんだよ」
カーテンを閉めながら、殿下が聞いてくる。
「殿下は……俺の事、気持ち悪いって思った事、ないんですか?」
「どういう意味だ?」
少し驚いたように、殿下が振り向いた。
「日常的に心を読まれて……」
下を向いたまま告げると、殿下はソファに腰掛けた。
「お前も座れ」
「はい」
言われたまま座るが、やはり目は見辛い。
「顔を上げろ」
珍しく命令され、仕方なく殿下に目線を合わせた。




