11
もう少しだけ彼女と話してみたい……
周りの刺すような視線は気になるが……
俺はその場を離れなかった。
「レヴァイン様、あの!」
彼女は自分のポーチから小さな紙袋を取り出した。
──が、そのまま動かない。
(レヴァイン様もティーパーティーに参加されると聞いて、急いで紺のハンカチを購入して、白と金の糸で刺繍を施してみたけど……失敗した! 無難に市販のものにすれば良かったかも。『お礼はいらない』って言われたのに、恩着せがましい気がする。……やっぱりやめようかな。『女嫌い』って有名だし、手作りは嫌がるよね。今度、刺繍はなしで、普通にハンカチのみ買い直してプレゼントしよう! 『なんでもないです』って誤魔化せば──)
「……もしかして俺に?」
聞いていられなくて、口にしてしまう。
「え……と、これは……」
(話しかけといて紙袋を出したら、そう思われるか……どうする? 渡しちゃう? 刺繍は得意だけど、張りきり過ぎて複雑な模様にしちゃったから、何かのアピールだと勘違いされちゃうかも。公爵家の王子を狙ってると思われたら、どうしよう! レヴァイン様、けして下心はないんです! ただのお礼で)
だから王子じゃないってば。
あまりの動揺に、笑ってしまい、口元を隠した。
「……こ、この前の…………いいえ! 違います‼ やっぱり、なんでもありません!」
「ありがとう。お礼なんて良かったのに」
焦っているのが伝わり、その様子を見て、笑ってしまう。
(『お礼』なんて言ってないのに! あ、今、『この前』って言っちゃったから……もう逃げられない。こうなったら)
ルアーナ嬢が上目遣いで見てきた。
長いまつ毛が不安げに揺れる。
「……先日のお礼に」
一言だけ言うと、そっと紙袋を差し出された。
(刺繍の話はやめよう。黙ってれば、きっと分からないはず。それは既製品です‼ ……お父様もお母様も売り物みたいって褒めてくれたけど。手縫いだってバレたりしたら……どんな言い訳をすれば。そもそもプロと比べるのはおこがましいのでは? 公爵家のご令息なら目は肥えてるだろうし、こんな素人の刺繍、恥ずかしいかも……でも自分から刺繍したとは言えない……!)
明らかに挙動不審になる彼女を見たら、楽しくなってしまった。
「開けてみてもいい?」
「……こ、ここで⁉」
(目の前で中を確認⁉ いいえ、無理です!)
俺の言葉に動揺が見られる。
「今、見てみたい」
「家に帰ってからの方がよろしいかと」
「どうして?」
(どうして⁉ なんで、そんな事言うの? 見ないで!)
半分、泣きそうな顔を見て、吹き出す。
「……レヴァイン様?」
「あぁ、ごめんね。困ってるのが可愛くて」
(可愛い⁉)
心の声を聞いて、ハッとする。
つい、うっかり言ってしまった。
俺まで恥ずかしくなり、誤魔化すように袋を開けた。
取り出すと、繊細な刺繍が目に入る。
美しい白バラ。うちの家紋だ……
細かい模様は、時間をかけてくれた証。
「素敵な刺繍だね。ありがとう。大事に使うよ」
(良かった。笑ってくれた……)
笑顔を向けると、彼女は恥ずかしそうにはにかんだ。




