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「……お茶の準備、頼んでたから、後にしよっか」
「は、はい」
むしろ誰かが部屋にずっと居てくれたら、いいんだけれど。
その時、ノックの音が聞こえた。
「お茶の準備に参りました」
「どうぞ」
返事をすると、メイド達が入ってきた。
色とりどりのマカロン、ガナッシュ、マドレーヌが並び、二人はテキパキとテーブルセッティングを済ませていく。
「本日はティアラ様が前に美味しいと言っていた隣国の茶葉なのですよ」
「ありがとうございます。マカロンが色鮮やかですね」
会話を聞いていると、メイドが揃って振り向いた。
(ギルバート様! ティアラ様は初めてでしょうから、とびきり優しくしてあげてください!)
(小さい頃から見守ってきたお二人がついに……! 緊張がこっちにまで伝わってドキドキしちゃう)
(ようやく、お二人が結ばれるのね! 感極まって、泣いちゃいそう……)
生温かい声が聞こえ、たじろぐ。
な、なんで、する前提なんだ……!
「では、わたくし共はこれで……」
「仕事があるので、少し離れた場所におります。ご用がございましたら、ベルでお知らせくださいませ」
余計な気遣いが恨めしい。
二人はあっという間に部屋を出て行った。
「せっかくだし、冷めないうちに頂こう」
カップからはフルーティーな香りがした。
メイド達も皆、ティアラが好きだから、いつも喜ぶものをたくさん用意してくれている。
有り難い事だな……
一口飲むと、カップをソーサーに戻す音がした。
「バート様」
(なんだか甘えたい気分だわ……)
じっと見られ、顔が火照る。
甘えたいって……
つい口元が緩んでしまいそうになり、口端に力を入れる。
「何?」
平静を装い、なるべく普通に返した。
「隣に座ってもいいですか?」
(くっつきたい)
健気な声を聞いて、黙ったまま立ち上がった。
隣に座ると、ティアラが嬉しそうに笑った。
(バート様から来てくれた! 新婚みたいに食べさせちゃおうかな……)
「マカロンどうぞ。バート様の好きなレモンですよ」
口元に黄色のマカロンを持ってこられ、抵抗せず口を開ける。
(口、開けてる! 無防備なバート様、可愛い……ふふ。もぐもぐしてるわ。なんて可愛いの!)
恥ずかしい声が聞こえてきて、悔しくてティアラの手を取った。
「……バート様?」
マカロンを持っていた指先を口に含むと、ほんのりレモンの香りがした。
(指まで食べられちゃった……)
ティアラは真っ赤になっている。
「ティアラも食べて」
お返しに距離を詰め、ピンクのマカロンを差し出した。




