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成り行きを見守るなんて事は俺にはできず、その場に乗り込もうとしたら、周りにいた男達に押さえられた。
「レヴァイン様……」
二人はコードウェルの友人だ。
「どうか一度だけ見逃してください。あいつもルアーナ嬢をあなたから奪えるとは思っていません」
(長く拗らせた片思い……シアンも面と向かって振られれば、諦められるだろう)
「後生です。どうか言わせて貰えませんか? きっと最初で最後ですから」
(二人が相思相愛なのはシアンも分かってる。あえて皆の前で振られに行ったのは、区切りをつける為に違いない)
緊張した面持ちで言われ、言葉に詰まる。
諦めるために告白……?
あいつが……?
「子どもの頃は少しでも話したくて、ちょっかい出して気を引いたり、他の奴と話してると意地悪したり、本当に嫌な奴だったと思う。俺の方が先に求婚したのに、レヴァイン様を選んでショックだったけど、自業自得だと思ってた」
コードウェルの殊勝な独白に耳を傾け、踊っている人はほとんどいない。
好きな子を虐めてしまう心理は分からなくはない。でも許容できるかは別の話だ。
でも、こんなのを聞いたら、流石にティアラだって……
「彼に笑顔を向ける度、胸が痛くて──友人として過ごしても、やっぱり気持ちは変わらない」
コードウェルの台詞を聞いて、令嬢達がひそひそ言い盛り上がっていた。
女の子はこういう台詞が好きなのだろうか。
「ティア、俺の事を男として見て欲しいんだ」
真っ直ぐな告白。会場内は依然として静まり返っていいる。
「ごめんなさい」
コードウェルに対して、ティアラは間髪入れず頭を下げた。
「幼馴染として長年側で見てきて、家族や友人を大切にするところ、同じ委員で長を務め、そのリーダーシップや真面目さ、責任感の強いところは尊敬していますが、あなたを異性として見る事はできません」
静かにティアラが伝え、コードウェルは目線を落とした。
「私はバート様を心からお慕いしています。婚約者だからではなく、一人の男性として愛しているんです」
その言葉を聞いて、頬が熱くなる。
ここまで、はっきり断ってくれるなんて──
「……聞いてくれて、ありがとう。これからも変わらず、友人として接して貰えたら嬉しい」
コードウェルも潔く、その返答を受け取り、立ち上がった。でも寂しそうな横顔には哀愁が漂っている。
「はい」
短く告げ、ティアラは美しい淑女礼を取った後、俺の方へ歩いてきた。




