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「バ…………バート様も素敵です」
(淑女がジロジロ見ては駄目よ! で、でもこの格好……)
じっと見つめられ、必死に笑顔を作る。
「バラは本数によって意味が違うんですよね」
(いけない! つい口に出してしまった……! いくら気になったからといって──)
探るように言われ、カッと頬が熱くなる。
バラ一本の意味は『あなただけ』。勿論、知って選んだ。
伝えたら、絶対に喜んでくれるだろうけど……
恥ずかしくて言えない……
「……知ってるよ」
そう答えるのがやっとだった。
「あ、の……嬉しいです」
(バート様、真っ赤だわ! 知っていて一本にしてくれたって事!? スカーフもピンク色なんて初めて見たし……私の為に……? どうしようどうしよう。嬉しい……照れている顔、可愛い……格好良いのに可愛いなんて、反則よ!!)
大音量で入ってくる心の声に照れ笑いを隠せない。
嬉しそうな声を聞いて、俺まで幸せになる。
「……」
「……」
ティアラも真っ赤でお互いに言葉がなくなった。
(バート様、大好きです!)
ありがとう、俺も……
(キスしたいな……)
続く言葉を聞いて、ゴクリと喉を鳴らす。
駄目だよ、真後ろにルアーナ伯爵がいるだろ。
(バート様、好き……)
漏れる心の声にキュンとしてしまう。
キスは後で馬車に行ってから──
とてもじゃないけれど、ルアーナ伯爵の顔は見る事ができなかった。
「バート様……」
(まだ少し怖いけど、バート様ともっと近付きたい)
馬車に乗るなり、ティアラが隣に座ってきた。
大胆な行動にドキッとしてしまう。
(今日はルージュが移っても大丈夫なように、色々準備したんです!)
その言葉を聞いて、緩む口元を隠せない。
「大好きです、バート様……」
『俺も』そう返したかったのに、塞がれてしまった唇。
ティアラからのキス。幸せで目を閉じる。
一生懸命キスされて、動揺と混乱でグルグル考える。
無理しているんじゃ……
心配になるけれど、優しいキスに一瞬で思考が奪われる。
ぎこちなく唇を合わせられ、ゾクゾクと腰が震えた。
……こんなの、困る。
好きなんだ、ティアラ……
俺の為に頑張ってくれて、嬉しい……
肩にティアラの腕が回ってきて、目眩がするような幸せが溢れてくる。
馬車の中は二人きり……
誰も止める人はいなくて、キスは深くなっていく。




