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「セントバナー王国王太子、カーライル=ミリオン=セントバナーは、アイリーン=レイシアと婚約を結んだ。今後は後の王太子妃として敬意を払い接するように。本日はそれぞれの家門の発展を祈り、皆を招待した。これを期に交流を深めて欲しい。心行くまで楽しんでいってくれ」
さっきまでヤキモチを妬いて、人を邪魔者扱いした殿下はどこへ行ったのやら。
国王陛下は突然入った公務で不在。急遽、代わりの挨拶を務めた殿下は、笑顔でやり遂げ壇上を降りた。
いつも俺の事をからかってばかりだが、こういう立派な姿を見ると、流石、王族なのだと思う。
「王太子殿下、素敵……」
「レイシア嬢に微笑んでらっしゃるわ」
「羨ましいですわね!」
「幼馴染で仲睦まじいそうですよ」
こそこそと話す令嬢達。
婚約を発表したにも拘わらず、相変わらずの人気だ。
「ごきげんよう。レヴァイン様」
(将来有望、結婚したい令息一位のレヴァイン様がいらっしゃるなんて! 一番良いドレスを着てきてよかったわ! これを期に絶対にお近づきにならないと!)
「レヴァイン様は甘い物はお好きですか?」
(可愛いのと、大人っぽいのどちらが好みかしら。周りは皆、レヴァイン様狙いばっかりね! 無理もないわね、こんなに優良物件は他にいないもの)
「レヴァイン様、良かったら二人きりでお話しませんか?」
(目指せ、公爵夫人! いくらクールなんて言われても、女の子に好かれて嬉しくない男はいないはず! 押せ押せ!)
あまりの押しの強さに後退った。
表向きは王太子殿下の婚約者お披露目パーティーだが、令嬢達にとっては戦場である。
婚約者のいない公爵家の息子は俺だけ。どの子も親に言われているのだろう。必死に俺に話しかけ、接点を作ろうとしている。
同じように裕福な侯爵家や将来有望な伯爵家の跡取りの周りにも人だかりができていて、溜息が出た。
「レヴァイン様。今度、二人で出かけませんか?」
(抜け駆けしないでよ! ブスには負けないから!)
「私、素敵なお店を知っているんです。レヴァイン様、是非、私と!」
(伯爵家は引っ込んでなさい! 侯爵家のうちの方が上よ!)
開始して数分。すでに心が折れそうである。
正直、怖い。皆、他を蹴落としてやろうと息巻いている。
それに周りの令嬢に邪魔されて、なかなかルアーナ嬢と話せない。
彼女はどこにいるんだろう。
気になり、会場を見渡すと、すぐに桃色の髪を見つけた。
彼女は皿にケーキをたくさん乗せて、幸せそうに頬張っている。
立食パーティーだから自由に取っていいんだけれど、体裁を気にして食べている令嬢はほとんどいない。皆、婚約者のいない男の周りに集まっているのに。
……本当に興味ないんだな。
その様子が逆に気になる。
「悪いが、婚約者でもない女性と二人で出掛けたりしない。俺は食べ物を取りに行きたいから、これで失礼する」
ピシャリと言うと、その場にいた令嬢達は押し黙った。




