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第二章  英譚高校・学生/物語対策部・刑事 ~その2~

まだまだ慣れていないせいか、読みにくいと思うかもしれません。ですが、それでも読んでいただけたら嬉しいです。改善点や感想などありました、連絡コメントのほどよろしくお願いいたします!


 2


 茨咲さんが手渡したメモ紙にはLINEのIDと電話番号が記されていた。

 数少ない〈友だち〉の欄に、一人増えたことに若干の嬉しさ――など感じる暇もなく、陰湿ないじめを受け続ける怒涛とも言い難い日々を過ごした。気にするだけ鬱になるだけなので、とにかく無機質に過ごすが・・・・・・最近の若者は凄いな。現代のいじめというものは犯罪者と変わらないくらい、証拠を残さないよう入念に画策したいじめを行う。その熱量はどこから湧くのか、逆に感心してしまう。


 何はともあれ、茨咲さんとは都度都度連絡はしているが、あっちはあっちでどうやら忙しく、平日は会えないらしい。そこで今週の土曜日、場所は阿道町あどうちょうにある白雪通りで集合しようとなった。その間、茨咲さんは藍乃が自殺する前に何か変化はなかったか先生や他の人に聞いて回る、とのこと。茨咲さんが真相を探るべく行動しているのに、僕が何もしないとは言語道断。クラスメイトに話を聞ければよいのだが、いじめられている僕と関わろうとする物好きはおらず、僕は一人頭の中で整理することに励んだ。


 そうして時間は流れ、土曜日。


 僕は現在、阿道町の白雪通りで茨咲さんを待っている。もうそろそろ来てもいい時間なのだが、一向に茨咲さんの姿は見えない。一応、

『僕はもう到着しましたけど、茨咲さんはどうですか?』

 などと連絡してみたものの返事はない。それから数分ほど経った頃。

『ごめん;‹! 急遽、他の子も連れてくることにしたから遅れるかも;8‼ 適当に時間潰してて!』

 と、愛らしい蝸牛のスタンプ付きで連絡がきた。

「まー、仕方ないか」

 僕はため息をひとつ吐き、白雪通りの中へ入った。


 白雪通りはどこにでもあるような様々なお店やデパートが軒を連ねる商店街だ。特に街の中心部に位置することもあり、ひっきりなしに人が行ったり来たりしていてゴチャゴチャしている。ここに来たのもいつ以来か。たしか中学二年生が最後だったような気がする。覚えている範囲だと映画を観に行ったかな? どうだっただろう。そこら辺の記憶はどうやらあやふやになっているらしい。今じゃ、当時観に行った映画館がどこにあるのかは覚えていない。

 そういえば、どんな映画を観に行ったんだっけ?

 白雪通りを歩きながら思い出そうと努力してみるが、中々思い出せない。まあ、場所さえも覚えていないとなると、忘れてしまえるほどの作品だったのだろう。捻くれた評論家がいかにも言いそうなことを考え、少し嫌な成長の仕方をしているな、と思ってみては将来イヤな大人になる自分を想像して苦笑する。


「ちょっといい?」

 後方から声を掛けられ、振り向く。

「あぁーやっぱりそうだ。水扇兎音くんだ、覚えているかな? 一か月くらい前に取り調べを担当した木海月真実きくらげまことだよ」

 正直驚いた。まさかこんなところで、偶然にも出会うなんて想像もしていなかった。


 木海月真実刑事。今回の――いわゆる〈主人公喪失事件〉やその他の物語に関わる事件が起きた際、捜査及び事件解決に動く警視庁直属の物語特別対策部捜査第一課に所属している人だ。物語特別対策部の活躍は数多くあるが、一番有名なものとしては、部外者が主人公もろとも爆散しようと爆弾を持って迫ったテロを未然に防いだ、という事件である。木海月刑事が関わっていたかはわからないが、子どもの将来の夢ランキングでは毎年上位に食い込むほど、人気な職である。

 そして木海月刑事は今回の〈主人公喪失事件〉の捜査を行ったうちの一人。

 最初はお互い睨み合っていた。まるで犬と猿のように。だが今では、僕のことを悪者だと思っていない心優しき刑事さんだ。


「勿論覚えていますよ、あのときは本当にありがとうございました」

「いいって。君にはちゃんとしたアリバイもあったし、何より藍乃英雄を殺す動機も、自殺に追いやる動機も見当たらなかったしね」

 逆に君のことを犯人だと言い張る人物の方が怪しかったよ。

 と、付け加えるように話した。

「へー。それより今日どうしてここに? また別の事件の捜査ですか」

 うーん、と傾げながら木海月刑事は周りをキョロキョロと見渡し、

「ちょっとここじゃ話しにくいから移動しようか」

 僕は頷き、木海月刑事の後ろをついて行った。


 大通りを逸れ小道を少し歩く。白雪通りにこんな場所があるのかと少し驚いた。白雪通り〈大通り〉が現代のニーズに合わせたモダンな雰囲気であるのに対し、白雪通り〈小道〉は老舗が並ぶ古風な雰囲気を醸し出していた。


「ここだよ」

 木海月刑事が立ち止まった場所は、小さな喫茶店だった。店飾ってある看板は色褪せ、黒く塗ってある文字も所々削れており霞んでいる。入り口付近には立てかけ黒板に『本日のメニュー:おすすめ スパイス強めペペロンチーノセット』と、黄色のチョークで書かれている。


 誘導されるがまま、僕は店内へと入り窓際のテーブルに着席した。店内はおおよそ喫茶店には似つかわしくないシャンデリアが飾られており、店内の奥の方では店員がテーブルを拭いている。カウンターへ目をやると、古びた棚には幾つかのコーヒー豆が並べられている。テーブルや椅子はすべて木製で創られており、一つ深呼吸すると、コーヒーの香りそしてほんのりと木材特有の香りが鼻腔の奥を撫でる。

 昔ながらのレトロな雰囲気――どこかノスタルジックな気分に浸れる。

 奥の方でテーブルを拭いていた店員は、僕たちのいる方まで移動し、

「ご注文は」

 と、小さな丸眼鏡をかけた白髪の初老の男性が、ぶっきら棒に訊ねる。


「んーそーだな。どれにしようかなー」

「悩むぐらいならいつものでいいだろ・・・・・・そっちのは」

「じゃあ、僕は木海月さんと同じものを」

「・・・・・・はいよ」

 初老の男性はカウンターまで移動し作業を始めた。


「マスターの作るコーヒーはおいしいから、君も期待していいよ」

「マスター? てっきりこの店の従業員だとばかり」

「まー、なんて言うのかな、従業員兼店長ってとこかな。ここの店は正規も非正規も雇っていないんだよ。だからマスターが一人で仕込み、調理、清掃、会計全部をやっているのさ」

「大変そうですね」

「そうでもないって」笑いながら木海月刑事はマスターに目をやる。「あの人さ、こだわりが強くって客をえり好みしてんの。決まった人しか店に入れないから一人でも回せちゃうわけ。まっ、わざわざここまで来る物好きもいないし、マスターが人選ぶせいで商売繁盛とはいかないだろうけど」


 繁盛してます! という雰囲気はない。

 千客万来の体勢でいる他の店舗に比べ、店側にも客を選ぶ権利はある、と主張するようなこだわりがある人・・・・・・。

 嫌いじゃない。


「でも、どうして僕はOKなんですか?」

「それはね、僕が今度ここへ来るときに、『連れも一緒に来る』なんて言ったからだね。・・・・・・まあその約束は果たされなかったけどね、君が来てくれてよかったよ」

 話している木海月刑事は視線を下げる。

 懐かしくも遠い過去を思い出すように――ここではないどこかを視ているようだった。その瞳には哀愁が漂っていた。

 僕はそんな木海月刑事を見て、どこか既視感を覚えた。


 マスターはブラックのホットコーヒーを僕と木海月刑事の前に置いた。

 マスターのご厚意で、僕の分だけ角砂糖とミルクを用意してくれた。マスター曰く「ブラックを飲むなら、砂糖だのミルクだの入れてほしくねえ。お前はまだガキだし。サービスしとくよ」と、不本意そうな顔をしながらぶっきら棒に言った。

 どうやらマスターのこだわりは、お客だけじゃなくコーヒーにも同じように強いらしい。ただ、こだわりが強いあまり他者を寄せ付けないオーラが出ている。これではマスターが客を選ぶ前に、客が入るや否や踵を返してしまいそうだ。


「さて、ここなら誰にも話を聞かれる心配もないし、話の続きをしよう」木海月刑事はコーヒーを一口飲むと手を重ね、両肘をテーブルに置く。「大丈夫、ここのマスターは口が堅くてね。情報が洩れる心配はないよ。故に、ここは僕ら刑事の御用達の店なんだ」

 僕がマスターの存在を気にしていたのを察してか、木海月刑事はマスターに手を振って見せる。

 マスターは布巾で皿を拭きながら、ふん、と乾いた笑いを鼻でした。

 木海月刑事に御用達とまで言うのであれば、僕はもう何も言うまい。


「実はね、君の言う通り、僕は今捜査中なんだ。その捜査ってのも、他でもない〈主人公喪失事件〉。つまり、一度終わった事件を再捜査している。そのための情報収集を、ここ白雪通りで行っていたってわけさ」

「え? んん? 〈主人公喪失事件〉って、今回起きた? メディアの方でも・・・・・・、それに刑事の皆さんも解決しましたって、『自殺であることが判明しました』って。そう言っていたじゃないですか」

「戸惑うのもわかる。君が藍乃英雄を慕っていたことも、良き友人であったことも重々承知している。今になって蒸し返されても君が納得しないのもわかる。だからこそだ」

 だからこそ、聞いてほしい。

 木海月刑事は、僕への取り調べを行ったときと同じく、真剣な表情で話す。


 僕はどうしようもない、やるせない気持ちが身体を巡る。僕は(否、僕たちは)、藍乃の死の原因が主人公という重役に堪えきれず自殺を選んだ、そんな、藍乃英雄らしくない行動に納得できないから、こうして自殺の本当の原因について探ろうとしているのに。今じゃ、主人公の死よりも次の物語についてどうするべきかと、吠える薄情者共を当てにせず、前に進もうとしているのに。

 今更じゃないか。


「ああ、今更さ」

 ぽつり、心の中で呟いた言葉は意図せず僕の口から出ていたらしい。

 木海月刑事は、その言葉を肯定するように反復した。


「当時、捜査が打ち切りとなって、君は失望したんじゃないかい? よく知る人物が自殺し、警察はその原因について深く言及はせず、専門家やメディアや世論では〈メンタル面でヤられ、憔悴した結果〉と勝手に断定され・・・・・・。納得できないまま、納得できない結果だけを残して事件は沈黙した」

「・・・・・・・・・・・・」

「実際、この事件を担当していた僕自身も消化不良でね。この結果に納得していないし、失望もした。厳密に言えば幻滅したと言うべきかね。だからこそ、僕と同様の考えを持つ同志を集め、表では捜査打ち切りとなっているが、こうしてまだ捜査活動を行っているというわけだ」

 勿論、上司らも容認しているよ。と、一言添えた。

 つまり、表では原因が究明した終わった事件として取り扱われているが、裏では懸命な捜査が引き続き行われている、ということ。しかし、ならばどうして『事件性がないと断定できたため、捜査は打ち切りとなります』とマスコミの前で明言したのだろう。コソコソ捜査をするよりも、表立って行った方が貴重な情報提供もあり得ると思うのに。


「大体の状況はわかりました。でも疑問というか、そんな貴重な情報を僕なんかに話していいんですか? もしかしたら、僕が広めちゃう可能性もあるし。それに、第一表立ってやらないということは、極秘でやりたいということですよね。この話をした木海月刑事も僕も、ただじゃ済まないんじゃないんですか?」

 ついでにマスターも。

「別に極秘でもないし、秘密裏で捜査しているわけでもないよ。メディアやマスコミが追求してこないから、それに対する対応をしていないだけ。聞かれないから言わない。それだけの話さ」

「なら、わざわざ『捜査を打ち切る』なんて、言わなきゃよかったんじゃないですか」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 まずい、地雷だったかもしれない。

 木海月刑事は口を閉じ、沈黙する。そして静かにカップを持ち上げ、コクッコクッと喉にコーヒーを流し込み、静かにカップをソーサーに戻す。まるで自分自身を嗜めるかのように、一息つき僕を見据える。


「理由はふたつある。ひとつは、君にこの話をしたのは他でもない。取り調べしていくうちに君を信用できる、そう思ったからだ――とは言わない。そんな理由で君にこの話をしているようだったら、僕は刑事失格だろう。だから理由は別にある。君にこの話をしたのは他でもない、君にこの捜査の協力人となってもらいたいんだ・・・・・・バディと言えばわかりやすいかな? 僕は〈主人公喪失事件〉の真相について知りたい、君は藍乃英雄が自殺に至った真実について知りたい。君が協力してくれれば僕は嬉しいし、その見返りとして、僕は君にとって必要な情報を提供してやれる。利害は一致しているし、利害の一致による協力関係として手を組む方が、『君を信用したから話しただけさ』ってよりか、信憑性はあるだろ?」

 

 たしかに、わかりやすくはある。

 同情した共感したから貴重な情報を話す。それは悪い事だとは思わないけど、信用するするしないとは、また話は別。簡単に話す奴は守秘義務だとか、情報漏洩だとか、守らないといけないことを守れない奴だと思われても仕方がない。だったらいっそ、利害関係を結ぶことで、損得をお互いに被りフェアであると悟らせる。その方が明確でわかりやすく、そしてシンプル。


「そして、ふたつ。僕は今回の事件を早期に打ち切ったことに、不信感を抱いている。メディアで捜査打ち切りの発表があったのは、事件発覚から一か月経った頃だと思うが、実際はもっと早く打ち切っていたんだ」

「それが早く学校が再開した理由だったんですね」

「ああ。事件性は極めて低いと断定されたが、事が事、物語を紡ぐ一国を代表する主人公の死だ。事件性が極めて低い、とはいえ入念な捜査を行うべきはずなのに、警視庁本部からは『捜査打ち切り。中止』のご一報が入った。明らかに不自然だ」

「その不自然の正体を探りたい。そういうことですか」

「ああ。・・・・・・どうだい、協力してもらえるかな」

 

 思っていた以上にヘビーだ。今すぐに返事はできない。

 しかし急を要しているのは、僕も木海月刑事も同じだ。こんな話を最初にするということは、すぐに返事をしないとまずい状況に陥るのは僕の方だ。時間が経てば経つほど、僕が聞いた情報の価値は上がるし、外部に漏れる可能性もある。それに、木海月刑事が最初にこの話をしたことには必ず意図がある。おそらく、重要な情報を僕に開示することで、答えるための選択肢の幅を極端に減らしたんだ。となれば、この場で判断して答える以外の選択肢はないだろう。木海月刑事も僕の返答を待っているし、催促するような眼でこちらを見ている。


 こんなモノを風に考えるのも、生存本能だとか第六(勘)感なのかな。木海月刑事だってこの件に関しては本気だし、僕の返答が気に食わなかったら、別の手段を使って僕を犯罪者に仕立て少年院へぶち込むのも可能だろう。なんたって、瞳の奥は『そんなことを平然とできるぜ』ってな、本気の眼をしている。


 今の僕には拒否なんて選択肢は存在しない、と言っても過言じゃない。

 そう考えると、返事はごくごく自然かつ必然的――一択しかない。


「わかりました。真実を知りたいと思う気持ちは、僕も木海月刑事と同じです。協力します――ただし。提供する情報は何か、僕に教えてはもらえませんか?」

「よかった。じゃあ、これから君と僕は協力者であり、新たな同志ということだ」


 木海月刑事はテーブルの上に手を出し、僕は差し出された手を握り固い握手を交わした。

 新生凹凸相棒の結成だ。


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