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第四章  語り部/経験者 ~その1~

短めですが、読んでいただければ幸いです。

まだもう少し続くので、よろしくお願いします!

   第四章  語り部/経験者


 1


 英譚高校にある別館、演技指導室前。


 僕は木海月きくらげ刑事が用意してくれた盗聴用のボールペンと、盗撮用の眼鏡をポケットの中から取り出し、電源を入れる。


 盗聴用のボールペンと言えど、若干重いくらいで紙にも普通に書けるし、ただ盗聴という機能が付いただけであって、見た目も何の変哲もないただのペンだ。問題は眼鏡だ。この盗撮用の眼鏡は一般的な眼鏡と比べ、一回りごつい。大きいのではなくごついのだ。フレームとブリッジ部分は、太いかつ厚い。テンプル部分は一回り大きく、重量感がある。


 僕は盗聴用ボールペンを胸のポケットに入れ、盗撮用メガネを掛ける。

 やはり眼鏡の存在をどう、誤魔化すかが肝である。


 この盗撮用眼鏡はカメラやらバッテリーやら内蔵してあるため、一般的な眼鏡と比べて存在感がある。多人数の中にいたらバレやしないだろうが、一対一だと気になるだろう。


 指導室に入る前から、妙な緊張感が生まれる。


 どうもネガティブな方向へと考えてしまう。もしかすると全然バレない可能性を、頭の中から排除していないか? 案外どうとでもなるかもしれない。


 僕は一息ついて、勢いよく扉を開ける。


 周りを一瞥して様子を確認する。天宮あまみやは目の前の椅子に座っており、読書に勤しんでいるようだ。奥の扉は開きっぱなしになっており、相も変わらず、自己主張の激しい部屋となっている。前回来たときより、自身のグッズが増えているように感じる。


 僕をチラッと見た天宮は、気にも留めていない様子だった。

 全身黒色に統一されたスーツは、シルクのような質感をしており光沢を帯びている。全体的にすらっとした体形が前回見たよりも強調され、そこら辺のリーマンよりスーツ姿がよく似合う。かけられた眼鏡の奥で、薄く開かれた瞳が見える。ページを捲ると、そっと閉じた。

 

 毅然とした態度で僕と向き合うと読んでいた本を置き、眼鏡を取ると目頭をマッサージした。


「もし私に何か用事があるのだったら、事前にアポイントしてほしかったよ」


 天宮は立ち上がり、ひとつ溜息を吐いた。


「おや? イメチェンかい兎音とおと少年? そのメガネ、よく似合っているじゃないか」


 どうやら僕の眼鏡姿は、さほど違和感はないらしい。

 天宮は僕を頭の先から足先まで眺めると、ウィンクして魅せた。


 僕は「ありがとうございます」と軽く受け流す。


「それで、今日はどうしたのかな?」


 どうして僕がここにいるのか疑問に思っているのか、天宮は自分のネクタイをきっちり占め直しながら、訊ねる。


「今日は天宮先生にお話があって来ました」

「アポも取らないということは、急ぎのようだね。いいだろう、用件はなんだい? できればすぐに終わるといいのだけれども」

「大丈夫です。先生が正直に話してくだされば、すぐに終わる話です」


 含みのある僕の言い方に、天宮は眉間にしわを寄せる。


「そうか、なら手早く済ませよう! 私にとっては貴重な休憩時間だ。兎音少年、私に何でも訊きたまえ!」


 左手を胸に当て、右手を僕へ差し出しながら、さながら劇場の主人公のように振る舞う。


「そうですか・・・・・・では遠慮なく訊く前に、少し前置きからでもいいですか?」

「ああ、構わないとも」


 僕は、耳周辺の垂れた髪を耳の上に掛けるついでに、テンプル部分を撫でる。

 盗撮用眼鏡はタッチレス式を用いており、手や指をかざすだけで電源や録画をオンにできる。既に盗聴用ボールペンは入室する前に電源を入れているので、心配ない。


「僕は正直、人と会話することが得意じゃありません。明るく気さくに話すこともできないし、距離も詰めにくい人間だと自覚しています」

「そうかい? それは過小評価だと思うのだがね」

「いえ、違いますよ。人と話している中で言葉の真意を理解したり、相手から言葉を引き出すこともできない。読み合いも苦手ですし、駆け引きもうまくありません。正直荷が重いです。あんな取引をしなければ、先輩に任せたかった」


 天宮の表情が少し曇る。

 何かよからぬ雰囲気を察したかのように、顔をしかめる。


「・・・・・・ですが、僕も男です。一度イエス、と答えた以上やるべきことはやり切ります」

「兎音少年。君はさっきから何を――」


 僕は天宮が言い終える前に、遮るように被せて話す。

 できるだけ無頓着を装いつつも、声を低めて・・・・・・。


「単刀直入にお尋ねしますが、あなた、機密情報を洩らしましたね」


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