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みかん

作者: 青篝
掲載日:2023/02/15

私は、胃がんという病気になり、

その結果として、

胃の約3分の1を切除しました。

なので、週に5回食べる給食は、

いつも先に減らしてしまいます。


その日のメニューは、

ご飯に筑前煮、切り干し大根の和え物、

牛乳とみかんでした。

私は配膳されたメニューを見て、

まずご飯を半分ほどに減らします。

次に筑前煮は、

ゴボウを中心に減らします。

私はゴボウは苦手です。

切り干し大根も減らします。

牛乳は、お医者さんから

飲むように言われているので、

今日も頑張って

200ミリリットルを飲みます。

そして、最後にみかんを

配膳台に戻します。

これで、私の給食が完成です。

男の子はすごいです。

あんなに山盛りのご飯、

苦しくならないのでしょうか。

給食を食べた後は

昼休みに元気に遊んで、

私は羨ましく思います。


「みかん、食べないの?」


給食を持って、

自分の席に戻ろうとすると、

後ろから声をかけられました。

私を呼び止めたのは、

いつも静かに本を読んでいる

メガネで寡黙な水瀬(みなせ)君でした。


「うん…私、みかんは苦手なんだ」


私は、別にみかんは

苦手ではないのです。

むしろ好きなくらいです。

ですが、一つ食べようとすると

それだけでお腹が

いっぱいになってしまうから、

なんて言えませんでした。

俯いた私に、

水瀬君はふうん、と言って、

私が戻したみかんを

水瀬君のお盆に乗せました。


「俺は、好きだな。みかん」


水瀬君はみかんが好きみたいです。

4月にクラス替えがあって、

10月中旬の今まで知らなかったことを

私はそんなことで知りました。



それからしばらくして、

冬休みも近づいてきたある日。

その日のメニューは、

米粉パンにポトフ、

鳥の唐揚げ、牛乳、

みかんのゼリーでした。

私は慣れた手つきで

パンを半分にちぎり、

唐揚げとポトフを半分に減らします。

寒いですけど、

頑張って今日も牛乳を飲みます。

そして、みかんのゼリーですが、

今日は配膳台には戻さずに

水瀬君のことを探します。

水瀬君は、私のすぐ横にいました。

びっくりしました。

水瀬君は寡黙な分、

存在感もありません。


「これ、食べる?」


私はゼリーを指差して、

水瀬君に聞きます。

本当は、私はゼリーだったら

最後まで食べられます。

でも、私は明日は大事な検査があり、

甘い物は控えるように言われています。

私は検査の日程を恨みますが、

お父さんとお母さんに

心配をかける訳にもいきません。


「いいの?」


水瀬君は確認します。

私が黙って頷くと、

水瀬君は手を伸ばします。

ですがその時、一瞬、ほんの少しだけ、

私はお盆を自分の方へ引きました。

多分ですが、

私の顔は泣きそうになっています。

私は何をやっているのでしょうか。

私から差し出しておいて、

なぜ水瀬君の手を拒むのでしょうか。

水瀬君は動揺していましたが、

何も言わずに、

私のお盆からゼリーを取りました。

私は水瀬君から逃げるように

自分の席へと急ぎ、

陽の光があたる窓際の椅子に座ります。

すると、私を追うように

水瀬君が近づいてきて、

私の隣りの椅子に座ります。

そういえば、私と水瀬君は

隣りの席でした。

私は気まずさのあまり、

いただきますも言わずに

パンにかじりつきます。

冷めない内にポトフを食べて、

無駄な衣を剥がしてから

唐揚げを食べます。

太陽のおかげで丁度いいように

ぬるくなった牛乳を飲み、

私は席を立とうとします。


「待って」


椅子を引こうとしたその瞬間に、

私は水瀬君に呼び止められました。

無視することも考えましたが、

私は水瀬君の方に顔を向けます。

すると、水瀬君は小さな

プラスチックのスプーンに

1口のゼリーを乗せて、

私の方へと持ってきます。

一欠片分のみかんと、

淡い橙色をしたゼリー。

私が戸惑っていると、

水瀬君は微笑みました。


「大丈夫、1口くらいなら

そんなに影響しないから」


その言葉を聞いて、

無意識のうちに私は

口を開けていました。

パクリとスプーンを口に入れ、

唇で確かにゼリーだけを口に残します。

ゼリーの甘さとみかんの酸味が

広がっていき、

鼻から爽やかな果実の香りが抜けます。

私は、水瀬君にお礼を言おうと、

改めて水瀬君を見ます。

水瀬君は、頬を紅潮させながらも、

同じスプーンで残りのゼリーを

あっという間に食べてしまいました。


きっと、私と水瀬君は今、

同じような感覚を味わっています。


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