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昨日今日での再会

ブクマありがとうございます!

また暫くこちらの執筆に専念します(^o^)※遅筆なのは変えられません←


 次の日は、窓から刺す太陽光と鳥の鳴き声で朝を迎えた。昨日とは打って変わっての晴天である。


 ソファーでが覚め、見知らぬ天井と床に転がるダンダリオンを見て現状を思い出したドロシーは、瞬時に昨日までのことはすっぱりと忘れることにした。


(あれは悪夢だった。そう思って忘れることにしよう)


 再会から昨日までの淡い気持ちをなかったことにして切り替えたのが良かったのか、その日の予定は順調に進んだ。


 叩き起こしたダンダリオンを引き連れ、療養院にいるゴゲンとカンナ夫妻の元を訪れた。前置きしてダンダリオンを紹介したが、カンナにはやはり相当怖かったようで、終始ゴゲンの横たわるベッドに隠れるようにして話に加わっていた。


 それでも、ドロシーが二人の探し人であるカリーナことカミーユの弟子であること、ダンダリオンはカミーユの()()()仲間であることを説明すると、恐怖と警戒は少し解かれたように思える。


 ドロシーの身分を明かし、ゴゲンとカンナをドロシーの故郷であるグリエッタに連れて行くこととその理由を話すと、二人は驚きと戸惑いを見せた。が、他に手段がないことは二人も承知しているのだろう。ドロシーの「どうですか?」という問い掛けに、ゴゲンはまばたきで答え、それを見たカンナは石板に『()んなさまの い()とおりに()()』と書いて見せてきたので、一行のグリエッタ男爵領行きが決まった。


 まばたきで判断できる会話形式でダンダリオンとゴゲンが話し合った結果、出発は三日後。これは看護師とも話し合ってゴゲンの体調を考慮したのと、馬車や食料の準備、そしてドロシーの周囲へ話を通す時間が必要だったからだ。


「じゃあ、私は一旦屋敷に戻るけど、後の準備は任せた」

「おう、勿論だ。俺はお前を雇う身だからな。前準備は万端にしておく」


 昨夜あんなことがあったというのに、ダンダリオンの対応はいつもと変わらない。それもそのはず、ダンダリオンが酔っ払っていた時の記憶は、一度寝たら綺麗さっぱりと消えているのだ。その時起こした様々なやらかしは、彼の普段の人柄に免じて無かったことにされている。イジるのはカミーユ位だろう。


 ドロシーも朝に叩き起こした際、「途中から記憶がない……」と語るダンダリオンに「間違って私の酒を飲んで爆睡していた」としか告げていない。


 昨晩のこと――カミーユと間違えられたことは腹立たしくないといえば嘘になる。

 

 しかし、そもそもダンダリオンの気持ちがカミーユにしか向いていないことは最初からわかっていたことで、最初から当たって砕けろ精神で挑んでいた筈。駄目で元々で駄目だっただけで殆ど予定調和と言ってもいい。ダンダリオンに対して、怒りを向けるのはお門違いなのだ。

 

「このまま屋敷に戻るのか?」

「ん? うん、そのつもりだけど……?」

「なら、貴族街までの近道を教えてやろう。かなり時間短縮になる筈だ」

「え、そんなのがあるの? 助かる」


 ドロシーはあまり王都を訪れて仕事をすることがない。訪れたとしても護衛任務の一環での滞在の為、あちこち出歩くことはない上、終わった途端に次の仕事を受注する為、王都の地理をそれほど把握していなかった。


 ダンダリオンに連れられて向かった先はメインストリートから外れた建物の間にある細道。昨日、黒蠅を追うために入った路地裏よりは格段に明るいが、入り組んでいるのか先が見えない。


 昨日の捕物を思い出し、面倒事に巻き込まれやしないかと眉を寄せ、リュックの肩紐を硬く握る。リュックには、ようやく受け取れた腐り狼退治の高額報奨金が入っていた。

 

 その緊張が伝わったようで、ダンダリオンが指先で頬を掻きながら苦笑する。

 

「裏道や路地裏を通ることにはなるが、まあ、そこまで治安は悪くないから安心しろ」 

「本当? ようやく報奨金貰えたのに、奪われるのは御免被りたいんだけど」

「大丈夫だ。俺も何度か使ったことがあるが、厄介事に巻き込まれたことは一度もない。心配なら、俺が後ろに付くか?」

「そこまで子供扱いしないでほしいかな。さっさと行こう」


 ダンダリオンの脇腹を肘で小突き、先を促し、彼を先頭に細道に入る。中はやはり入り組んでおり、右へ左へと何度も曲がる。道は複雑だが、人通りも無く、足取りは実にスムーズだ。


 だが……。


「……おっと?」


 二人の前には大きな壁がそそり立つ。行き止まりだ。

 

「すまんすまん、先程の突き当りの分岐は左だったみたいだ。戻ろう」

「これで何度目の戻ろうだよ……。本当に近道になってるんだろうねえ?」

「大丈夫だ。多分、左に真っ直ぐ進むと広い道に出るから、そこまで行ったら貴族街までは目と鼻の先だ」

「『多分』ね……」


 どうやらダンダリオン自身、あまりこの近道とやらを把握できていない様子。些か不安を覚えるが、ここまで来てしまった以上は戻る方が時間の無駄だ。踵を返し、ドロシーが先頭になる形で元来た道を戻り、真っ直ぐ進む。


 果たして、ダンダリオンの言った通り道幅が広くなり、人や馬車が通り過ぎていく音や光景が少し遠くに見えた。


どこか安堵するような響きを含んだ「ほらな」という声が背後から聞こえたが、まだちゃんと目的地に辿り着けているのかどうかわからない。肩を竦めただけで何も言わず、歩を進めていた。


 不意に、向こう側から人影が幾つか路地裏に入り込んでくるのが見えた。互いに一列になれば問題なく擦れ違える道幅だ。足を止めることなく突き進む。


 彼らも近道をするのだろうか――そう思っていた次の瞬間、先頭の人物が壁に向かって何かを思い切り投げ付けた。響く痛々しい衝突音と「くあっ!」と甲高い悲鳴。硬い壁に叩きつけられたのが人間であると瞬時に察しがつく。更に続く殴打音と短い悲鳴。思わず足を止め、ダンダリオンと顔を見合わせる。


「……何が『厄介事に巻き込まれたことはない』、なの?」

「いや、その……本当に俺は巻き込まれたことはないんだが……」

「私の所為ってこと?」

「そ、そうは言ってないだろ」

「まあ、まだ巻き込まれる寸前だったから良しとする。少し戻ったら脇道あったよね。そっから表通りに出れないかな」

「待て待て。助けないのか? 見たところ、一対三だぞ?」

「なんで他人の喧嘩に首突っ込もうとするのさ? 人が良いのもいい加減にして、やるべきことの優先順位を考えてよ」

「それはわかっているんだが……」

「お前らそれはやべーって!!」


 突然の大声に、何事かとリンチ現場へと視線を返す。どうやら一人が抜き身の長剣を持ち、一人がそれを止め、一人は相手を地面に押さえつける為に馬乗りになっているようだ。押さえつけられた相手のうーうーと唸るくぐもった声が聞こえる。


「うるせえな! 別にこんな手癖の悪い手ぇ切り落とすくらいなんでもねーだろうがよ!!」

「なんでもねえわけねえだろうが馬鹿野郎! 悲鳴聞き付けて警邏呼ばれたらどうすんだよっ!」

「オレが口も押さえてるから大丈夫だって。大体、自業自得なんだよ、こいつは。人様から盗みを働こうとしやがって。悪いことをしたらどうなるか、しっかり教えてやった方がいいだろ、うっ! とぉ」


 馬乗りの男が、掛け声と共に一発食らわせたのだろう。ゴキイッ! と大きな殴打音が響いた。


「ドロシー、これはまずいぞ……!!」

「血生臭くなってきたねえ」

「なんでお前はそんな落ち着いているんだっ!」

「だから他人事だし。ってか、悪いのは相手の方っぽくない?」

「だからといって、このまま見過ごす訳にはいかないだろう!」

「え〜……」


 ドロシーとしては放っておきたいのだが、来た道はダンダリオンに塞がれていて戻ることができない。面倒臭い、と深いため息を吐く。

 

「お前ら、ガキ相手にこれはもうやり過ぎだって!」

(……ガキ?)


 こうなったらダンダリオンの好きなようにさせようと体を壁に寄せようと思った時に、そんな言葉が聞こえて動きを止め、じっと目を凝らす。そこで初めて転がされているのが小さな体であること、男が掴んでいる髪が黒髪ということに気付いた。ドロシーの脳裏に、昨日相見えたスリ少年と、彼を守ろうとする母親の姿が過ぎる。

 

「ごちゃごちゃうるせえ! なんならテメーごと切ってやってもいいんだぞ俺はよぉ!」

「うわっ! お、おい、落ち着……」

「おい糞ガキ! 恨むなら俺の金を狙ったことを恨むんだな!!」

「間違ってオレを刺すなよ〜」

 

 男が剣を垂直に持つ。その切っ先は手首に向けられているのだろう。そのまま真下に下ろされれば、幅広の長剣に小さく細い手首は一刀両断されるのは間違いない。


 瞬間、ドロシーは動いた。


 距離はある。幾らドロシーが俊敏でも、間に合わない可能性がある。だが、相手の恐怖を煽っているのだろう、ゆっくりと剣が持ち上げれているのが幸いした。後ろに手を回して腰の筒からボウガンを手に取り、(えびら)から出した矢を番う。幼い頃から何度もしてきた動きであり、手元が狂うことはない。

 

 凄まじい早さで放たれた矢は、狙った通り長剣に命中。矢の勢いで軌道を逸らされた長剣が地面を転がるが、男達は何が起きたのかわからなかったようで動揺してキョロキョロと辺りを見回している。


 長剣を持っていた男と目があった。


「だ、誰だ! てめぇ、は……」


 威勢よく誰何されたが、すぐにトーンダウンした理由がドロシーの背後にあるのは明白。後ろを見なくても感じるダンダリオンの怒気は、他人から見たら殺気でしかない。


 ダンダリオンにギロリと睨まれ顔を青くした男達は、「ひいっ!」と情けない声を出して、這々の体で一目散に逃げて行った。


「……こういう時のダンダリオンの容姿は得だね。何も言わなくてもいいからかなり楽だわ」

「……褒めてるんだろうが、あまり嬉しくないぞ」


 肩を落とすダンダリオンを尻目に、ボウガンを戻して、捨て置かれた人影に歩み寄った。


ジャンル、ファンタジーといっても大丈夫だと思い始めたり。

お読みいただきありがとうございました♪

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