対策会議・中
今回は会話文多めです。
後から付け足すかもです。
「おまちどうさま!」と注文した飲み物と料理が届く。湯気の立つカップから漂うのはお湯で割った安い酒の香りだ。静かに口に含んで喉を潤す。
「そーみたい。で、どうする?」
「どうするって……そりゃあ、カミーユを捜すに決まってるだろう」
「どうやってあの神出鬼没な師匠を見つけるのさ? あんなに特徴的な人なのに噂なんて聞かないし、どこに居るのか検討つけられないじゃん」
「確かに……ドロシーは知らないのか?」
「当たり前でしょ。だって、今北に向かってるのにやっぱ西に行こうって出発したかと思ったら南に行ってて、戻ろうとして東に向かう人だよ? しかも道を矯正してても気を抜いたら間違った方に行かれるし。意味分かんないよ、あの人の思考回路は。一緒にいるとき本当大変だったんだから」
「す、すまん。悪かった、落ち着け」
「ってか、仮に師匠を見つけたとしても、師匠があの二人の世話出来ると思う?」
「それは…………………………思わん」
「でしょ? ゴゲン殿は何を以て師匠が世話してくれると思ったのかね。まあ、百歩譲ってカンナ殿のことは引き取れるってなっても、カンナ殿がゴゲン殿から離れそうもないけど」
寝たきりの老人に愛情を一心に傾けている娘の姿を思い出して再び酒を呷る。
「そうなのか?」
「そうなの。多分、ダンダリオンが師匠を想う気持ちと一緒じゃない?」
特に感情を込めず、勢いに任せて無意識に発した一言。
ダンダリオンはキョトンと間抜けな顔をした後、瞬時に顔を赤くし、大きな音を立てて立ち上がった。
「な、な、何を言ってるんだお前は! お、俺は別にカミーユのことなど何とも思ってないぞ!?」
「ちょ、ダンダリオン座って! 声でかい!」
一気に静まり返った店内。誰もが静止し、ダンダリオンを見ていた。注目を集めたダンダリオンが「……す、すまん……」と身を縮めながら腰を下ろすと、徐々にざわめきが戻る。
「……何やってんの……」
「お、お前が突然おかしなことを言い出すからだろうっ」
「おかしなことって……ダンダリオンが師匠をどう思ってるかってこと? 今更でしょうが」
「い、今更って、お前、何を……俺は、別にカミーユのことは……」
「だから今更でしょって。元恋人なんだし」
「はぁっ!? おま、なん!?」
「いや声でかいってばっ!!」
顔を真っ赤にして動揺を顕にするダンダリオンの口を両手で抑える。周りの視線が少し痛い。
「……もしかして、忘れてる? 初対面のとき、師匠からそう紹介されてたんだから、そりゃ知ってるよ」
眼を瞠られた様子を見るに、どうやら完全に忘れているようだ。まあもう何十年も前の話だ。忘れていても仕方がない。
「まあ、そういうわけだから、いちいち動揺して大きな音出さなくていいから。わかった?」
コクコクと頷く赤い顔を見て手を退ける。
(あれだけ師匠の世話焼いたり見たりしてるくせに、周りに気付かれてないと思ってたのか、この人は……)
呆れ半分、奥ゆかしさ半分で苦笑う。
「兎に角、ゴゲン殿とカンナ殿のことだけど、あれは鴛鴦の契りの如く、離れることはないだろうよ」
「そ、そうか……」
羨ましいな、と微かな呟きが聞こえたがスルーだ。
正直、ゴゲンとカンナの関係性を盛っているとのではないかと言われたら否定はしない。ただ、祖父と孫程離れた相手と結婚したとなればそれ相応の覚悟をしているわけだろうし、何よりあの泣き腫らした顔で、涎まみれのゴゲンの口に平気でキスを出来るような女だ。余程離れがたい相手なのだろうと思う。
私にはよくわからないけどね、と心中で呟いてカップを空にした。
ここから暫く、周りの音が響くだけの静かな食事時間になる。
温かな料理に舌鼓を打ちながらダンダリオンを盗み見れば、考えているのだろう、真剣な顔でテーブルを睨み下ろしていた。
女神アルマナの天罰により寝たきりになった老夫の世話をしなければならない啞の若妻――これからの人生は過酷なものになるのは想像にがたくない。
自身も寝たきりの父を持つ身。その苦労と負担はよくわかっている。
「……あ」
病床の父エーミールのことを思い出した途端、天啓が降りてくる。
「ねえ、ダンダリオン。二人を安全な場所で匿いながら師匠を探す方法を一つ思いついたんだけど」
「なんだ?」
「二人をグリエッタに住まわせて、その間に師匠を探すってのはどうかな?」
「お前の故郷にか? 何故だ?」
「最後に師匠と別れた時、『またグリエッタに遊びに来る』って言われたのさ。師匠あんなのでも言ったことは必ず守る人間なのはダンダリオンも知っての通り。だから、グリエッタにいればいつか師匠に会える筈」
死んでなければ、という余計な一言は寸で呑み込む。
「かと言って、二人をグリエッタに預けてハイ終了ってわけじゃなくて、同時進行で他の依頼しながら各地で情報収集しながら師匠も探す。これなら女神との約束も破らなくて済む、足手纏いも抱えずに済むで一石二鳥だと思うんだけど……どう?」
小首を傾げてダンダリオンの顔を覗き込めば、オリーブ色の目が何度も瞬くだけで、返答がない。
「何、その表情。駄目だった?」
「あ、いや、すまん。確かに、二人を何処かに預けて、俺一人でカミーユを探すつもりだったからその提案は有り難い。ドロシーの故郷であれば安心だし、高い確率でカミーユが来るというのであれば合理的だ。……しかし、迷惑ではないのか? 二人共、その……体に問題があるから、領民たちからあまり良い目では見られないのでは……?」
「まあ、他所だったら殆ど労働力にならない穀潰し扱いされてもおかしくはないけど、まずうちはよっぽどの訳ありや悪人でない限り来る者は拒まず、去る者は追わずだから問題ない。村には使われてない家沢山あるから住み家の心配もない。仕事も、口より体を動かす系ばかりだから、話が通じれば喋れなくても大丈夫。あとは、そうだね、多少色を付けてくれたら、周りもゴゲン殿の世話も快くやってくれると思うよ。他に質問は?」
「……無い」
「異論は?」
「無い」
「じゃあ、決定ね。ゴゲン殿に話をつけに……」
言いながら窓を見れば、窓を割らんとするように叩き付ける雨が目に入る。
「……行きたかったけど、無理っぽいね」
「時間的に、行っても療養院の門も閉まる頃だろうしな」
「そっか。じゃあ、明日だね。後は……寝たきりのゴゲン殿を運ぶための馬車が必要か。人手は最低でも私とダンダリオンがいればなんとかなるけど、どうする? 雇う?」
「お前も来てくれるのか?」
「依頼してくれればね。まあ、うちの領地に行くんだし、私が一緒に行った方が話が早いじゃん。第一、ダンダリオン一人で二人の世話は無理でしょ」
「……確かに……。正直、あまり他人を雇う余裕はない。手を貸してくれるか?」
「勿論。……って、依頼で思い出した。先日の報奨金を貰いたいんだけど」
「ああ、すまん。腐り狼のだな。忘れていた」
「私も。本来金を受取にきただけだったのに、あれやこれや起きて貰いそびれてたよ」
「今回の依頼金も渡したいから、食事の後に部屋に来てくれるか?」
「了解。あ、酒おかわり」
「俺には白湯をくれ」
眼の前を通り過ぎようとしていた年増の店員が「はいよっ。少しお待ち下さいね! ちょいとあんた、この席に……」と言って、別テーブルに料理を運びに行った。
お読みいただきありがとうございました!




