対策会議・前
以前出した情報を少し削除しました。あとの話で初出しのように書くのですが、スルーしてくださいませm(_ _)m
あと今回(個人的に)グダグダしてます
行きは走り抜けた道を、帰りは悠々と歩く。貧民街の人々は相変わらず様々な視線を投げ掛けてくるが、ドロシーは我関せず。その堂々とした歩みに付け入り難さを感じ取った住人たちは、忌々しげに獲物を諦めていた。そのお陰で、ドロシーは難なく貧民街を抜け出す。
ダンダリオンの宿泊している宿の名前は前もって聞いていた。平民街の騒がしいメインストリートを外れ、表から一本大きく外れた通りがある。こちらの道は表通りのような華やかさも慌ただしさも少なく、旅人よりも王都住人たちの姿の方が多い。現在地からそこまではやや距離があるが、急ぐ必要はない。
というか、これからについて考える時間が欲しい。正直、対策を講ずるというよりは腹を決めるための無駄な足掻きとも言えるのだが。
ゆっくりとした足取りでダンダリオンの待つ宿屋へ向かおうとするドロシー。
しかし、そうしたドロシーの考えを嘲笑うかのように、ぽつ、と頬に水滴が当たる。指先で拭い、空を見上げると、いつの間にか曇天に変わっている。ぽつ、ぽつ、と静かに落ちだした雨は、あっという間に本降りとなり、人々は慌てて軒先や家路を急いでいた。
ドロシーも慌てて近場の軒先に避難する。暫く待ってみたが、止む気配はない。それどころか徐々に雨足が強まっていく。
「久し振りの雨だな」「長雨になるかもねえ」と周囲が話している中、荷物から樹液を塗って防水加工を施したフードを取り出し、纏った傍から走り出す。
(ついてなさすぎる。というか、王都に来てから、予定外のことが多くないか? 気の所為? 気の所為であってほしい)
慎重派を自負するドロシーとしては、ここまで予定通りにならない運の悪さに得も言われぬ不信感を抱く。
とはいえ、運という不確定要素をどうこうできるわけもない。モヤモヤしながら、人の少ない通りを駆け、待ち人がいる筈の宿屋に到着。
押し戸を開けると、カウベルが大きな音を立て、「いらっしゃいませ!」と店員の声と温かな熱気がドロシーを迎え入れる。店内は二階が客室で、一階は食堂という造りになっており、雨のお陰もあってか客が多い。
入った瞬間から、扉を気にしていたであろうカウンター席のダンダリオンと目が合った。
「ドロシー!」
「お待たせ。ちゃんと盗まれたものは取り返したよ」
のっしのっしとやってきた巨体に革袋を差し出す。ダンダリオンは一度目を見開いてから、嬉しそうに目を細めて受け取った。
「ありがとう、ドロシー。……その、すまんな。俺がノロマなばかりに、余計な面倒をかけてしまった」
「気にしないで。ダンダリオンの物は私の物でもある。取り返すのは当然だからね……うわ」
「おいおい、すっかりびしょ濡れじゃ、ない、か……」
言いながら頭からフードを脱ぐ。脱いでからドロシーも気付いたが、頭から足先まで全身雨まみれだ。濡れた柘榴色の髪から大粒の水滴が零れ落ち、肌に張り付く衣服の感覚に不快感を覚える。脱いだばかりのフードを広げて見れば、ポツポツと穴が開いていた。
「最悪……。虫に食われてたっぽい」
「い、いや、そんなことより……。き、着替えはあるか?」
「そりゃあ、勿論」
「早く着替えなさい。風邪を引くといけないし、それに……」
「それに?」
「……と、兎に角、俺が借りている部屋に行こう。話はそれからだ」
「? うん?」
仄かに顔を赤くしたダンダリオンはフードを奪い、ドロシーの体を覆い隠し、肩を抱いて急ぎ足で部屋に向かう。
この時、張り付いた衣服がドロシーの女性らしい体を強調させており、近くにいた男たちの下卑た視線を集めていた。ダンダリオンが動揺していたのはその所為なのだが、当の本人は全く気が付いておらず、なんならダンダリオンに肩を抱かれて一度胸を高鳴らせていた。
ダンダリオンの部屋は二階に上がったすぐにあった。店員から借りたタオルと鍵を渡され、「しっかり体を拭くんだぞ」と押し込まれた部屋は二人部屋のようだ。ベッドとテーブルとソファーがあるだけで、ソファーにはダンダリオンの全財産となった大きな荷物が置かれている。
何故二人部屋……? と、疑問が過ぎったが、恐らくダンダリオンの巨体に見合うベッドがこの宿に無かったからだろう。くっつけられた二つのベッドを見て苦笑する。
(ここまで来たら、もう後には引けないな)
荷物をソファーに置き、適度に水分を取りながら着替えを始める。例え名前をはぐらかしたとしても、特徴を挙げればダンダリオンは間違いなく捜し人がカミーユだと検討を付けるだろう。
今もまだ思い続けているであろう相手を捜すことになると知ったら、ダンダリオンはどんな顔をするだろうか……大体の想像をつけ、重い気持ちになる。
最後に濡れた服を壁のフックに掛け、食堂に向かった。
「お待たせ」と端の席に座るダンダリオンの隣に腰掛ける。
「……おいおい。俺はしっかりと拭いてから来いと言わなかったか?」
「言ったね。拭いたじゃん」
「適当にも程がある。お前も女なんだから、少しは身嗜みに気を遣え」
「わ」
呆れ顔で首にかけていたタオルを取られ、そのままガシガシと頭を拭かれる。それを女性の扱いとしてはどうなのだのだろうかといったところだが、ダンダリオンに世話を焼かれる喜びに顔がニヤけた。
「体が温まりそうなの適当に注文したぞ。金のことは気にするな。取り返してくれた礼として俺が出すからな」
「ん、ありがと。ご馳走になります」
「こちらこそだ。さて、早速だが、ゴゲン殿はなんと?」
「……あー……。……すっごい言いにくいことで、落ち込まないで聞いてほしいんだけど……」
「いつものことだ。覚悟は出来てる」
とか言いながらいつも落ち込んでいるよなと思うが突っ込まないでおいて口を開く。
ゴゲンの意識はあるが体の殆どが動かせない状態であること、カンナの口は聞けないが文字での会話が可能なこと。二人の状態を聞くと、ダンダリオンはショックを堪えるように手で口を覆う。
「……大丈夫?」
「……ああ。……そんな状況なら、一刻も早くお二人をお知り合いの元までお連れしないといけないな……」
「いや、それもなんだけどさあ……」
「どうした? まさか、捜し人の情報が得られなかったのか?」
「いや、そこはなんとか大丈夫だったけど。……まあ、私が今から言う特徴を聞いて判断してほしい」
「うん? わかった」
「ゴゲン殿の知り合いって、カリーナって言う人なんだって」
「カリーナ……女性だったのか?」
「うん。まあ、偽名なんだけどね」
「偽名?」
「年はカンナ殿からおばちゃんと呼ばれる年齢」
「ということは、俺くらいだろうな」
「職業は傭兵」
「同業者か」
「特徴は、赤い髪と赤い瞳」
「ふむ……」
「小柄な体」
「……ん?」
「武器は大剣」
「……ちょっと待て」
「猪突猛進な性格」
「お、おい、ドロシー……」
「あとは」
偽名は二人で旅をしていた時だけ使っていたので、ダンダリオンは知らない。しかし特徴を挙げた時点で、ダンダリオンの頭の中に出てきたのは間違いなく元恋人だっただろう。そしてそのまま彼女のあり過ぎる特徴に次々と当て嵌まるものだから、ダンダリオンの顔色に生気のようなものが生まれていた。
「……私に、似てるんだって」
血の繋がりはないし性格も違うのに、同じ赤い髪と、『なんとなく』という謎の理由で会う人の会う人に親子と間違えられたカミーユとドロシー。そのことはダンダリオンも知っている。だからこの一言は、ドロシーにとってもダンダリオンにとっても核心的なものだった。
「……カミーユ、か?」
驚きに眼を見張るダンダリオンだったが、口元は隠し切れない喜びが溢れ出ている。
(やっぱりね)
それがあまりにも想像通り過ぎて。
切なさや悲しみよりも、ただただ嗤えた。
彼シャツは頭にないしサイズも問題で出来ず、泊まってる部屋も特にときめかず、本人の前前でしかドキドキしないとはこれいかに。




