王族
ブックマークありがとうございます!!
こちゃこちゃってるほぼ自己満小説なのに、本当ありがたいです(*^_^*)
ナビル子爵夫妻を先頭に、果てしないと思われていた長い廊下の突き当たりに位置する大広間に到着。開け放たれた重厚な扉の先に足を踏み入れた。瞬間、ドロシーはその眩さに目が眩んだ。
どれだけ手を伸ばしても届かない天井には壮大な絵細工が施され、合間を縫うように豪奢なシャンデリアが数多く取り付けられている。壁や柱は白を基調とした金色の模様が鮮やかに描かれ、その荘厳な佇まいは見るものを圧倒した。大きな窓からは陽光が室内を照らし、テーブルの下に敷き詰められた赤いカーペットや中央のダンスフロアに汚れや解れ一つない様子を映し出す。
最奥の高台には王と王妃が腰掛ける横長の豪華な玉座が置かれているが、まだそこに人の姿はない。しかし大広間には所狭しと思い思いに着飾った煌びやかな輝きを放つ紳士淑女で満たされている。
パティはここに至るまでもそうあったように「ほわぁ……」と小さな声を漏らしながら視線をあちらこちらに向けて忙しない。セインは最初こそ田舎者丸出しの姉に非難の目を送っていたが、全く気付いてもらえないので、今はもう我関せずと言った風にドロシーの後を追っていた。
ドロシーはといえば、(流石王城。厳重警戒だ)と城内の至るところで見かける警備兵の数と、彼らから発する気迫に関心を抱いた。が、隣国への警戒しなければならないし国中の貴族が集められてるのだから当然かとすぐに興味を失う。
それよりなにより(早く帰りたいなー)と、何事もなく早急に帰還することが頭の大半を占めていた。
ナビル子爵夫妻が足を止めたのは、出入り口の扉からあまり離れていない箇所。そこにいる二家族の貴族の元に顔を出す。
「やあ」とナビル子爵が気さくに声をかけると彼らもまた似た挨拶を返し、奥方たちは貴族らしい丁寧な挨拶を交わしていた。
彼らはナビル子爵領と隣接しているロガー男爵家とアディス子爵家。ナビル子爵家とは特に親しくしている間柄だということはドロシーも知っており、冬を前に姉弟を迎えにナビル子爵邸に行ったときに何度か顔を合わせている。
(どちらもナビル子爵同様、気さくて親しみやすかった人たちだよな、確か……。……奥方たちも子供も初めて見た、よな? ……うん、そうだ。初めてだ)
「ねえ、見て、あのナビル子爵家の側にいる……」
子爵たちが話をしている間、年に一度会うか会わないかの両家のことを思い出そうとしていると、ドロシーの耳にそんな小さな声が届いた。発信源はセイン側の隣テーブルにいる若いご令嬢たちだ。さて、どんな話題を持ち出されるのかと耳を澄ます。
「……すっごい美少年! 何処の家のご子息かな?」
「金髪も瞳も宝石みたい……! あんな美形、あたし初めて見たかも!」
「本当、素敵な方……。私たちと同い年くらいかしら? 将来有望ね」
どうやら彼女たちの視線はセインに集中しているようだ。セインは自身が注目の的になっていることに気付いているのかいないのか、涼しい顔をしている。
「天使がいる……」
「は? お前何……うわ、何あの子めちゃくちゃ可愛いじゃん!」
「おいおい、あのご令嬢誰だよ? あんな美少女初めて見たぞ」
方や反対側、パティ側の隣テーブルにいた令息たちもパティを見て浮き足立つ。パティはといえば、初めての王城とパーティー会場に興奮して落ち着かない様子で、そんな令息の声など耳に入っていない。
よくよく周囲を見渡せば、近くにいる貴族たちがこちらを注目していることに気付いた。何を話しているかは聞こえないが、チラチラと視線を送ってきている。
(うん、パティより美少女もセインより美少年もいない)
然りげ無く観察し、しっかり姉バカを発揮するドロシー。だが確かに、贔屓目抜きにしても姉弟の美しさはそこに光が浴びせられているように際立っている。長姉として鼻が高い。
「ところで、今日はグリエッタ男爵のご令嬢たちも来ていると聞いたのだが……」と、一通り家族ぐるみの挨拶を終えたロガー男爵家当主が振る。
出番かと意識を戻し、ドロシーは前に進み出た。
「お久しぶりです、テナー・アディス子爵、イエル・ロガー男爵。ドロシー・グリエッタにございます」
ドレスの裾を軽く摘み、格好に合わせて淑女らしく礼を取る。カツラを被りいつもと格好が異なる上、数度顔を合わせた程度では覚えていない可能性の方が高いのできちんと名乗った。
(………………ん?)
するとどうしたことか、返答がない。すぐに『やあ、ドロシー嬢!』とか返されると思っていただけに妙な肩透かしを食らう。
思わず顔を上げると、アディス子爵もロガー男爵もドロシーを見て固まっていた。
(……何かまずったか?)
必要最低限の貴族の名前や、殆ど忘却の彼方にあった礼儀作法はレレイに教えてもらって復習し、合格を貰っているのでに間違っていない筈。両家の奥方を見るが、どちらも夫を不思議そうに見ている。
「……あの、アディス子爵? ロガー男爵? いかがなさいました?」
「っあ、い、いやっ、なんでもない。久しぶりだね、ドロシー嬢……ドロシー嬢!?」
「えっ?! ど、ドロシー嬢?! 本当に!? その髪の色はっ……」
「あ、これは色々あってカツラです。あまり口外にしないようお願いします」
「あ、そ、そうなのか……。そうか、よく見ると全然違う……」
「す、すまないね、ドロシー嬢。無作法はこちらで、君に何も問題ないよ」
「はあ。ならば良かったです」
なんだかよくわからない驚き方をされたが、アディス子爵の髪色の問いかけやロガー男爵の『違う』発言を聞いて、やはりいつもの姿とのギャップに戸惑われたのだろうと検討を付け、話を進める。パティとセインも両家と挨拶を交わす。セインは兎も角、落ち着きのなかったパティもきちんと礼儀作法に則って挨拶をしている姿を見て安心したのは秘密だ。
挨拶はアディス子爵夫人、ロガー男爵夫人、パティと同い年のアディス子爵令息とロガー男爵令嬢と続いた。子供二人はシャルティアナの幼馴染であり、パティとセインの数少ない友人だ。話に聞いたことはあるが、ドロシーとは初対面なので、がちがちに緊張している若い男女と自己紹介を交わす。
その後は十代が固まり、去年の秋ぶりの再会で話に花を咲かせている。ドロシーは両夫人の輪にいれてもらった。
「夫から話を聞いています。大変な苦労をなさっているのですね」とアディス子爵夫人から。「わたくしたちで力になれることは力になりますので、いつでも頼ってくださいね」とロガー男爵夫人から。優しい言葉を掛けてもらう。
ドロシーが傭兵稼業で稼いでいることを知っているのはこの三家だけだ。色々と面倒だし言うことでもないからと口外にしないでいたのだが、口を滑らせたパティにより知られてしまっている。人の良いことに、両家ともグリエッタ男爵家の内情を理解し同情してくれ、ナビル子爵家同様内密にしてくれている。
とはいえ、ドロシーの中ではパティとセインの友人の家であるというだけで、ナビル子爵家程の恩義は感じておらず、ドロシーの中で親密度は高くない。故にこの優しい言葉も社交辞令なのはわかっている。差し障りなく礼を述べて受け流した。
そうして三家で交流している間に、いつの間にか開始時刻になったのだろう。ラッバの盛大なメロディが鳴り響き、王族の登場を告げられる。
扉から玉座に繋がる大広間の中央部分から、潮が引くように人々が道を作る。玉座までの道が出来上がると、それを見計らって、扉から王と王妃が姿を現す。
幸運なことに、ドロシーのいる位置から王族の入場はよく見えた。
厳つい顔で真っ直ぐ歩むガルシア・ゲルググ・ヴァーミリオン。ヴァーミリオン王国現国王にして、《黒獅子大公》マクスラウドの義兄。艷やかな黒髪と黄金色の瞳はマクスラウドを思い出させた。だが、ガルシア王の方はがっしりとした体格、健康そうな黄色の肌、顎には整えられた髭を生やしており、将軍職に就く義弟より、王の方が精悍な男らしい印象を受ける。
彼の隣を歩くのはユン・シルヴィア・ヴァーミリオン。桃色の髪と大きな瞳を持つ、美女というより愛嬌のある顔立ちの王妃だ。年相応なガルシア王に対し、童顔なユン王妃はどう見ても同い年には見えない。
(あれが王族と平民という身分差を越えて結婚した二人か。ってか王妃あれで三十六? 王と同い年に見えな……)
その後ろに続くのは王弟マクスラウド。正装に身を包んだ彼は鎧姿とはまた違う凛々しさが際立ち、彼の登場で甘い吐息を漏らす声がそこかしこから漏れ聞こえた。しかしドロシーは、彼の姿が見えた途端と心の中で吐き捨てた。彼に対して感じるのは嫌悪と笑顔の胡散臭さだけ。
マクスラウドの隣を歩くのは、長い黒髪と黄金色の鋭い目つきの女性。ガルシア王とユン王妃の長子ミュリエラ・アンリエラ・ヴァーミリオン。ツンと澄ました横顔は母親のような愛らしさは感じられず、父親側の精悍さと美貌を濃く受け継いだようだ。
二人は婚約者同士というわけではなく、どちらも相手がいない為のこの組み合わせなのだろう。
次に出てきたのはサンシャインイエローの髪とアーモンド型の黄金の瞳を持つ第三子オーランド・ジンクス・ヴァーミリオン。彼は両親の血をバランス良く受け継いだようで、『王子様』の理想を具現化したような好男子だ。
ふと横にいた義妹を見てみれば、両手で口元を覆い、顔を真っ赤にして目を奪われたように王子を見つめていた。
(あらら。まあ、如何にもパティが好きそうな王子様だもんね。でも、残念。妙齢の王子様には婚約者は付き物さ)
視線を王族に戻す。オーランド王子の隣には、蜂蜜色の髪とピンクゴールドの瞳を持つ美女がいる。王子の婚約者フランソワーズ・ノーリス公爵令嬢だ。自信の表れか、強気な笑顔を浮かべている彼女はパティと同い年くらいの筈だが、異性からすればかなり魅力的な体つきをしている。思わずパティのデコボコの少ない滑らかな体と見比べてしまったが、王子に夢中のパティは気付いていない。
ここにいる王族は以上四名だが、ガルシア王とユン王妃の間にはもう一人、第二子ターリア・スプート・ヴァーミリオンという王女がいる。しかし彼女は幼い頃に患った病により視力を失い、現在は王族籍から外れて教会の神官をしている為、この場には不在だ。
ゆっくり堂々と王の威厳を醸し出しながら貴族たちの間を突き進み、ガルシア王とユン王妃以外は高台の下で歩みを止め、王と王妃だけが階段を上がる。
二人は玉座の前で足を止めて踵を返し、大広間にいる貴族たちをグルリと見渡した。そうしてから王と王妃は同じタイミングで顔を合わせる。にっかりと屈託の無く笑った王妃に、ふっと顔を緩ませる王。二人が互いをどれほど思い、愛し合っているかがそれだけでわかった。
再び鋭い視線を静まり返った貴族たちに向け、ガルシア王が口を開く。
「栄えあるヴァーミリオン王国に仕える愛すべき国民、誉れたる諸侯よ。今日はよく来てくれた。新たな春の訪れと、我がヴァーミリオン王家生誕百年の記念すべき年に、ここに揃うことができて嬉しく思う。忌まわしき脅威は今尚我らの側に存在しているが、いつか必ず人類の敵滅ぼし、女神アルマナが望む、平和な世を取り戻そう。今日は存分に英気を養ってくれ。ここに、春告祭の始まりを宣言する」
重みのある低い声だというのに、強い意志を含ませた言葉が大広間の全体に響き渡る。端にいるドロシーにすら圧のように届き、心地の良いゾクゾク感が背筋を走った。貴族たちは割れんばかりの拍手をガルシア王に送っている。ほぼ無意識に、つられたようにドロシーも拍手を送った。
(ただ口上を述べただけなのに惹きつけられた。これが人々を率いる王の威風か。それに比べて、王弟ときたら……)
不愉快な感覚を思い出して渋い顔をしたドロシー。一人百面相をしているドロシーを、セインが不思議そうな顔をして見ていた。
お読みいただきありがとうございました!




