怒りのダンダリオン
組み立て→執筆→見直しで最低三日かかる遅筆っぷり…なかなか毎日更新といかず、すみません(-_-;)
ルヴァンは平然としていた。多くの疑惑の眼差しを向けられているというのに、顔色一つ変えず堂々として青年の顔を半眼で見ている。
両者、暫く睨み合う。
先に行動を起こしたのルヴァンだった。はぁ、と吐いた溜め息には呆れが混じっている。
「……何を言うのかと思ったら、飛んだ言いがかりだな。こちらとて、目撃者や被害者から得た情報を元に作戦を立て、諸君らに開示した。腐り人の襲来が予想外であったことに違いはない。だが、理由が欲しいのであれば答えよう。遅かったというのであれば、諸君らも歩いた通り、緑の生い茂る森の中は歩き辛く、進むのに困難だったから。追加報奨の件は王弟閣下の普段通りのやり方であり、何も諸君らが特別扱いをされている訳ではない。自己の過大評価はしないことをお勧めする」
「なっ……!!」
(は?)
余計な一言に青年がまた飛び掛かりそうになるが、仲間が必死に止めている。
確かに、最初に放った合図の角笛と王国兵の進軍速度を鑑みるに、到着が少々遅かったような気がする。
傭兵だけを囮として森の中に入らせてた癖に、予想外なことが起きたからと言って金を追加で支払うと言い出すのは準備が良過ぎる気がする。
そう、どちらも『気がする』だけ。指摘がなければ疑問にも上がらないし、言われたとしても確たる証拠はない――そう思っていたのに、ルヴァンの言い訳に引っ掛かりを覚える。
(かの黒獅子大公の率いる兵が、森の中を進むのに手こずったって? 王弟が率いる部隊がそんな軟弱なんてことがあるのか?)
だとしたら、王国軍はドロシーが思うより弱いことになってしまう。そんなことはないだろうとは思うが、嘘でも本当でも、そんな疑いを持たれるようなことを王弟の補佐官たるものが口にしていいものか。
(きっちりしてるように見えて、実はバカなのか。それともあの青年が考えてるような裏があるのか……)
ドロシーの疑いの天秤はルヴァンに傾き始める。
「大体、傭兵の数を減らしたいのであれば、お前たちの全滅を待っていた筈。しかし我々は、お前たちが恐慌状態に陥り、劣勢になっているところに突入しただろう。これのどこに文句がある?」
「それはっ……」
「ああ、そう言えば、アルマナの祝福を破った男がいたな。腐り人はその男の天罰の為に、女神が魔物を遣わせたのでは?」
ネイビーブルーの瞳がダンダリオンを映す。その顔には隠しきれない嘲笑が浮き出ており、明らかにここにいる傭兵全員を愚弄していた。その気配を敏感に感じ取った傭兵たちの感情が昂り、一瞬にして天幕内に緊張が走る。
先んじて、遠回しにダンダリオンを貶められ、カッとなったドロシーが声を上げ――
「無礼者!!!!!!!!」
――る前に、ダンダリオンの一喝が放たれる。
ビリビリと空気を震わせる大喝声。呻いていた怪我人も痛みを忘れ、張り詰めた緊張の糸が瞬時にたわみ、天幕が吹き飛ばされてしまわんばかりの咆哮だ。
現に、一番近くいたドロシーが背後からの圧に押されて思わずつんのめる。耳がキーンと鳴って痛い。
そんなドロシーに目もくれず、ダンダリオンは怒気を放ちながらずんずんとルヴァンに近付いていく。
彼が怒るのも無理はない。人類のを救った味方である善神が、人類を滅ぼそうとした魔物を使役しているなど、発想がイカれている。
しかもダンダリオンは女神アルマナに選ばれ、祝福を受けた張本人。この場において、誰よりも女神に対する信仰心は深い。
下手したら人類の敵と見做されかねない己の失言に気付いたルヴァンの顔が青く強張る。
「俺だけを責めるだけならいい! だが、女神アルマナと魔物を一緒くたにするなど、無礼にも程がある! 一体どういう了見だ! 貴様は女神を侮辱しているのか!!」
滅多に怒らない分、怒る姿はドロシーでさえ恐ろしく思える。怒りの矛先を向けられているルヴァンはもっと恐怖を感じている筈だ。彼を守る筈の部下たちも、剣は向けているものの及び腰で震えている。
「どうした、言いたいことがあるならその減らず口で言い返してみろ! 場合によってはただでは済まさんぞ!」
「いや、私は……」
(こっわ……! ダンダリオンが本気で怒ったの見るのは何年ぶりだろう……。確か、内緒で山賊退治の依頼を受けたときだから十五かそこらか? あの時は半殺しにあった上、貞操の危機だったからな……なんであの時一人で殺れると思ったんだろ……って、今はそんなこと思い返してる場合じゃない!!)
軽い逃避に走っていたが、金剛棒を握る腕が今にもルヴァンに振り下ろし兼ねない距離に来たのを見て、慌てて間に入る。
「待て、待ってダンダリオン! 腹が立つのはわかるけど、幾ら何でもそれはまずい!」
「止めるなドロシー! 答えによっては、女神アルマナに代わり、この青瓢箪に鉄槌を下さねばならん!」
「青瓢箪て。いや、もし女神が怒っているなら、わざわざダンダリオンが手を下さなくても自ら罰を下すから大丈夫だって!」
「それはっ、そうかもしれんが!」
「ルヴァン! ダンダリオン殿!!」
ドロシーが必死に説得を試みている中、怒鳴り声を聞いてマクスラウドが慌てて駆け込んできた。
ダンダリオンとルヴァンの一触即発の不穏な雰囲気に気付き、狼狽えたように二人を交互に見る。
「これは、一体何事だ……?」
「か、閣下、これは……」
兵がマクスラウドに耳打ちする。
一度目を見開かれたマクスラウドの表情が、徐々に真剣な表情に変わり、話を聞き終えると、鋭い視線をバツが悪そうな顔をしている補佐官に投げ付けた。
「ルヴァン、お前という男はなんということを……」
「……申し訳ございません」
「私に謝罪をしてどうする。お前が謝罪すべきはダンダリオン殿と、ここにいる者達にだろう」
「……申し訳ございません」
「……もういい、下がれ」
促され、渋々といった感じで頭を下げるルヴァン。しかし相変わらず誠意の感じられない謝罪だ。誰の表情も晴れやしない。マクスラウドが頭を抱え、部下を下がらせ自ら前に出る。
「我が補佐官の非礼、お詫び申し上げます。部下の非礼は私の不徳の致すところ。さぞや不快な思いをなさったとは思いますが、どうかこの男を許して頂けないでしょうか?」
「閣下、彼は女神を侮辱しました。いかに王弟様のお言葉と言えど、許し難い行為です」
「彼には後程、何らかの罰を与えることを約束します。私に免じて、何卒怒りを鎮めてはもらえませんでしょうか」
「……そこまで言われては、仕方がありません。閣下のお言葉を信じ、身を引きましょう」
「有り難うござ……」
マクスラウドが礼を述べている途中で踵を返し、元の位置で背を向けて胡座をかくダンダリオン。本来のダンダリオンであれば絶対やらないし、王族を前にしてかなり無礼な行為だが、それだけ怒髪天を突いているということだろう。全く納得いっていないことは、その表情と態度が物語っていた。
(そりゃあ、どんだけ腹に据えかねていても、王弟に免じてなんて言われては一平民としては引く他ない。理不尽だ)
ダンダリオンの背中を見て心内を慮ったドロシーがマクスラウドを睨む。
フード越しだが、バチリと目が合った。動作で彼もわかったのだろう。にっこりと笑い掛ける。
その完璧な笑顔にイラッとする。
(これだからお偉いさんは嫌いだ。なんでも思い通りに出来ると思って、こちらの気も知れず、悪びれもしない)
不快としか言えず、ダンダリオンに倣って背を向けた。
「また、今回の作戦は、私の見通しが甘かった所為であり、決して傭兵諸賢に害をなそう等という意思はないことは断言しておこう。多大な迷惑を掛けた詫びとして、報奨増額の他に、故人にも功労者金を仲間の方に支払おう。他にも、得た魔石は全て傭兵諸賢に配布。重軽傷者関わらず、王都の療養院を手配を約束しよう」
背後ではマクスラウドの大盤振る舞いが続いている。
しかし、最早彼の声は耳にも入れたくなく、ドロシーの聴覚は雑音として処理を始めていた。
お読みいただきありがとうございました!!




