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疑惑

ネット小説大賞の公式様に感想頂きました!!感謝感激雨霰です。・゜・(ノ∀`)・゜・。


 蓋を開けてみれば、荷物番等で作戦に不参加な者を除いた傭兵二十七名の内、死者三名、ほぼ無傷五名、ドロシーを含む命に関わらない負傷者十ニ名、重傷は七名という結果で終わった。王国兵側は殆ど無傷の者ばかりだったが、十人弱の負傷者がいるだけで、死者はいない。


 重傷者を始めとした動けない重軽傷者たちは担架で運ばれ、森の外に張られた王国軍の天幕で応急処置が施されている。治療に当たってかなり痛みを伴うものもあり、怪我の具合も相まって、天幕の中は苦痛の悲鳴と呻きが方々から飛んでくる。


 腕に包帯を巻かれただけで治療を終えたドロシーは、礼もそこそこに硬い表情のままとある一角に足を進める。そこでは二人の衛生兵によって重傷者の治療が行われていた。傍らで、ベラが長い髪を振り乱した格好のまま、へたり込んで動かないでいる。


「ベラ……」


 彼女の横に来たドロシーがそう声をかけるも無反応を返される。震える肩にそっと手を伸ばした。


 だがその手は、包帯を巻き終えた衛生兵が立ち上がる音に反応したベラの素早い動きによって途中で止まる。


「アーサー!!」

「っ……ベ、ラ……」


 治療を終えた重傷者はアーサーだった。あちこち包帯が巻かれ、息も絶え絶えといった様子だが意識はしっかりとしているようで、涙でグシャグシャになって縋り付くベラを見て小さく微笑んでいる。


 ドロシーは横を通り過ぎようとした衛生兵の腕を掴んで引き止める。迷惑そうに振り返った若い衛生兵だが、鋭い視線を向けるドロシーを見て小さく肩を揺らす。


「アーサーの……彼の容態は?」

「い、今現在できる処置はしました。意識もありますし、安静にしておけば命に別状はありません。……た、ただ……」

「ただ?」

「彼の右腕……恐らく致命傷を避ける為に、右腕で庇っていたのでしょう。深い咬傷が多くて、もしかしたら、動かなくなる可能性が……」

「……そう、わかった。ありがとう」


 解放すると、衛生兵は別の怪我人の元へ駆けていった。 


 ドロシーの視界の先には、まるで引き裂かれていたが再会できた恋人のようにむせび泣くベラと、乱れたベラの髪を辛うじて無事な左手で優しく撫でるアーサーの姿。


 その姿は、『恋人のよう』ではなく正に『恋人』であった。


(知らなかった……というか、気配すら見せなかったのに)


 確かに偶に夫婦のようだと思うことはあった。しかし、恋人や夫婦だと匂わすようなところを見たことがない。いや、単にドロシーがいない間にしていたり、ドロシーが鈍感で気づかなかっただけかもしれないが。


 何人足りとも近寄れない空気に気圧され、仕方なく別の所へ行こうと周囲を見渡す。出入り口付近の離れた位置にいるダンダリオンの姿を見つけ、そちらに足を向ける。


「……ダンダリオン」

「……ドロシーか。怪我はどうだ?」


 沈んだ声が返ってくるだけで、振り返らないダンダリオン。彼の前にはゴゲンが横たわっている。外傷は思ったよりも少なく、見た目だけであればアーサーの方が重傷だ。しかし白髪頭には血の滲んだ包帯が巻かれ、瞼は閉ざされピクリともしない。


「私は問題ない。それよりも、ゴゲン殿は?」

「……アーサーのお陰でそこまで大きな怪我はない。だが、頭をかなり強く打ったようだ。意識が戻らない」

「頭を……」


 それが一時的なものなのか、ずっと続くものなのか。現時点ではまだわからない。だがドロシーは言いしれぬ不安を感じた。


(ゴゲン殿は、もう目覚めないかもしれない)


 恐らくダンダリオンもそう思っていることだろう。重苦しい雰囲気が漂う後ろ姿が物語っている。

『きっと大丈夫』なんて、なんの確証もない慰めは慰めにはならない。

『ダンダリオンは悪くない』と励ましても彼は聞き入れないだろう。

『起こってしまったことは仕方がない。自己責任だ』と普段のドロシーであれば言えるが、それがどれほど冷たく突き放しているかは自覚しているので、好意を寄せている相手(ダンダリオン)に対してはその言葉を放つことは出来ない。


 何が良くて、何が駄目なのか、どう言えばダンダリオンが傷付かないか……掛ける言葉な頭を悩ませながら、ダンダリオンの肩に手を伸ばす。今度はベラのように避けられなかった。


「……最低でもここに一人、ダンダリオンを責めない人間がいることだけは覚えといて」


 置いた手にダンダリオンの手が重なり、強く握り締められる。小さく伝わる振動に、握られた手同様に胸が締め付けられる。


 心のどこかで、天罰は起きないのではないかと思っていた。ドロシーが初めて見たそれが即効だったのに比べ、ゴゲンは長いこと無事であったからだ。しかし結果はご覧の通り。

 

(アルマナの天罰からは、誰も逃れられないのか)


 改めて、女神アルマナの力の一端を垣間見て、首筋に冷たい刃を押し当てられたような気がして全身の血の気が引く。


 バサッと、天幕の出入り口の布が勢い良く音を立てて開かれた。


 振り返ると、部下が掲げた布を潜り、王弟の補佐官ルヴァンが現れる。


「治療中の者はそのまま。聞ける者だけ耳を傾けよ」  


 出入り口付近、ドロシーらからもそう遠くない位置で足を揃えたルヴァンがぐるりと天幕内を見渡して切り出す。ドロシーはフードをしているのであちらはわからなかったようだが、一瞬だけ目が合った。


「此度の作戦、我々の期待通り、傭兵諸君らの活躍で作戦は終了することができた。ここに感謝の意を表する。同時に、予想外の事態により、諸君らには甚大な被害を負わせたことも心からお詫び申し上げる」


 と、言っている割には、感謝のかの字もお詫びのおの字も感じられない冷めた表情と、定型文を読み上げさせられてる単調な口ぶりに眉間に皺が寄る。それは他の傭兵も同じのようで、イラッとした空気が広がった。


「よって、マクスラウド王弟閣下の取り計らいにより、諸君らに与えられる報奨は多少増額するものとする。有り難く受け取るように」


 しかしルヴァンのこの言葉を聞いて傭兵たちが一気に色めき立った。幾ら想定外の出来事とはいえ、使い捨ての傭兵相手に報奨金増額とは大盤振る舞いではないか。現金なもので、皆の目の色が変わる。


 ドロシーもその一人だ。ただでさえ良かった報奨金が更に釣り上がるなんて、嬉しいことこの上ない。


(報奨金と支度金を合わせたら、へそくりにかなり回せるし、パティとセインにちょっと良いもの買ってあげられ……)

「ふざけるな!!!!」


 突然の怒声が思考を遮った。


「お前らの所為でマシューが、俺のたった一人の兄貴が死んだ!!」


 顔を真っ赤にして憤怒の表情を浮かべた青年傭兵がルヴァンの元に突進していく。掴み掛かりそうな勢いで突っ込んでいく彼を、仲間らしき青年が二人、「落ち着け! 早まるな! 相手は王弟の補佐官だぞ!」と抑えようとしているが、猪突猛進は止まらない。


 後ろに控えていた部下が前に出てルヴァンを庇い、剣の切っ先を青年に向ける。そこでようやく勢いを止めた青年が、悔しそうにルヴァンに噛み付く。


「お前ら、本当はわざと知らせなかったんじやないのかっ! 知ってるぞ! お前ら王国軍は俺たち傭兵が増えていることを懸念してるってな!」

(へえ、そうなんだ)


 殆ど王都周辺で仕事をしない所為か、ドロシーには青年の話は初耳だ。


 王国兵と傭兵の違いは多々ある。まず一番大きいのは何の為に戦うのか、ということだろう。


 王国兵の忠誠は国に捧げられ、国の為に戦う。その為国から給与も出るし、衣食住も保証される。代わりに有事の際は否応なく駆り出され、自由はない。


 傭兵は理由は様々だが、兎に角金を得る為に戦う。懐も行き先も自由気ままだが、代わりに負担と責任は全て自分で負うことになる。 


 どちらも一長一短だが、近年人気が増しているのは傭兵の方だ。命令がないと動けない王国兵に対して、傭兵はいつでも仕事を選べる上、魔石があれば更に収入を得られるのだから、どちらかといえば利益を求めがちな人間が傭兵を選ぶのも当然といえる。無論、ドロシーもその口である。

 

「……だから?」

 

 唾を飛ばしながらがなり立てる彼と相反して、ルヴァンは冷静だ。顔色一つ変えず聞き返す。


「だから、別の魔物がいることをわざと知らせなかったんじゃないのかっ!? 俺たち傭兵の数を減らすために!! じゃなきゃおかしいだろ! なんであんなに都合よくお前らが現れるんだよ! 金払いがいいのだって、疑いの目をを向けられるのを誤魔化す為なんじゃないのかっ!?」


 『王国側が増え続ける傭兵を懸念している』という嘘か真かわからない情報と、予想外の敵増援、仲間の死といえ出来事が合わさって、初めて生まれた疑惑――青年の主張に、また別のざわめきが生まれる。そういえば私もそんな噂聞いたことある、確かにちょっと都合良過ぎるよな、もしかして去年の起きたあの事件も……など口々に話し、疑いの眼差しがルヴァンたちに差し向けられた。


 ドロシーからすれば、確かに危険はあったが、傭兵稼業に危険は隣り合わせ。追加報奨の件はなんの疑いの余地もない自然な流れだった。


 青年傭兵の兄は死んだ三人の内の一人のようなので、悲しみと怒りで頭がおかしくなって言いがかりを付けているのか、それとも兄の死をヒントに真実に辿り着いたのか。

  

 新情報を耳にしたばかりのドロシーには真偽の程はわからない。


 補佐官はどのような答えを示すのか。興味を抱いてルヴァンを見た。


お読み頂き、有り難うございました!!

続きも頑張ります!

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