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西の森での戦い

遅くなりました(土下座)!!


 見渡す限りの木々が立ち並ぶ森の中を、ドロシーは自身の気配を隠しつつ、周囲を警戒しながら進む。左手にはダンダリオン、少し離れた前方にはゴゲンの後ろ姿が見える。更にゴゲンの左右、近からず遠からずの位置にはベラとアーサーが居り、前方にはキャシーが配置され、ゴゲンを囲う歪な五角形が形成されている。ゴゲンを守り延命させる為の現在考え得る最適な布陣だ。


 二度目の休憩から西の森に着くまでの距離は、アーサーとエリオットが御者席に座り、他箱に乗り込み、ダンダリオンの口からこの布陣は周知された。尚、エリオットが「定員オーバーじゃないのかよっ!」とドロシーに食って掛かったがスルーされている。


「わざわざ守りながら戦うくらいなら、最初からゴゲン殿をエリオットと一緒に待たせておけばよいのでは?」とドロシーの言葉に数名頷いていたが、ゴゲンが断っている。


「役立たず扱いしないでほしい」というプライドと、「傭兵として、徒に死ぬよりは戦場で死にたい」と意地になっているようだ。


 そうした話し合いの結果、前述の通りの布陣が形成されたのだった。


 中でもドロシーとダンダリオンの居る位置はゴゲンを守るのに重きを置くことと警戒が必要だが、同時に後ろに目や人がない分最も危険だ。しかし、ダンダリオンは頑丈だから、ドロシーは身軽だからと自己申告でこの位置にいる。


 森の中の捜索はなかなか難しい。足首まで伸びた雑草と、それに隠れ蓑にボコボコと太い根を突き出した地面に足を取られがちだ。転ばないように足元を、魔物がいないか周辺を、それぞれ警戒しながら進む為、どうしても歩みが遅くなる。


(まあ、急ぐようなことでもない)


 一人、グリエッタの道なき山道を十年近く歩いているドロシーには、緩急あれど平らな森の中は歩き易い方だ。心身共に余裕を持たせながら辺りに気を配る。


 聞こえるのは自分たちの発する音のみ。偶に音や気配がしても、鳥や他の傭兵ばかりで、今だに腐り狼を発見できていない。


(人と鉄の匂いに警戒しているのか……? ま、一度人が通った道を何度も通る方が好都合)


 人間の気配が濃い方に来るのが、生者に対して深い怨恨を抱く魔物の習性だ。例えドロシー達が通る道が誰が通った道だとしても、結果人間の匂いがより濃くなって魔物が匂いを辿り易くなる為、二度手間ということはない。


 用心ついでに、仲間たちの動きも確認する。


 左手に控えるダンダリオンを見る。体が大きい分、木々の合間を縫うのが大変厄介な彼は、ドロシーよりも遅れ気味に歩いている姿が確認できた。


 前方右手にいるのはベラだが、彼女も足元に広がる草や木の根に足を取られ、歩きづらそうにしているのが見える。


 前方左手にはゴゲンがいる。切り替えたか覚悟を決めたか、それとも囲われている安心感か泰然とした後ろ姿が見て取れたわ。


 ゴゲンといえば、ドロシーが後方に付くと誰よりも早く挙手した時に目を丸くしていた。まさか自分をあれだけ冷たくあしらい、話し合いでも邪険にした相手が、重要なポジションに付くなど聞いて驚いたのだろう。同時に裏があるのではと考えたか少々訝しげな顔をしていたが、ダンダリオンも誰も反対しないので口を挟まなかったようだ。


 そんなゴゲンの不信感漂う視線にはドロシーも気付いていたが、確かにゴゲンというよりダンダリオンの貞操を守りたい裏があるので敢えて視野に入れずにいておいた。


 それから暫くして、木々が無くなり、上空が見渡せる空き地のような場所に先頭が到達する。あちらとこちらを割くように中央を清流が流れており、川の向こう側はなだらかな坂になっている。その先は見えない。


 先頭のキャシーが先に渡る。幅はあるが、底は深くない。穏やかな流れで底の見える川を難無く渡り切る。


 それから間を開けて、ゴゲンが川に歩を進める。彼も浅い川だとわかると躊躇なく渡り始めた。


 だが、ゴゲンが川の中頃に差し掛かった時、石に足を取られ、「うぐっ!?」と声を上げて川の中に崩れた。


「ゴゲンさん!」転倒に気付いたキャシーが踵を返す。


 その時、ドロシーは空き地に入った所で、川の中で尻餅を付いているゴゲン急ぎ足で川に戻るキャシーを目撃。一瞬身構えたが、ゴゲンの様子を見るに危険が起きた訳ではないのだとすぐに理解し、安堵したのも束の間。


 坂の向こうに、獣の姿を捉える。距離があり、また逆光の為、正確な姿は確認できないがそれは確かに四足の獣だ。背を向けているキャシーも、キャシーの影になっているゴゲンも気付いていない。そんな二人に向かって、獣が駆け出した。


「キャシー! 後ろ!!」


 叫ぶと同時にボウガンを構え走る。はっと顔を上げたキャシーが腰のサーベルを抜きながら背後を振り返った時には、獣は二人の目前に迫っていた。


 そこまで来たならドロシーも分かる。

 体の至るところから骨を露出させている腐り狼――魔物だ。


「ちっ!」


 位置が悪い。二人と絶妙に重なるように駆けてくる魔物を狙うことができない。


 幸いなことにキャシーらに迫る腐り狼は、ゴゲンが川の中から拾った石を投げ付けたことにより牽制。予想外の投石を顔に食らい、悲鳴を上げる。その隙に、キャシーの鋭い一突きが腐り狼の眉間に吸い込まれた。


 腐り狼のけたたましい悲鳴が響く。 


 それを聞きつけた仲間の腐り狼が次々と姿を現した。


 皮膚が爛れ、骨を剥き出しにしているもの、臓器を引きずっているもの、四肢のいずれかを欠損しているもの……その姿は様々だが、共通しているのはどれも到底生きているとは思えない見た目だということだろう。興奮しているような浅い呼吸を繰り返し、ガチガチと牙を打ち鳴らす音は明らかな怒気と殺意を孕んでいる。仲間が倒れたのを確認した魔物たちはすぐさま敵討ちに走り出す。


 走りながらボウガンを構え、放つ。


 風を切る矢は先頭の魔物の首をかする。


(っ、多い!)


 ざっと見ただけでも二十以上いる。


 ドロシーの背後から角笛の音が響く。ダンダリオンが合図を放ったのだ。すぐに増援が来ることだろう。


 川の中でキャシーとゴゲンが襲い来る魔物との攻防が始まっている。キャシーは川から出たが、ゴゲンの方は抜け出せておらず、川中でバスターソードを振るっていた。


 足場の悪い川の中で戦うのはあまり得策ではない。ボウガンを仕舞い、川辺りで跳躍し、向こう岸に飛ぶ。着地地点にいる腐り狼を踏み潰し、双剣を抜いて腐った首を切り落とす。正面から襲いかかってきた一匹は、横から飛んできたベラの弓矢の一撃で弾き飛ばされた。


「ゴゲン殿! お早く!!」槍斧で魔物を蹴散らしながら、アーサーが不安定な足場で戦うゴゲンの元に駆け寄り、ジリジリと後退を始める。遠方にいるベラが二人の援護をしていたが、迫る腐り狼をナイフで応戦。援護を失ったアーサーとゴゲンに、四匹の魔物が同時に飛び掛かった。


 だがその同時襲撃は、ダンダリオンの登場で失敗に終わる。


 ダンダリオンは凄かった。薙いだ金剛棒は四匹を纏めて吹っ飛ばされた。そのまま入れ替わって戦線に突入し、次々と魔物を破壊していく。


 他の傭兵も集まり始め、これは王国兵が来る前に終わらせられるんじゃないか――王国兵に居場所を告げる角笛の音を耳にしながら、そう思った時だった。


「うぎゃあああああああっ!!」


 誰ともわからない絶叫が響く。見るとドロシーたちが来た方向から人影が複数現れる。


(王国兵……いやっ、違う!!!!)


 初めは人の姿をしていたそれを王国兵だと思った。だが束無い動きだというのに、近くにいる腐り狼は襲いかからず、その足元に倒れた人を貪っている。それが腐り狼たち同様、腐敗した人型の魔物だということに瞬時に理解した。


「腐り人だ!!」


 ドロシーの怒号のような大音声が剣閃響く戦場に一気に広がる。


 どういうことだ、腐り狼たけじゃなかったのか、聞いてないぞ……そんな声があちこちから聞こえる。せっかく腐り狼の数を減らしたのに、新たな腐り狼を従えた腐り人の出現に、傭兵たちに分かりやすく動揺が広がった。手元を狂わせる傭兵が続出、形勢が逆転した。


 ドロシーも突然の出来事に一瞬、思考を停止させる。しかしアーサーとゴゲンに襲いかかる集団を目撃、動転し、隙が生まれた。


 迫る気配。身を翻す。右腕に鋭い痛みが走った。


 体勢を崩したドロシーに腐り狼が覆い被さる。鋭い爪を双剣を交差させて防ぐが、鋭い牙はドロシーの眼前に迫る。歯を食いしばり、ずっしりと重い獣の体重に耐える。


 視界の端で別の個体が近付いてくるのが見えた。


(やばいっ……!!)

「ドロシー!! くそっ、退け!!」


 焦燥が全身を駆け巡る。


 ドロシーの劣勢に気付いたダンダリオンが駆け寄ってこようとしたが、腐り人に阻まれた。


 腐臭が鼻を突く。


 深く暗い、危険な洞窟のような口内がグイグイと近寄ってくる。


 顔面を食い破られる自分の姿が頭の中に過ぎる。


 エーミール、パティ、セイン――浮かんできたのは待っている家族の笑顔。


 それは走馬灯であったのかもしれない。


 だが、ドロシーが感じたのは絶望ではない。


 湧いてきたのは、待っている家族の為に生きなければという強い意思だ。


「っ……死んで……たまるかっ!!」


 右手を引いて剣をスライドさせる。力が半減した分、腐り狼の牙が首の皮一枚を掠めるが、引き抜いた剣を腐り狼の首に突き立てる。


 続いて近寄ってきた一匹の口内に問答無用で突き立てた。


「ドロシー!」


 ようやく辿り着いたダンダリオンがピクピク動いて瀕死状態の腐り狼の下からドロシーを引き抜いてくれる。


「大丈夫か!?」

「問題、ない」


 少し頭はクラクラするが、そんな言葉を交わすと、わああっと大きな声。


 それは先程誰かがあげた断末魔ではない。  

 鬨の声。


 王国兵だ。


「殲滅せよ!」


 号令と共に先陣を切るのはマクスラウドだ。長剣を振ると、まるで紙でも切るかのように滑らかに腐り人の次々と飛んだ。その姿を見て、傭兵たちも冷静さを取り戻す。


 ドロシーも自身を支えるダンダリオンに「大丈夫」と告げて戦線に復帰。


 こうして、西の森ではの戦いは、予期せぬアクシデントが起こったものの再び形成逆転となり、王国兵の到着からそんなに間を置かずに、人間側の勝利に終わった。


お読みいただきありがとうございました!!

また一日二日間があいてしまうかもしれませんが、ご容赦ください…。

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