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恋愛初心者

恋愛下手ってことを書きたいけど、うまく表現できないなぁ。


 突き放した冷たい返答に、ゴゲンは信じられないものを見る目でドロシーを見る。


「……それは、断るということか? わしがこれほど頼んでいるというのに……」

「ゴゲン殿のお願いにそこまで価値を感じませんし、まず割に合いませんしね」


 自分が意地もプライドも投げ捨てて頭を下げているのにと言外に匂わせられ、肩を竦める。彼がどれほど若妻を愛し、大事にしてるのかも伝わったが、ドロシーには関係ないことだ。


 内心、ダンダリオンのトラウマを呼び起こしたゴゲンに対して苛立ちが募る。


 これ以上やり取りするつもりはない。背を向けて寝転がる。


「ま、世の中には私のような金に煩い傭兵だけじゃないんですから、損得勘定抜きに受けてくれる人を見つけてくださ……」

「俺が引き受けしよう」


 割り込んできた声に、一度固まった。すぐに勢い良く体を起こしながら反転する。


 表情を引き締め、決意したかのようなダンダリオンがこちらを見ていた。


「だ、ダンダリオン……?」


 ダンダリオンの心の傷を抉った相手の依頼なんか受けてやるかと思っていたのに、まさかの当人が名乗りを挙げたことに戸惑いを隠せない。


「元はと言えば俺の責任だ。俺が尻拭いをするのは当然だろう」

「いや、ダンダリオンは悪くないじゃん。勝手に飛び出して勝手に事故ったゴゲン殿に非があって、ダンダリオンは貰い事故受けた側でしょ」

「だが、飛び出す原因となったのは俺であることには変わりない」

「だからって……」

「大丈夫だ、ドロシー。お前は気にしなくていい。お前は家族の為に金と時間が必要だが、俺はそうでもないからな」


 尚も言い募ろうとするドロシーに掌を向け、優しく微笑むダンダリオン。

 だというのに、ドロシーは崖から突き落とされた衝撃を受けた。


『家族と俺を天秤にかけ、家族を取ったのだろう?』


 そう言われたような気がした。胸がギュッと締め付けられる。


(確かに私は、ダンダリオンの為にではなく、家族の為に断っている。ダンダリオンのことは決定打に過ぎなかった。そう思われても仕方がない)


 ズキズキと痛む胸を押さえる。ゴゲンを突き放した意趣返しを、ダンダリオンからされたような気がしてならない。


(いや、ダンダリオンがそんな意地の悪い考え方をするわけがない。我が家の家庭事情を慮ったダンダリオンの気遣いで、私が穿った受け取り方をしただけだ)


 そう思うが、一度生まれた疑惑は否定出来ない。もしかして、自分がダンダリオンの仕返しにと跳ねたのもわかっているのでは……。余計なお世話だと思われているのでは……。


 悪い想像が頭を過ぎる。かといって喉に異物が入ったような苦痛が帯びてる喉は言葉を発することもできず。ダンダリオンの視線に耐えきれなくなって、逃げるように顔を背ける。


 そんなドロシーの心境を知らないダンダリオンは子供のようにそっぽを向いたドロシーに対して不思議そうな顔をしたが、今はそっとしておこうとゴゲンに向き直る。


「勿論、ゴゲン殿が嫌でなければの話だが……」

「い、いや、そんなことはござりませぬ! し、しかし、ダンダリオン殿に、これ以上迷惑は参りませぬ故……」


 ゴゲンからすればダンダリオンは加害者であり、またいつ鎌を振り下ろすかわからない死神のようなもの。そんな相手に、遺される大事な幼妻を預けられるとは思えない。案の定、気を遣いながらも怯えを感じさせて断るゴゲン。そこにひょい、とアーサーが割って入る。


「心配は無用ですよ、ゴゲン殿。奥方様は私達がお世話しますので」

「お主は……?」

「アーサーと申します。ダンダリオンとは同郷の友でして、もう四十年以上の付き合いになりますね」

「そ、そんなに長く……?」

「ええ。他のメンバーも十年単位で付き合いがありますので、貴方が考えているような心配はほぼないかと。色々と不安がありましょうが、付き合いの長い我々がサポートしますので、ご安心ください。あと、年嵩ではございますが、世話好きな女性メンバーもおりますので」

「年嵩ってあたしのことじゃないわよね!? あたしはまだ若いわよ!」


 御者席側の幌が巻かれ、ベラが顔を出し、一言言って引っ込める。


「おっと、失礼。まあ、こんな感じですけど、姉御肌の優しい女性ですよ。もう一人も……まあ、女性の気持ちを誰よりも理解してますから、大丈夫です。……多分」


「任せて〜」と手綱を握っているキャシーの声。アーサーの余計な一言は、それに掻き消されてゴゲンまでは届いていない。


 傭兵団の仲間の長年の強い絆は、ダンダリオンの意思を一も二もなく汲んでいた。にこにこと優しげなアーサーの話術と、ベラとキャシーの陽気な様子はゴゲンの不安を解いていく。長い付き合いというのもかなり高評価のようだ。


「ま、誠に……誠にお任せして宜しいのでございましょうか……?」

「勿論だ。女神アルマナに誓おう」


 極め付けは、力強いダンダリオンの誓い。ゴゲンの目にジワリと涙が浮かぶ。


「……数多の人々をお救い下さったダンダリオン殿は覚えておらぬでしょうが、わしは貴方に命を救われておるのです。ですが、その時は御礼をすることが出来なかったので、ずっと心残りで。此度は恩を仇で返すような真似をし、その上恩人に対して、臆病風に吹かれるなど、愚かな感情を抱いてしまい、面目次第もございらん……だが、だが……!」


 ガバっとゴゲンが床に頭を擦り付ける。


「かたじけない……!!」


 感極まった声で礼をするゴゲン。問題は残っているが、二人の間に生じたわだかまりが多少緩和され多様だ。


 あちらは落ち着いたようだが、ドロシーの胸中は穏やかではない。


 そうだ。ダンダリオンはこういう男だ。低賃金過ぎてで他人が嫌がるような依頼を、困ってる人がいるならばと見返りを求めず受け、相手に憎まれようが恨まれようが殺されかけようが……期せずして背負わされた責任だろうが、最後まで任務を全うしようと努力の人。目の前の現実から逃げるような男ではない。だからこそ女神アルマナに選ばれたのだろう。自分が断れば彼が名乗りを挙げるのは必然。見誤った悔しさにギリ、と奥歯を噛む。


(ダンダリオンが女の毒牙に掛かったらどうしよう)


 年の差夫婦を目の当たりにし、再燃した若き日の恋心がジリジリと蘇る。


 教会で見かけたカンナとかいうゴゲンの妻は、銀髪と空色の瞳を持つ儚げな美人で、守ってあげたくなるような良家のお嬢様然としていた。だというのに、あの堅物そうなゴゲンの寝込みを襲って既成事実を作り上げ、なんだかんだで落とした実力者。


 そんな遣り手の美人をダンダリオンの側にいるなど、冗談ではない。幾ら現在互いの気持ちが別方向に向いていたとしても、一緒にいる内に絆されてしまったら……。


 二人が並んで過ごしている姿を想像して、さっと血の気が引き、掻き消すように頭を振る。

 

(ダンダリオンの想い人が、()()()だったからこそ諦めたのだ。どこの馬の骨とも知らないぽっと出に取られる等、癪に障る)


 では、どうするか。今更受けると言い出せるわけもない。


 傭兵団を抜けている身では二人の間を邪魔することはできない。ベラたちに頼んでいい雰囲気になりそうなら妨害してくれなんて恥知らずなこともできない。いや、まずそんな事をするような心の狭い人たちではないし、今はドロシーの方が無関係者なので余計に口出しできない。


(……そうなると、カンナを未亡人にしないことが肝要か。今回の任務でゴゲンを生き残らせて、ゴゲン本人が友人とやらを見つける時間が少しでもあれば、ダンダリオンに意識が向く時間も減らせる。名案だ)


 天啓の如き閃きに、頭上から光が降り注いだような気さえする。曇った顔が晴れやかになって天井を仰ぐ。


(腐り狼討伐ではゴゲンから離れないようにして、ゴゲンには爪一本触れさせない)


 一人静かに闘志を燃やす。

 それにしても、チラリとゴゲンと話しているダンダリオンを横目で一瞥する。


(女扱いしてくれない相手に対して、そんな方法もあるのか……)


 ダンダリオンがドロシーに向ける感情は、間違いなく娘か弟子に向けるそれだ。一人の女とは絶対に見られていない。ずっとそうだったので諦めていたのだが、恋愛経験が冬隣の氷並みに薄いドロシーには考えつかなかった上級手法である。


「……既成事実か……」


 無意識に小さく呟く。アーサーが物凄い勢いで振り向いたが、明後日の方向を見ているドロシーは気付くことは無かった。


もしかしたら手直しするかもしれません。

お読みいただきありがとうございました(^o^)

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