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換金

レビュー受付始めました。チキンなので、読むのにはかなり勇気が要ります()


 それから二十年経ったが、残念なことに、魔物の浄化は終わっていない。


 魔物は神出鬼没な上、倒せば魔石になってしまう調査がままならず、おおよその生態しか解明されいない。故に、どれだけの種類が居て、どこに住み着いているのか、あとどれほど残っているのか、わかっていない。


 いつ終わるともわからない浄化作業だが、手を止めるわけにはいかない。

 何故なら、魔物の浄化は大陸に生きる生きとし生ける者が果たさねばならない、女神と勇者から与えられた役目なのだから。


 ――と、大言壮語に語られているものの、魔物退治は良い金になる仕事だと思っている人間が殆どだろうと、自身もそうであるドロシーは思う。命に関わるからと言うのもあるが、魔物の浄化は国を、いや大陸を上げての一大事業だ。報奨金はかなりの高額となる。生活苦に喘いでいる者にとっては有難い依頼であり、傭兵が多いのはその為でもある。


 廊下の壁には女神アルマナと魔王の戦いから勇者が魔王を倒す一連の話をテーマにした絵画がズラリと並んでいる。若者三人はドロシーに置いていかれないように気を付けながらも興味深そうに辺りをそれらを見回しながら歩いている。そうして辿り着いたのは告解室のような作りだが、人が沢山いる広い部屋だ。部屋は二分されており、仕切りの向こうには女神に仕える者の証である白い長衣を纏った神官がいて、訪れた者たちの対応をしている。教会内とは違い、こちらは人の話し声や動作音が多く、少々騒がしい。この部屋が魔石の交換所であり、持参した魔石の量に応じて金品が与えられるのだ。


「私、王都での魔石交換を拝見するのは初めてです。こういう感じなのですね」

「そうなの? って、そりゃそうか。自領の教会で事足りるもんな」

「はい。ナビル領のマルセル教会は小さいし、三人しか神官が居ませんから……」

「個人的にはマルセル教会の方が好きだけどね。ここまでごちゃごちゃしてないし」

「イアソン神官長が会いたがってましたわ。美味しい茶葉が手に入ったから一緒に飲みたいと言ってました」

「すぐすぐの出発だったからね。秋になったら寄らせてもらうから、宜しく伝えてて」


 言いながら、適当な列の後ろに並ぶ。横に広がるのは迷惑になるので、ドロシーとパティ、セインとシャルティアナのペアで二列になって順番を待つ。幸いなことに手際の良い神官なのだろう。隣の列に比べて一人こ二人早く人が捌けていく。これなら早く終わるな、と思っていた時だ。


「おい」

「え? ……僕に何か用?」


 背後にいたセインが何者かに声を掛けられ反応していた。振り返り見れば、セインと同い年位か少し下だろうそばかす顔の少年が、セインを鋭く睨み付けながら肩を掴んでいる。どうやら無理矢理振り向かせたようだ。セインは煩わしげに少年の手を払い除け、シャルティアナを庇うように立った。


「俺の方が先に来てたんだよ。順番変われ」

「はあ? 君が並んでたのは別の列だろ。素直に待つ……のはもう列を外れて無理だろうから、ここの後ろに並び直しなよ」

「女顔の癖に生意気な奴だな。俺を誰だと思ってやがる」

「君なんて知らないよ。というか、顔は性格と関係ないだろ。馬鹿じゃないの」

「なっ! お、女連れてるからって意気がりやがって!」


 呆れ顔のセインの言葉に、少年の顔は瞬時に赤くなって怒鳴り声を上げる。今にもセインに飛びかかりそうだったが、その間にドロシーが入り込む。


「なんだよ! 邪魔すんっ……っ!」


 ドロシーにも噛み付く少年だったが、ドロシーの道端に捨て置かれた邪魔なゴミを見るような冷ややかな視線に、肩を大きく揺らして喉を詰まらせる。


「争いを嫌う女神の教会で喧嘩売るとは馬鹿以外の何者でもないだろうが。例えお前が王族だろうが貴族だろうが、順番は変わらない」


 万物の女神アルマナは平和を愛し、調和を愛する。故に女神の前では人はみな平等な存在であるとされ、教会ではそれが徹底される。


「んなっ……!」

「そもそも、次はわしらの番なのだ。横入り等させる訳なかろう」


 そう言ったのは、ドロシーたちの次に並んでいる筋骨隆々で歴戦の勇を思わせる老齢の男だ。彼の横にいるのは身形の良い若い女で、娘か護衛対象と行った所だろう。裕福な女商人か、もしかしたら貴族かもしれないが、シャルティアナの反応を見る限り知った顔では無さそうだ。


 ドロシーと男の絶対零度に見下ろされて身震いした少年だったが、駆け付けた白い鎧の警備騎士に連れて行かれた。


「セイン、大丈夫!? 肩痛くない?!」とシャルティアナがセインの肩に触れ、パティも「大丈夫?」と気遣わしげに顔を覗き込んでいる。ドロシーは男に軽く頭を下げた。

 

「義弟を助けて頂き、ありがとうございます」

「なんの。お気になさるな。それにしても、お若いのに大した覇気を持ってらっしゃる」

「私など、貴方の足元にも及びません」

「ふむ。少年よ、君は良き姉君をお持ちだ。君も精進するといい」

「は、はい。ありがとう……ございます……」


 何処か心ここにあらずな様子で、セインも男に頭を下げた。会話はここで終わる。この場所では貴族も平民も関係なく、同じ扉から出入りし、同じ席に座り、同じ待遇を受けるのだが、注意しなければ行けないのは、これは教会の敷地内だけということ。一歩敷地外へ出れば線引きは必要となる。過去に教会内で貴族と仲良くお喋りしていたのに外に出た途端に殺された平民の話や、平民の魔石を強奪し懐に収めたが外に出た途端に拉致されて暴行されて丸裸にされた貴族の話もある。それ故に、知らない者同士の会話をしないというルールが暗黙の内になされているのだ。


 程なくして順番が回ってくる。仕切りの向こうにいるのは眼鏡を掛けたいかにも真面目そうな青年だ。ドロシーとセインをチラリと見て、「ここでは争いは御法度です。誹謗はお控えください」と注意してくきた。大分生真面目で頭の固い男のようだ。


「知っている。気を付けよう」とおざなりに返してカウンターの上に置かれた木皿に革袋の中身を落とす。大小入り交じった魔石が十個、重々しい音を立てて転がる。


「少々お待ちください」と皿を手元に引き寄せた神官は、まずはルーペを使って石の真贋を確認し、天秤を使って石の重さを一つ一つ計っては手元の紙に記入して行く。鑑定を終えた神官は紙を背後にいた別の神官に渡し、再度確認が為された後で硬貨の入った革袋を携えて戻ってくる。


「今回はこちらと交換となります。ご確認をお願いします」と、金額の書かれた紙と革袋を差し出され、それがドロシーの計算していた金額と一致していたので了承。受け取りのサインをしてカウンターから離れた。再び長い廊下を戻り、礼拝堂に抜け、女神アルマナの像に向かって黙礼してから外へ出た。通りに出て、そこで皆漸く口を開く。


「すっごーい!こんなに沢山のお金初めて見たー!」

「ちょっとパティ、大声で騒がないでよ! お金を持ってることが知られたら盗まれちゃうわ!」


 ドロシーからお金の入った重い革袋を持たされてパティは興奮しているが、シャルティアナに諌められて慌てて自身の口を押さえる。ドロシーは苦笑しながら革袋を取り上げ、懐の奥に仕舞い込む。


「換金って、ああいう流れでやるんだね。結構しっかりしてるから驚いたよ」

「そうね。マルセル教会とはちょっとやり方が違うから、ついつい見入ちゃったわ」

「そうなの? マルセル教会はどんな感じ?」

「ルーペと天秤使うのは同じだけど、全部イアソン神官長が一人で計算してるのよ。で、もう一人がお金を持ってくる係って感じかしら」

「王都から離れた地方の教会は大体そのやり方だよ。こっちは人の出入りも金の流れも多い分、きっちりしないと後が怖いからね」

「あら、一人体制なのはうちだけじゃないのですね。良かった」

「……こう言ったら罰当たりかもしれないけど、誤魔化されたりするんじゃないの?」

「まあ、セインっ! イアソン神官長はお婆ちゃんなんだからそんなことするわけないでしょ!」

「あ、いや、イアソン神官長のことを言った訳じゃないよ。あの人の清貧ぶりは尊敬してるし、何だったら真似させてもらってるから……ごめん、今のは僕が悪かった。怒らないでよ」


 イアソン神官長は日向ぼっことティータイムが好きな老女だ。大分お年を召してるので鑑定が遅いのは玉に瑕だが、のほほんとして皆のお婆ちゃんと言った感じで、決して不正をするような人ではない。シャルティアナはノーラ神官長に小さい頃から可愛がってもらっていて、かなり慕っている。それはセインも知っているのだが、流石に質問のタイミングが悪かった。


 怒れるシャルティアナを必死に宥めるセイン。端から見ると、恋人同士のようにも見えるが、残念ながら互いに恋愛感情がないらしい。一度だけ、ロードレイク子爵にセインとシャルティアナの婚約を提案され、ドロシーも二人にその気があるならと了承したことがあった。しかし、セインには「その気はない」、シャルティアナには「ドロシー様の義妹にはなりたいのだけど、好みじゃない」とバッサリ断られ、婚約話は流れている。以降は仲の良い友人として付き合っているようだが、ドロシーとしてはお似合いなのだからくっついて欲しいと密かに思っていた。


「あのルーペと天秤を発明したのはかの勇者で、その製作には女神アルマナの力添えもあるらしいから、そう簡単には不正はできないよ。まあ、中にはちょろまかそうとする輩もいるらしいけど、神官二人体制でチェックしてただろ? そのお陰で横領は激減したって話を聞いたことがある。ま、減っただけで、無くなっては無いらしいけどね」

「まだズルする人がいるのね! そんな悪い人たちには女神様の罰が落ちればいいのに!」

「人間なんてそんなもんだからな。ま、自分の経験則に乗っ取って計算できるようになればなんとかなるよ。さて、じゃあ次は……平民街に向かうおうかね」


 正直、このメンバーで行くことにはまだ抵抗があるが、ここまで来たのなら行くしかない。気合いを入れた、その時だった。ドロシーの背後から、ぬっと影が差したのは。


今回も、ご覧いただきありがとうございました(*^_^*)

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