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01話 転生したら〇〇だった件

「………」


「………………」


(…眩しい…頬がチクチクする)


(…もうちょっとだけ寝かせてくれ…)


枕の柔らかさとは違った頬の違和感に、まだ寝てたいと言う欲求は邪魔された。


(…ん?…なんだぁ?)


寝ぼけた意識が霧のもやの様に視界と判断力を鈍らせた。

薄目を開けると目の前は草木の生い茂った野外の様な気がした。

邪魔だと言わんばかりに草のゴワゴワとした感触が頬を刺激する。

咄嗟に状態を起こし辺りを見渡した。


「…なん…だと!?」


昨日いつものベッドで眠りについていたはずが、気づいたら野外に放り出されていた様にそこは草木の生い茂った屋外だった。


「どこだ?ここ…」


東京生まれ東京育ち。物心ついた頃から草や木では無くコンクリートジャングルに囲まれて育った俺からしてみたら、まるでテレビで見た田舎の風景…よりも山奥の中と言った様な光景を目の当たりにした。


(…そうか!呼ばれてしまった様だな!ついに!異世界に!)


普段から妄想癖が止まる事を知らない俺は、最近流行りの異世界転生と言うものをした様な気がした。


「!」


ハッとした。昨日寝る前どうしてた!?いや!服は着ているだろうか!?…大丈夫、なんとかパンツ一丁ではなさそうだった。少し安堵し、もう一度辺りを見渡す。徐にポケットに手を突っ込んだ。何もない。そりゃそうだ。たまにパンイチで寝る事はあっても大事な物をポケットに入れて寝る癖は無い。


「…何もない。そりゃ…そうだよなぁ笑」


そうだ!異世界転生と言ったらお約束のアレだ。


「ステータス!オープン!」


………。


風がガサガサと草木を優しく撫でた。


(…何も起こらないじゃないか!なんだ!?いや、そもそも異世界転生なのか!?俺は死んだのか!?女神が転生させてチートは!?そんなもの無かったぞ!?どう言う事だ!?)


虚しく自問自答していたが、強めの風が吹き少し肌寒く感じて俺はようやく重い腰を上げた。


「…とりあえず、移動するか…」


宛は無い。方向も分からない。美少女が「目が覚めました!?」なんて声をかけてくる事もない。

見窄らしいジャージの下に上はスウェット、厨二病全開の俺は最近買ってお気に入りだった指輪とネックレスをしたまま寝て身につけてる物はそれだけだった。


(町や村でも見つけてこのアクセでも売れば少しは金になるかな?そもそも売れるのかぁ?いや、待て。そもそもここはどんな所なんだ?あー!寒い。春なのか秋なのか、この格好じゃちょっと寒いな。とにかく動こう)


ようやく動き出した脳に必死で命令を出し、まだ半分閉じた目を擦りながら宛ても無く歩き出した。完全な山道だ。こんな所歩った事もない。テレビで見た光景だ。そしてテレビと違うのは獣道すらない生い茂った草木の真っ只中と言う事だった。


その時ー


ガサガサと前方の草木が激しく動いた。


(動物だろうか?人間だろうか?…いやまて、異世界ならバケモンて事もあり得る…どうする!?チートなんてないぞ!?)


思考を巡らしていると唸り声の様な鳴き声と共にソレは姿を現した。

前者なのか、はたまた後者なのか。見た事もない猛獣ですと言わんばかりの自分と背丈が同じくらいの黒い、豹の様な生き物が剥き出しの大きな牙をチラつかせながら姿を現したのだ。

距離にしてみたら10メートルか、素早い動きで飛びかかられたら逃げ切れる自信がない。


「まずい!まずい!まずいっ!!!」


ゆっくり後退りしながらも、落ちていた枝を無意識に拾い前方に構えた。勿論、刀剣スキルなんて発動しない。

剣道経験者でも無い。素人が枝を持って対峙しただけなのだ。


(どうする!?逃げる!?どうやって!?木の枝は?向かってきたら刺す?刺さる!?叩く!?どうしたらいい!?とにかくやばいって事だけは確かだ!)


答えの出ない自問自答に何よりも焦りが勝ち、ジリジリと詰め寄った猛獣を相手に冷や汗をかいていた。


「グルォァァォォァ!!!!」


大きな唸り声と共にソレは自分の巨体を軽々とジャンプさせ、獲物を見つけたまさに豹の様に飛びかかってきた!


(うおっ!!!)


言葉にならない声を出し、右に転倒する様に身体を動かしそれを躱した!そう思った。

相手も馬鹿じゃない。獲物が逸れたのを太く鋭い爪の前足を伸ばし、俺の肩から腕まで大きく切り裂いた。


「っ!ア゛ア゛ア゛ッッ!!!!」


(やりやがった!)


思いっきりデカイ猫に引っかかられた様な爪痕が肉を割いた。溢れる血をまじまじと見た。辛うじて左手は動くが痛みよりも熱さを感じ、裂かれた箇所はジンジンと火に炙られている様な感覚だった。


(クソックソッ!クソッッッ!!!!)


(こんなチンケな枝じゃ無くてスパッと切れる様な剣だったらまだ戦えたかもしれないのにっ!…剣か…本物は重いって言うしな…いっそ軽くて…羽みたいに…そういえばゲームに刀身が見えない剣みたいなのがあったな…あんな風に…見た目は!そうそう!あんな感じの…)


「う…あ!」


突然、持っていた右手に力が入り血液がドクドクと手のひらまで集まる様な感覚を覚えた。怪我でもしたか!?思いパッと枝を持つ手を見ると、枝がまるで魔法の様に思い描いた剣に変わったのだ!


「…チートだ…!軽い!」


目の前の猛獣に目を離すことなく、近くの木の枝を試し切りしてみる。

およそ剣を持っている感覚も無く、そしてみずみずしい枝も抵抗する事なく豆腐の様にパックリと切れた。余りにも手応えがなく、木を見てしまった。


(…枝が落ちてる…これは…いける!)


俺はこの時、笑っていたかもしれない。感情が昂り思わず声を上げた。


「これなら!」


武器を手にした俺は逆に相手が獲物に見えた様に、大きく剣を振り上げそして獲物の顔目掛けて振り下ろした。


相手もそれに合わさ前足で俺を捕らえようと、大きな爪を剥き出しにして掴みかかってきた。


剣は相手の顔を捉え、硬いとされる頭蓋骨を豆腐の様に切り裂き手応えなく地面に落ちた。

前足から出た爪が俺の身体を切り裂いたが、先ほどよりも浅く致命傷は免れた。


普段運動不足の俺は大きなため息をつき、木陰に腰を落とし目の前の獲物をどうしようか考えたのだった。


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