第3話「部活動紹介の案」
真守と美優と蒼太が今後の予定(部活動紹介案)を考える話。運営方針自体は純恋が登場したのちに。
高校生活最後の始業式が終わり、数日後の放課後の写真部。
蓑山高校では、始業式後の1週間はどの学年も授業等に慣れるために授業時間が通常よりも短く設定されている。そのため、例によって、放課後の部活動時間に余裕が生まれ、必然的に部活動は長くなる。
今日の部活動では、今後の部活動方針について話し合っていた。
「今年の1年生、19人だって。顧問が言ってた」
「また少なくなってるし……、このままだと閉校か、他と合併とかあり得そう」
「流石に閉校にはならないんじゃない? 合併のリスクは十分ありえるけど」
というのも、蓑山高校の新入生は毎年減少傾向にある。
蓑山町の少子高齢化による過疎化の影響もあるだろうが、田舎という点も捨てがたい。
「あれ、私たちの時って何人だったっけ?」
「確か全体で30人は超えていたはず、でも何人か退学してるから……」
このところ写真部では、新入生について話し合っていた。というのも、毎年入学者数が減っている、この蓑山高校で新入生をどう写真部に入部させるかというものだ。例によって、この時期は、部活動勧誘の時期なのである。
「もし写真部に入部希望の方が一人もいなかったらどうします?」
「まあ我々の代で終わりってことだね。新入生が入部しなければ、俺たち3人のまま、もしそうなれば、卒業したら廃部かな……」
実はこの写真部は真守、美優、蒼太の3人しかいない。そのため事実上廃部の危機にあるのだ。しかも、この学校では、必ずしも部活動に参加しなければならないという制限は存在しない。ただ、今後の写真部運営のためにも最低でも一人は新入生を呼び込みたいところである。
「なので、部活動勧誘でな……」
真守が話を切り出すと、それを待っていたとばかりに美優が手を挙げた。
「はーい」
写真部で唯一の女性部員である美優。体付きが良くバリバリ運動部系の体質なのだが、実際のところ運動音痴で、どちらかというと文化部、そして割と影の薄い写真部に所属している。
もちろん、どのような回答を出してくるのか、気になるところではあるが、想定外の案を出してくる事が多く、正直嫌な予感しかしなかったが、案の定の回答だった。
「私の案は、部長を女装させて、例えばメイド服とか、セーラー服とかを着させて、私たちが一眼カメラもって部長を撮影する構図でアピールするのがいいと思う!」
「それ絶対、お前の自己欲でやりたいだけだろ? というか、そもそも勧誘期間中の仮装許可出てんの?」
「一応仮装の許可は出てるらしい。顧問が言ってた」
「なるほどね。一応一つの案として考えておく。他何かあるか?」
なぜか美優が驚いた表情でこちらを見てくる。
「どうした美優、また何か案でもあるのか?」
「私の案、いつも真守君に受け入れてもらえないのに、今日は受け入れてくれたからすごい珍しいなって」
「するとは言ってないからね。案の一つ的な感じで受け取っておく」
流石に女装して人前で説明するのには無理があるだろう。というか無理だろう。それこそ写真部が変な部活動だと認識されて新入生が来なくなる可能性がある。
「じゃあ、逆に蒼太くんはいい案あるの?」
ここまでの話を終わらせたのち、美優は蒼太に目を向ける。
「え、僕? そうだね、自分は去年と同じでいいと思うけどな」
「去年の案って何だっけ?」
「去年は、確か、一眼レフを新入生に触れさせてあげて、実際に被写体を撮影してみる、体験型のような感じだった気がする」
「蒼太、それ多分新入生が部室に来てくれた時の体験だと思う。今考えてるのは、体育館で発表する部活動紹介をどうするかの方」
部活動紹介と言っても、大まかに2つのパートに分かれている。最初に行われるのは、全ての活動が体育館にて合同で行う部活動紹介。その次が部室での紹介になる。
「なるほど、そっちね。んーでも自分は去年と同じでカメラを肩に持って撮影した写真を展示する方法かな」
「でも、なんか毎年同じテンプレな方法だと面白くなくない?」
確かに毎年カメラを持って写真を展示するだけというこの写真部の紹介では、新鮮味も面白味もないため、かえって魅力を伝えられず、他の部活動に新入生を取られる可能性がある。
「ところで、真守は何かいい案あるん?」
「俺? んー、そうだな」
いや、待てよ。今の時代、本格的な一眼レフなどのカメラを使わずにスマホのカメラで簡単に写真が撮れる。てことは、わざわざ写真を印刷して額縁に入れて持つ必要はないのでは?
俺は少し気になったことについて、美優たちに説明してみることにした。
「お、真守、何かいい案思いついた表情だけど何か思いついた?」
真守には表情で何か感づかれていたようだ。
「デジタル背景なんてどう?」
「デジタル背景?」
「デジタル背景ってことは、写真をデジタルな背景にするってこと?」
俺の言い方が悪かったのか、蒼太は意味が分かっていなさそうな表情をしている。美優には、ギリギリ伝わっているようだ。
「言い方が悪かったな。すまん、すまん。えっと、カメラで撮影した写真あるじゃん?」
「うん」
「そのデータをパソコンに保存する。パソコンに保存したら、スライドショーを作って、
プロジェクターに投影する。これでデジタルな背景の出来上がりってこと」
「なるほどね、なかなか面白そうだし、新鮮味もあって良いと個人的にはいいと思う」
「私も賛成! 絶対そっちの方が撮影時間に余裕出来るから私的には嬉しい」
デジタル背景案は美優と蒼太にも好評だったようで、特に難色を示すことなく受け入れてくれた。まあ、部長だからというのも関係するのかもしれない。
「しかも、デジタル背景を使えば、部活動紹介の時に全員でカメラ持てるからね」
「確かに。今までだと、一人か二人が写真を持って他の人は一眼レフを持つ感じだったけど、それがデジタル背景で写真を持つ人がいなければ人数が少なくても大丈夫だしね」
写真部の人数的にも従来の方法よりもこの案の方が人数配分しやすい。何なら、全員にカメラを持たせて、撮影風景を実演しながら説明することも可能である。
「ところで、真守くん。部室での紹介はどうするの?」
「俺は今のところデジタル案でいいかなと思ってるかな。もちろんアナログの写真も展示する想定。正直、別の考えるの面倒くさいし、同じでいいかなってね」
すると何だか楽しそうな表情を浮かべた美優が不思議なことを聞いてきた。
「え、じゃあ、花とか、金魚とか展示していい?」
「いいけど何するん? 体験入部の時の被写体?」
「そう、それ! やっぱり写真部を体験するなら、静止している被写体も良いけど、折角だし動いてる被写体を撮るのもいいかなと思って」
「それ、採用だな。というか、美優って本当に動く被写体好きだな」
俺に採用されたことが嬉しかったのか、「やったー」と美優の小声が聞こえた。
「というか、日野鷺がまともな回答してるの珍しい……」
「確かに。ていうか、いっそのこと体験入部の時は、一眼レフを教えずに『スマホで上手に撮れる方法』的なコンセプトでやってみる?」
まだ写真の知識もない新入生に一眼レフを渡して自由に撮ってもらうという方法がある。一眼レフは本格的な写真を撮影できるが、扱い方を説明するのが難しい。しかし、スマホの場合、一眼レフのように本格的な写真が撮れない反面、写真を「誰でも、気軽に、簡単に」撮影することができる。であれば、カメラの知識をスマホに活かして説明すれば、新入生の心を掴めるのではないか。
「私はOKだよ!」
「自分もいいかな」
「よし、じゃあ、決まりだな。コンセプトは、体験入部の時が『スマホが上手に撮れる方法』だから、部活動紹介の時は『デジタル寫眞館』にしよう」
その時の俺は、とにかく数日後に控える、部活動紹介が上手く出来ればいいなと考えていた……
次話は遅くても2月20日までには更新します。