妹は我慢が苦手。
本は、思ったよりも読みやすかった。
前世の記憶がよみがえった私にとって、内容はラブファンタジーみたいなモノだからだ。
でも、1つ大きな問題が……。
本を読み慣れていない私は、壊滅的に読むスピードが遅いのだ。
とにかく、精霊と共存していた一族の生き残りで妖精の姿を見ることができる。
そして、妖精が力を貸してくれることで精霊使いとして魔力を上乗せし使うことができるということ……。
しかも、妖精の力はいわば自然そのものなので、いくらグラントリアの人々が”火・水・土・木・風”の能力を持っていようが対抗できないのだ。
母が言っていた”私が知ってるのは姉だけ”という言葉の意味は、叔母さましか使えないのか、もしくは母も含めて言っているのか……。
本を読まないと質問に答えてくれなさそうだし、頑張るしかないのか。
(ドナルドさまよ。)
(このクラスに何の用かしら?)
令嬢たちのひそひそ話が聞こえて、顔を上げるとドナルドが立っていた。
「やぁ、ごきげんようマリー嬢。難しい顔をしているね。」
いつも通りの微笑みで、他の令嬢たちの視線が痛いような気もする。
「どうされたのですか?」
そう言うと、ドナルドは両手で口元を隠し「チェイス王子が呼んでる。」と言った。
ついに、来たか……。
流石に、王子が呼びに来るのは目立つのでドナルドに頼んだんだろうが、十分目立っている。
初等部の生徒会室へと案内された。
そうか、すでに成績優秀なチェイス王子とドナルドさまは生徒会のメンバーだった。
「呼び出して、すまない。ここなら、誰も来ないから安心してくれ。」
ドナルドは、部屋の中には入らなかった。
正直、もっと早く呼び出されると思っていたとは言わない方が良さそうだ。
「レニー嬢に話しは聞けたか?」
まぁ、その質問しかないでしょうね。
「えぇ、そのことなんですが。父の神獣のせいで両親にあの件がバレてしまいました。」
思ったよりもチェイス王子は、驚かなかった。
その可能性に気づいていたのか……。
「それで、チェイス王子たちと直接話がしたいので招待するようにと父に言われています。」
チェイス王子が少し緊張したのがわかった。
父のことがもしかして、怖いのかしら?
「たちとは……?」
ドナルドとロベルト王子には話していなかったようだ。
案外、信用できそうで少し安心した。
「ドナルドさまとロベルト王子にも、話しを聞いて欲しいようです。」
チェイス王子は、ふぅっと息を吐きだした。
「いや、すまない。実は、2人に隠しているのが少ししんどくて困っていたんだ。」
確かに厳しい性格だけど、よく言えば真っすぐでもあったはず……。
「ふふっ、そうですか。では、週末でもよろしいでしょうか?」
「あぁ、頼む。そういえば、あの後、レニー嬢は大丈夫なのか?」
おや、レニーのことを気にかけているのだろうか。
少し戸惑っている様子をみると、とっさに出てしまった言葉なのかもしれない。
「レニーは元気です。昨日もネコと弟のローランと遊んでいました。」
少しチェイス王子の表情が緩んだ。
「そうか。では、週末にもし無理な場合は連絡をくれ。」
父が帰ってきたタイミングで、書斎に会いに行った。
「あぁ、マリー。今週末かい?」
父は、エスパーか何かなんだろうか。
「はい。まだ、ドナルドさまやロベルト王子たちにも話していなかったようです。」
それを聞いた父は、少し微笑んだ。
「へぇ、意外に頑張ったようだね。わかったよ。」
ミシェルとダニエルには、どう説明をするのだろうか。
「弟たちには、どう話すのですか?」
「んー。少し時期をみようと思う。あの子たちには、私のタイミングで話すよ。週末は、兄さんの元へ行くことになっているからね。」
そうなのか……。
じゃあ、しばらくミシェルとダニエルには秘密をもつことになる。
「そう言えば、アナスタシアの日記は面白いかい?プレゼントの本の感想は届かないけど……。」
いたずらっぽく父が笑った。
「……あの本はとても、興味深い本です。」
まさか、あの本で転生した記憶を思い出したとは言えない。
本のせいではない可能性も捨てきれないけど……リスクが高すぎる。
「ははっ、上手い返しを覚えたね。」
お父様は、きっと私が本を読んでないと思っているわ。
まぁ、確かにあの本は読んでいないのだけど……。
「お父さまと話していたの?」
部屋に戻る途中にふいに声をかけられ、思わずびっくりしてしまった。
「えぇ、そうよ。」
少し私の顔を見つめたミシェルの表情に罪悪感を感じた。
でも、すぐにいつものミシェルに戻りにっこりと微笑んだ。
「宿題頑張ってね。それと、レニーが待ってるよ。」
宿題?アナスタシアの日記のことだろうか……。
だとすれば、どこで知ったのだろう。
書庫へ入るのを見られていたのかもしれないな。
「ありがとう。」
レニーは、どうして待っているのかな。
あの日のことで、やっぱり不安になってしまったのかもしれないわ……。
ミシェルの表情が少し気になったけど、私はレニーの待っている部屋に向かった。
ドアを開けるとレニーがチッチと待っていた。
「レニー?どうかしたの?」
レニーは、待っていたくせに驚いた表情をした。
「お姉さま、マフィンをロゼがくれたので一緒に食べましょう?」
レニーの前には、2つのマフィンが置いてあった。
けれど、片方が少し欠けている。
我慢できずに少し食べたから、それで驚いていたのね。
「ふふっ、ありがとう。えぇ、一緒に食べましょう。」
きっと、どんなことがあってもこの子の為なら私は頑張れるような気がした。