妹の為に、本を読破します。
レニーが出会った神獣のことや、チェイス王子のこと。
それに、母が何故王族のことを拒むのかが気になってよく眠れなかった。
私は、そもそもグラントリアについても父と母についても、まだよく知らないのだ。
学園といっても、令嬢はみっちり授業を受けるというよりは嗜みや礼儀などがメインになっているし……。
常識やマナーなども教わるが、あくまで令嬢としての範囲だけだろう。
中等部に上がれば、魔法に関する授業があるので少しは知識が増えるかもしれないけど……。
あと2年も待っていて良いのだろうか。
コンコン(ドアをノックする音)
私の部屋を訪ねて来たのは、母だった。
「お母さま……。」
母は、私の顔を見て少し困ったような顔で微笑んだ。
「様子が気になったの……。すごいモノを見たでしょう?」
確かに、人に説明しろと言われてもピカッと光って中から妹とネコ科の神獣が出てきたとしか言えない……。
「やっぱり、昨日のようなことは普通……。」
「私は、聞いたことがないわね。」
そうなんだ……。
「通常、魔力が目覚めるのは10歳~11歳。稀に、早い子でも8歳くらいかしら……。そして、アレクセイのように神獣との契約を結ぶのは大体18歳以上ね。」
「契約……?」
「まぁ、レニーの場合は契約をしたわけではないでしょうけど……。入った場所や聞いた音や神獣のことを考えると、私たちの常識の範囲で説明はできないわ。」
そんなことは、なぜ乙女ゲームでは描かれていないんだろう。
でも、それよりも私が気になったのは……。
「王族が嫌いなのですか……?」
母の顔が一瞬曇ってしまった。
やはり、聞くべきではなかったのだろう……。
「王族が嫌いというわけでは……。ふふっ、説明が難しいわね。」
困らせてしまったようだ。
「……ごめんなさい。」
母は、私の頭を撫でて謝らなくても大丈夫だと言った。
「マリーは、妖精を信じてる?」
突拍子もない質問に驚いたが、この世界ならばいてもおかしくはないかもしれない。
「いるんですか?」
母は遠くを見ながら、話しだした。
「私は、ウィッチ伯爵家の令嬢で高い魔力を持っているの。ウィッチ家の人間は基本的に魔力が強いんだけど……。その中でも、数少ない精霊使いの一族なのよ。」
精霊使い……?
「じゃあ、私たちもそうなのですか?」
「魔力と一緒で、必ずしも遺伝するわけじゃないの。実際に、あなたのおばあ様にはなかったわ。他の一族たちは、精霊使いの力を強める為に血を濃くしたりもしていたけど……。私が知っているのは、姉だけね。」
そうなんだ……。
レニーは、特別ルートだからともかく私が持っていれば乙女ゲームでも登場したんじゃないだろうか。
ということは、私に精霊使いの能力はないのかな。
「精霊使いのことが知りたい?」
興味はあるし、何よりもレニーが継いでいるとすれば、知っておいた方が良いだろう。
「はい。」
私が返事をすると、母は書庫へと私を連れて行った。
母は、一冊の本を取り出した。
「これは、ある女性の日記を元に綴られた物語よ。遠い祖先にあたる人物のモノだから、精霊使いに関することを知るにはちょうどいいはずよ。」
”アナスタシアの日記”と表紙に書かれている。
アナスタシア……。乙女ゲームのどこかで、彼女の名前を聞いたような。
でも、ヒロインではなかったはず……。
「マリーには、少し大変かしら?」
母は、いたずらっ子のように微笑んだ。
「大丈夫です!」
「ふふっ、それなら読んだらもう少し詳しいことを教えてあげるわね。」
なんとか、この本を読み切らなければ……。
他にも調べたいことはたくさんあるし、考えただけで知恵熱がでそうだ。
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普段は、レニーやローランと過ごすか本を読んで勉強をして過ごすけど……。
姉さんだけでなく、お父さまとお母さまの様子がおかしい。
それに、昨日チェイス王子がレニーを探してくれたと姉さんは言っていたけど、彼はいくら公爵家の令嬢相手でも女の子相手に手を貸したりはしないだろう。
レニーのことで何かを隠されているのと思うだけで、少し腹がたつ。
みんなの様子をみる限り、レニーにはきっと状況が把握できていないんだ。
苛立ちを抑える為に、剣を振り回す……。
振り返りざまに剣を振ると、止められてしまった。
「剣術の稽古を自分からするなんて、珍しいな。」
「ダニエル……。」
ダニエルの手にも剣が握られていた。
僕は、どちらかというと疲れるから剣術は嫌いだ。
「……お前が苛立っているとうつるんだよ。」
「双子だからね。」
ダニエルは、なにがあったのかなんて聞かない。
僕らは、2人で1人のようなモノだから。
「今、気持ち悪いこと考えただろう?」
「ふふっ、さぁ?勝ったら教えるよ。」
まだ、6歳にもならないレニー。可愛い僕たちの妹。
何があっても、僕たちがみんなを守るんだ……。
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部屋へ入ってきたアイリーンは、複雑な表情を浮かべていた。
「浮かない顔だね?」
彼女は、基本仕事部屋に自分からは入って来ない。
「…私、マリーにアナスタシアの日記を渡したんだけど……。早かったかしら?」
アナスタシアの日記かぁ……。
久しぶりにその本の名前を聞いたな。
「君が渡したのなら、それがきっと正しい時期だよ。マリーが読み終わるのは、きっと来年くらいだろう。」
少し冗談を言うと、アイリーンが笑った。
「ふふっ、あの子あぁ見えて負けず嫌いなのよ。それに、お姉ちゃんとしてレニーの為にきっと知ろうとしているの。」
お姉ちゃんか……。
確かに、昨日からマリーの顔つきが少し大人っぽくなったようにも感じる。
「じゃあ、俺は説明しないといけないね。」
アイリーンはきょとんとした顔で俺を見つめた。
「精霊使いだから、好きになったんじゃなくて、君だから好きになったんだって。」
みるみる顔が赤くなっていく。
「もうっ、いつまで経っても冗談ばっかりなんだから!」
逃げ出そうとする、アイリーンを腕の中に閉じ込める。
「本当だよ。ただ、妖精と遊ぶ君に惹かれたのは事実だけどね。……まだ、仲直りしないのかい?」
「…きっと、許してはもらえないわ。」
マリーが精霊使いの勉強をすることで、アイリーンにも良い変化が訪れるかもしれない。
「君が恋しがっているのなら、きっと向こうも同じように……。」