妹の聞いた音。
家に着いた私は、父と母に呼ばれてレニーと部屋に行った。
「疲れているかもしれないけど、少し話を聞かせてくれる?」
アイリーンは、レニーの方を見て言った。
もう、茶会であった出来事を両親は知っているの……?
「詳しく話してなかったけど、ガオは私と一心同体のようなモノだからね。今日起きた、ある程度のことは知っている。」
父は、ガオを撫でながら私の方を見て微笑んだ。
レニーから目を離してしまったことを怒っているのだろうか、それとも…チェイス王子と話したことも筒抜けなのだろうか。
「レニー、姉さんたちに離れるなと言われたのに、なぜ1人で庭園へ向かったんだ?」
珍しく父の口調が厳しいので、私とレニーは少し委縮してしまった。
「レニー?どうして行ったか覚えている?」
母は、父をなだめるように彼の肩に手を置いてレニーに尋ねた。
「何かの音がして、その方向にいくと尻尾が見えたから追いかけたの……。ごめんなさい。」
父と母は、顔を見合わせた。そして、レニーの方を見て再び質問をした。
「どんな音が聞こえたの?」
「ん~。……シャーンシャーンみたいな感じかなぁ?」
音の正体を知っているのかと思ったけど、2人にもわからないようだ。
「中には、何がいた?」
「いろんな生き物がいたの!それで、チッチよりおっきい子もいた。」
とてもレニーの説明じゃ、理解するのは難しいだろう。
それに他にも、たくさんの生き物がいたのかしら……。
「…わかった。ロゼ、レニーを部屋へ連れて行ってくれ。」
レニーは、ロゼに連れられて部屋へと向かった。
怒られるのだろうか……。
「アイリーン、少し席を外してくれるかい?」
「えっ、…わかったわ。」
「後で話そう。すまないね。」
今まで、父が怒っているのも怒られた記憶もない……。
ぎゅっと目を瞑って覚悟を決めた。
「マリー、怒ってはいないよ。心配しただけだ……。」
心底ほっとした。
前世でも怒られたような記憶はないし、人生で初めて怒られると思ったのだ。
「では、なぜお母さまを?」
私を叱るのではないのなら、母に席を外させる理由がない。
「あぁ、それは……。アイリーンが、王族の話を少し嫌がるからだよ。」
そう言えば……。ヒロインのマリー・アストレアの最大の難関は、王族を嫌っている母の説得だった。
ロミオとジュリエット的な雰囲気が、好きだったような気も……。
でも、そうなればレニーをチェイス王子の婚約者にする場合も母を説得しないといけないのだろうか……。
「それで、王子にも見られたんだね?何を話した?」
今は、ひとまず父に説明するのが先か……。
ウソをつくのは難しいだろう。
「はい。チェイス王子は興味深々でしたが、国王たちに報告する気はないとおっしゃってました。」
父は真っすぐに私の目を見た。
おそらく、私がウソを言っていないか探っているのだろう……。
「そうか。それで、彼は他に何か言っていたかい?」
「個人的に話しを聞かせて欲しいと……。私は、レニーに話しを聞いて報告すると約束しました。」
今度は、私の方は見ずに目を瞑って黙り込んでしまった。
「まぁ、そうだろうな。…彼を、信用できると思うかい?」
急に開いた目に、少し驚いてしまった。
「無理に聞きだすつもりなら、私たちを引き留めることも可能だったはずです……。」
その言葉を聞いた父は、少し微笑んだ。
「そうか……。では、家に招待するといい。私から、彼に話しをしよう。」
予想外の答えに、とっさに言葉が出なかった。
「いいんですか?」
「変に詮索されては困るし、レニーがあったのが神獣だとなると……。彼らに協力してもらった方が時間が稼げるかもしれないからな。」
ん?
「彼らとは?」
「ドナルドとロベルト王子だよ。2人も招待して構わない。もちろん、判断はチェイス王子に任せるが……。」
少し、背筋がゾクッとした。
もしかして、父は3人を抱き込んでしまおうと考えているのだろうか……。
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レニーが出会った神獣がなんであれ、厄介なことに変わりはない。
年齢や魔力うんぬんよりも、女が神獣と契約するのは異例中の異例だ。
前例と言えば……神話レベルの話しになる。
まぁ、あの入り口さえ見つけたモノを知らないが……。
チェイス王子が知ってしまったとなれば、こちらの味方にするか、見た神獣の記憶を消してしまうかだが、前者の方が望ましいな。
「アレクセイ……。」
何年振りかにアイリーンの不安げな顔を見た。
「大丈夫だよ。何があっても子供たちは守ってみせるさ。」
下を向くアイリーンの顔を包み込んだ。
「でも、私の力をレニーが継いでいるとすれば……。」
精霊に愛された一族ウィッチ伯爵家。
その中でも、アイリーンの精霊使いとしての能力はずば抜けていた。
美しい彼女の顔を曇らせるのは、いつもあいつだ……。
いっそ、追放ではなく殺してしまえば良かったな。
まぁ、そうなればこうやって共に暮らすことも、可愛い子供たちを授かることもなかっただろう。
「俺を信じてくれないのか?」
「そんなっ、そういうわけじゃ……。」
ふいに顔を近づけると、まだ赤くなる彼女が愛しくてたまらない。
この幸せを壊す者がいるなら、私はきっと容赦しないだろう。