両親の不安と消えた妖精。
はぁ、厄介なことになったな。
どれだけ忙しくても、家に帰ってくると気が安らぐ……。
「お帰りなさいませ。旦那様。」
アーティの顔を見れば、何かがあったとすぐにわかった。
部屋に行くと、アイリーンとロゼが話していた。
「どうしたんだ?」
「今日、レニーが熱を出して……。妖精王に治してもらったわ。」
妖精王に治してもらったということは、イヤーカフが関係しているのか……。
申し訳ないことをしたな。
「先ほど、食事を食べて眠られましたが、自分が何かをしたのかと気にしていました。」
まだ子供とはいえ、周りの変化には敏感だろう。
私たちだけでなく、マリーも気を張っているようだし。
ミシェルとダニエルも、何かあることには気づいているハズだ……。
「……そうか。」
ロゼとアーティは部屋から出た。
「レニーのイヤーカフは、もって10年だそうです。それに……。」
「それに?」
アイリーンが口ごもった。
「運命だから逃げることはできないと……。」
レニーの運命か……。
神獣に会ったのが必然だと言っているのだろう。
そして、この先も……。
「そうか……。」
「えぇ、彼でも神獣の力には干渉できないから。」
まぁ、そのことは元々知っていたが。
ガオでも入り口に入ることができないのだから、神獣同士でもランクが違うのは明白だ……。
だが、7種類の魔力に今までに現れたとされているのが6種類。
古い神話を除けば……。
「あの日、なぜマリーがレニーを連れて行こうと思ったんだろうな。」
「えっ……?」
「いや。何でもない。」
本の感想は一向に届かない。
アナスタシアの日記を読むのに忙しかったからかもしれないが、出だしやジャンルなどを伝えてきてもおかしくはない。
アーティは、タイトルなどが書かれていない本だったと言っていたが……。
念のため、同じモノを探させた方が良いかもしれないな。
「話しは変わるんだけど……。」
「どうしたんだい?」
さっきから異様に横をチラチラ見ている。
もしかしてとは思ったが……。
「久しいな。若造。」
「あぁ、久しぶりですね。ふふっ、もう学生ではありませんよ。」
彼女がアイリーンの元に戻ったのなら、再び魔法を使う決心をしたのか……。
「我らにすれば、お前などいつまでも若者だろう。」
小さいクセに態度がデカいのは相変わらずのようだ。
「戻ってくれて、心強いですよ。」
「アレクセイだけでは、アイリーンも心細いだろう。それに、お前に話しがあったんだ。」
確かに俺だけでは、心細いのかもしれないな。
話しか。できれば、もう少しアイリーンには黙っていたかったんだが……。
「妖精のことですね……?」
「あぁ、目星はついているのか。」
街では最近、妖精を探していた異国の者がいると聞いている。
念のため探ってはみたが、その噂さえ怪しい……。
なんせ、我々には見ることさえできないし、居なくなったかどうかもわからないのだ。
「残念ながら……。妖精がいなくなっていると言うのは、本当ですか?」
「…基本的に、妖精は自由に暮らしている。だから、どこかへ行っているだけかもしれないが、いつも妖精王に外の様子を知らせる者も帰ってこないのだ……。」
ティアの表情を見る限り、事態は深刻なようだな。
「何か、追う方法などはありますか?」
「ある程度近くにいけばわかるが、探しに行った妖精も何人か戻って来ない……。」
そうなれば、こちらで探すしかないということか。
もし、本当に妖精を攫っている者がいるとするなら、これ以上被害を出すわけにはいかない。
「アレクセイ、私とティアが手伝えないかしら?」
アイリーンが提案してくれた。
もちろん考えなかったわけではないが……。
「ダメだ。」
「でもっ……。」
確かに、精霊使いのアイリーンからすれば妖精たちが狙われていると知れば気が気じゃないだろう。
「街で話しを聞いていると、何人かが妖精のようなモノを見たと言っているんだ。」
「そんなことありえないだろう。」
ティアの発言はもっともだ。
妖精のほとんどは、精霊使い以外の人間のことを嫌っている。
力を追い求めるバカたちに、幾度となく狙われてきたのだから当然だが。
「もちろん、見間違いの可能性も。だが、……術式を使えば姿くらいは見えるのでは?」
ティアとアイリーンの表情が変わった。
やはり、術式で妖精の姿を見ることができるのか……。
「やはり、アイリーンとティアに協力は頼めない。ティアは、すまないが妖精王に伝えて妖精たちが森の外へ行くのを禁止してくれないか?」
「……わかった。」
もっと詳しく街で、話しを聞く必要がありそうだ。
本当に異国の者が妖精を捕らえる為に術式を使ったのだろうか……。