序章?
静まり返った会場。
みるみるうちに青ざめていくウォルトの顔とは、対照的に真っ赤に染まったウォーリア国の国王の顔。
ウォルト「……なんだこれは。――僕の用意したものじゃない!」
流された映像は、ウォルトが数々の女性を口説き、ナタリー以外と関係を持っていた証拠だった。
国王「……めろ。」
兵士「えっ……?」
国王「今すぐに止めろと言ったんだ!!」
国王が声を荒げた。
他国の来賓を迎えているこのパーティーで、王子の不貞が明らかになり、王族は恥をかいたのだ。
ウォルト「お父さま、違うんです!!――僕は……」
国王は兵士に詰め寄り、ウォルトの言葉など耳に入っていない。
ウォーレン「では、1度止めてください。」
ウォーレンは、兵士たちに優しく告げた。
ウォルト「アンヌ、僕はナタリーにはめられただけだ。――君と過ごすようになって僕は変わったんだ。」
ウォルトは、必死にアンヌの肩を掴んで説明をしている。
顔を上げたアンヌは、にっこりと微笑んだ。
彼女の表情を見て、安堵したウォルト。
アンヌ「ウォルト王子、何か勘違いをされているようですね。」
ウォルト「えっ……?」
アンヌは、ウォルトの手を払った。
ウォルト「どういうことだ……?」
アンヌ「私は、あなたのことを愛してなどおりません。――ましてや婚約に同意もしていませんよね?」
ウォルト「今さっき、君は僕との婚姻を結んだじゃないか!!」
アンヌ「ふふっ、まだおわかりになりませんか?」
アンヌは、ナタリーやマイル公爵の元へ向かった。
マイル「ウォルト王子、僭越ながら先ほどの書類はあなた様と娘の婚約が破棄になっただけでございます。」
ナタリーが微笑んだことで、ウォルトの顔は真っ赤になった。
ウォルト「何を言っている……?」
何も理解できないウォルトとは違い、国王は何が起こったかを理解したようだ。
国王「ウォルト、これ以上恥を晒すのは辞めろ。」
ウォルト「ですがお父様……。」
国王は、冷たくウォルトを睨み付けた。
国王「もう言い訳も出来ぬが……。君がこんな愚かしいことをするなんてね。」
国王は、視線をマイルに向けた。
マイル「私の国への忠誠心は本物でございます。」
緊張した空気が流れる。
国王「まぁ良いでしょう。――こちらには……。」
国王は、ウォーレンへと視線を移した。
国王(少し、早いが……。ウォルトがこれでは仕方ないか。)
ウォルトは、アンヌへ近づいた。
ウォルト「アンヌ……。」
アンヌ「私が、1度でもあなたに好きだと言ったことがありましたか?」
冷たい表情で、アンヌが言い放った。
言葉を失ったウォルトは、会場を後にしようとした。
ウォーレン「お兄さま、お待ちください。――これからが本番ですよ。」
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証拠が流れ始め、私たちは顔を見合わせた。
ライラ「令嬢の復讐ですね。」
マリー「そうね。――ここまで証拠が揃ってたら言い訳もできないでしょうし。」
なびかない女性には、王子という権力をちらつかせるなんて、最低だわ。
レニーは、ただ黙ってナタリー嬢たちを見つめてる。
サーリア「それにしても、ナタリー嬢はずいぶんと前から計画をしていたようね。」
よっぽど腹が立っていたのだろうか。
それとも、ナタリー嬢の家に引き取られたアンヌが、恩を感じて彼女に協力したのだろうか?
まぁ、どんなりゆうであれナタリー嬢の為にもウォルト王子との婚約は解消すべきだったのだろうけど。
ドナルド「さぁ、公爵家だけの計画ではないでしょうけど……。」
ドナルドは、ミシェルの方を見た。
ミシェルは、ドナルドににっこりと微笑み返した。
チェイス「まったく……何が始まるんだ。」
2人のやり取りを見たチェイスがため息をついた。
ザンダー「パーティーを楽しんでいるかい?」
いつの間にか側に来ていたザンダーが私たちに声をかける。
チェイス「この状況で、何を楽しむのですか?」
ザンダー「ふふっ、確かにね。――でも、レニー嬢は新しい友達を見つけたようだね。」
レニーは、いつの間にか離れた場所で令嬢たちと話していた。
マリー「ほんとに、すぐに居なくなるんだから。」
レニーの元へ行くと、彼女はマキナ国の令嬢たちと話していた。
レニー「お姉さま、今ねマキナ国で今流行っているおまじないを聞いていたんですよ。」
嬉しそうに話すレニー。
マリー「妹が失礼いたしました。――離れちゃダメでしょ。」
レニーの手を引いて、みんなの元へ戻った。
マリー「本当に、マイペースなんだから。」
ザンダー「レニー嬢、面白い話しは聞けたかい?」
ザンダー王子は、にこやかにレニーに尋ねた。
レニー「えぇ、マキナ国の恋のおまじないはとても興味深かったです。」
その言葉を聞いたチェイス王子が明らかに反応した。
ザンダー「それは、良かった。――それにしても、ウォルト王子は誰にも愛されて居なかったようだね。」
確かに、彼はアンヌに愛されていたと思っていたのだろう。
気の毒には思えないけど……。
ライラ「随分と、あっさり終わりましたね。」
少し残念そうにしているライラを見て、同じ気持ちだとは流石に言えなかった。
やっぱり、ゲームのイベントのようにはいかないのね。
国王も公爵家にはめられたようなモノだけど、どうなるのかしら?
ウォルト王子は、さっさと退場しようとしてるけど……。
ウォーレン「お兄さま、お待ちください。――これからが本番ですよ。」
ウォーレン王子のこの一言で、事態は思わぬ方向へ向かっていくことになった。