同意と証拠
ウォルト王子の発言で会場が一気にざわついた。
「ウォルトさまの婚約者って、確か……。」
令嬢たちがひそひそと話している。
令嬢たちが見ている先には、令嬢の姿が。
どこかで見たような……。
ドナルド「彼の婚約者は確か、前のパーティーで毒を飲まされた人の妹のナタリーですね。」
そうだわ。
ウォーレン王子が”兄の婚約者”だと紹介してくれた令嬢だわ。
マリー「わざわざ、戴冠式の最中に発表するってことは……。」
ドナルド「別の婚約者を発表するつもりかもしれませんね。」
国王と王妃の表情はよく見えないけれど、どうやら予想外の出来事みたいね。
とても不謹慎だけど……。
マリー「これってもしかして、イベント……?」
同じことを考えていたのか、ライラと目が合う。
思わず、2人とも緩みそうな口元を隠した。
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国王「この場が、どういうモノか理解しているのか?」
全く、どうしようもないほど愚かな息子だ。
女遊びが激しいが、人を愛するようなことはなかったから黙認していた。
空っぽの頭だからこそ、扱いやすいとも言えるが
こうまで愚かなら……。
ウォルト「お父さま、僕は相応しく愛せる女性を相手をあなたのように見つけたのです。」
自信に満ち溢れ、堂々と胸を張るこの息子をどうしようか。
今からでも、ウォーレンを王座に座らせるか……。
国王「愛せる女性とは……?」
愛だと?くだらないにも程があるな。
表向き仲の良い夫婦として振舞っているが、王妃とは政略結婚だ。
王族の遠縁ながらも、人々の信頼が厚かった。
クーデターを防ぐ為に、彼女を婚約者に迎えたのだ。
ウォルト「えぇ、お父様もきっと気に入りますよ!」
聞いてられない。
国王「ウォルト王位が欲しければ…。」
立ち上がろうとする私を止めたのは、妻だった。
王妃「せっかくですから、紹介して頂きましょう。(ここで、ウォルトが取り乱せば、私たちが恥をかくことになりますよ)」
すでに会場の視線は集められている。
このまま、進めるしかないか……。
国王「……で、そのお相手は誰かな?」
ウォルト「えぇ、きっとお気に召しますよ。――さぁ、アンヌこっちへ来てくれ。」
会場の視線は、1人の女性へと集まった。
アンヌだと……?
国王「本気で言っているのか?」
よりによって、この馬鹿が
王妃「その子は、あなたの婚約者のナタリー嬢の家に引き取られた子よね?」
ウォルト「はい。そうですお母さま。」
面汚しもいいところだ。
よりによって、自分の婚約者の家に引き取られた娘を婚約者になどど……
しかも相手は、貴族の中でも力を持つ家系……。
どうしたものか。
肝心のナタリーは、落ち着いて見えるが……。
予想していたのか?それとも、この馬鹿に愛想が尽きたか?
国王「婚約を破棄するのだから、それ相応の理由があるのだな?」
ウォルト「もちろんです。――ナタリーは、アンヌに対して嫌がらせをしていたのです。そんな人物が王妃に相応しいわけはありませんよね?
ですから、ナタリーの地位をアンヌに譲るということで、彼女を無罪放免にするのはいかがでしょうか?
それならば、マイル家にとっても痛手はありません。寛大な処置でしょう?」
一応、取引内容を用意してはいたということか。
実際にナタリーが追放にでもなれば、マイルの地位は無いも同然。
しかし、ウォルトの婚約者として養女のアンヌが選ばれるのであれば、話しは別か……。
妙に落ち着いていると思えば、このことを予想していたのか。
しかし……。
国王「嫌がらせとは、どのようなモノだ?」
ウォルト「マキナ国のザンダー王子から譲り受けたモノで、アンヌの証言や現場などを抑えています。」
ウォルトは、兵士に指示をしてカメラを持ってこさせた。
国王「ほう……。」
王妃「ナタリー嬢。――あなたの意見も聞きたいのだけれど。」
ナタリーが前へ進んだ。
ナタリー「発言を許して頂き、ありがとうございます。――私は、ウォルト王子との婚約を破棄することに異論はございません。」
嫌がらせの事実を認めるということか……。
王妃「そう、では私が2人の婚約破棄を認めます。」
王妃が指示を出し、書類が運ばれて来た。
国王「マイルも異論はないのか?」
マイル「はい。ございません。」
丸く収まったのなら、大丈夫なのか……?
国王が書面にサインをした。
ウォルト「では、次はアンヌにナタリーの地位を譲る書面にサインをしてください。」
ウォルトが嬉しそうな顔で、国王に告げた。
ナタリー「お待ちください。――婚約破棄に同意は致しましたが、嫌がらせの事実を認める気は一切ございません。」
ウォルト「おいっ!――話しが違うではないか!?」
ナタリー「話しとは?――私はウォルト王子と話しなどしていません。婚約破棄に同意すると言っただけです。」
ウォルトの顔が真っ赤に染まる。
ウォルト「そこまで根性の悪い女だったとはな!アンヌの証言や証拠が揃っているんだぞ、全員の前で晒し物になりたいのか!?」
国王「みっともなく、声を荒げるな。――ナタリー嬢、君がそう言うのなら証拠を確かめることになるが、構わないのか?」
こちらにとっても、ここにいる全員が証拠を見てナタリーが王妃に相応しくなかったと知れば、ありがたくはあるが……。
ナタリー「構いません。どうぞ、証拠を流してくださいませ。」