新しい友人
モシュネ「好きなところに座ると良い。――警戒しなくとも、何も仕掛けなどしていないさ。」
ひとまず信用するしかないか……。
エンバー「レニー?」
レニーとワンダたちが固まっている。
エンバー「どうし……。」
モシュネ「ふふっハハハ。――そうか、妖精たちは見えるだろうな。しかし、お前にも見えているんだね。」
モシュネが大声で笑い出した。
全く理解できない。
私だけ、見えてないのか?
モシュネ「こいつはシャイなんだが……。」
モシュネが手をクルっと回した。
エンバー「!?」
モシュネ「エンバーも見たことはなかったかい?」
エンバー「……まさか。」
本当にいるなんて思ってもみなかった。
モシュネ「ドワーフのトーキンだ。――色々あってうちで面倒を見てるのさ。」
レニーの目がキラキラとしている。
ワンダ「レニー、彼らは臆病だから近づいちゃいけないよ。……それにしても、意外な組み合わせだね。」
レニーが伸ばしかけた手をぎゅっと握った。
モシュネ「その妖精が正しい。――気性の荒いモノもいるから、不用意に近づかない方が身のためだ。」
モシュネがトーキンを見ると、別の部屋に行ってしまった。
レニーが名残惜しそうにしている。
レニー「普段、ドワーフたちはどこで生活を?」
モシュネ「この国には、ほとんどいない。――彼らにとって住みよい場所ではないからな。」
レニー「……そうなんですか。」
レニーが見えているモノは、私たちとは違っている。
ドワーフだけじゃない他にも色々……。
モシュネ「それで、レニー?と言ったかな。少しこっちへ来てくれるか?」
レニー「ご挨拶が遅れました。レニー・アストレアです。」
レニーは、エンバーを見る。
エンバー「大丈夫だよ。――側に行くと良い。」
モシュネは、レニーの手に触れて目を見つめる。
レニーの目が赤く光り、額のマークが浮かび上がった。
モシュネ「ありがとうレニー。――トーキン、レニーに庭を案内してくれるか。」
モシュネが呼ぶと、トーキンが来た。
レニー「お庭があるのですか?」
モシュネ「あぁ、きっと初めて見る植物ばかりだろう。――トーキンは、少し離れて見守るから安心すると良い。」
ワンダ「じゃあ、僕たちもついて行くよ。」
レニー「ネブルもリネィも離れないでね。」
レニーたちが庭へと向かった。
エンバー「きちんと戻って来れるんだろうな?」
モシュネ「当然だ。――それで、何が知りたい?」
モシュネがエンバーの目を見つめる。
エンバー「わかること全てだ。――レニーのことだけではなく、奴がどこにいるのかも……。」
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ウォーリア国~城内~
「招待状は、もう送られたのですか?」
ウォーレン「えぇ、準備は整いました。」
やっとレニー嬢に会うことが出来る。
チェイス王子とどうなっているだろう……。
「……彼は、いかがいたしましょうか。――本当に信用できるのですか?」
確かに、信用できるかどうかはわからない。
不審な点もあるが……。
ウォーレン「こちらの動きに気づいたのなら、様子を見るしかないでしょうね。」
「何故わかったのでしょうか……。」
ウォーレン「何かあるのかもしれないけど、今はとにかく戴冠式を待つしかない。――君には、今まで通りお願いするよ。」
「はい。期待に応えてみせます。」
さぁ、これで少しは僕を見てくれるといいが……。
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モシュネ「庭は、どうだった?」
レニー「とっても楽しかったです!――本当に、見たことの無い植物や動物がたくさんいました!」
モシュネは、レニーの頭を撫でた。
モシュネ「いつでも遊びに来ると良い。――なぁ、トーキン。」
トーキンは、もじもじしながら、レニーに花を差し出した。
レニー「くれるの?」
トーキンがうなづく。
レニー「ありがとう!とっても嬉しいわ。――トーキンは女の子なのね。」
モシュネ「えっ、そうだったのか?」
トーキンは、被っていたフードを掴んで顔を隠す。
どこで、判断したんだろうか。
全くわからない……。
モシュネ「そうだ、これを持って行くと良い。」
モシュネは、瓶をレニーに手渡した。
レニー「これは?」
モシュネ「魔法を使えば解けてしまうかもしれないが、その髪の毛の色はあまりに目立つだろう。――特に外では。」
レニーは、瓶を見つめる。
確かに、レニーの髪の毛の色は目立つが……。
エンバー「外とは?」
モシュネ「そのうちわかるさ。――気を付けて帰りなさい。」
レニー「ありがとうございます。」
馬車に乗り込んだ。
エンバー「レニー、モシュネとトーキンはどうだった?」
レニー「2人とも、とっても良い方たちですね。」
レニーは、にっこりと微笑んだ。
エンバー「そうか……。そうだな。」
少なくとも、モシュネもレニーのことを気にいったようだし……。
レニー「それで、何も教えてはくれないのですか?」
レニーは、エンバーの方を見た。
エンバー「ふふっ、全く賢いのも良いことばかりじゃないな……。」
レニー「もちろん、叔母さまが話したくなければ何も聞きません。」
モシュネに言われたことを話せば、この子はどうなるのか……。
解決策もないまま話すわけにはいかない。
エンバー「……すまない。今はまだ、話せそうにないんだ。」
レニー「そうですか。――では、我慢します。」
少し、口をとがらせながらレニーが言った。
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帰宅したレニーは、ロゼに頼んで花をさす花瓶を用意してもらっていた。
マリー「おかえりなさいレニー。――その花どうしたの?」
レニー「新しいお友達がくれたんです。」
レニーは、嬉しそうに答えた。
今度は、誰と友達になったのかしら……。
マリー「そう、良かったわね。――招待状は読んだ?」
レニー「招待状?」
まだ知らなかったのね。
マリー「ウォーリア国の戴冠式に招かれているのよ。――それでね……。」
髪の毛のことを話さないと。
レニー「ふふっ、そうなんですね。――お姉さまが言おうとしていることを当てましょうか?」
レニーが、クスクスと笑いだした。
マリー「え?」
どういうことだろうか。
レニー「髪の毛のことでしょう?」
マリー「っ!?なんでわかったの!」
招待状のことも知らないはずだし、ロゼもまだ話してないはず……。
レニー「それなら、良いモノをもらったので大丈夫ですよ。」
マリー「良いモノ?」
レニーは、小瓶を取り出した。
レニー「えぇ、きっとわかってらしたんですね。」