当てにならない未来
学校が再開した。
ミシェルとダニエルだけでなく、フィンもピリピリしているのがわかる。
馬車を降りてから、周囲の目線がレニーに集まっているのだ。
髪の毛の色が変わったことや神獣のことなど、色々理由はあるだろうけど……。
ミシェル「ローラン、もしレニーに……。」
ローラン「わかってるよ、兄さん。」
ローランは、ミシェルが何を言おうとしたか分かっているみたいね。
確かに、婚約者の座を狙うモノや近づきたい令嬢もいるだろう。
レニー「あれってライラさまかしら?」
レニーが見ていた方向には、ライラと令嬢たちがいた。
フィン「揉めているのかも、しれませんね。」
「よくものこのこと登校できたモノですわね。」
「全く、庶民のあなたが聖女になど、なれるハズなかったわ。」
レニー「ライラさま、案内する場所があるので行きましょう。」
レニーは、ライラに罵声を浴びせている令嬢を無視してライラの腕を掴んだ。
「あっレニーさま、髪の毛の色が変わったというのは本当だったのですね。」
「とっても似合っていますわ。」
今まで、散々なことを言っていた癖に、よくもまぁ平然と……。
「その子たちが神獣ですか?――かわいらしい。」
令嬢の1人が、レニーの肩に乗るネブルに手を伸ばそうとした。
ボンっ
「ガルルルル」
「きゃあっ」
ネブルとリネィが大きくなり、令嬢たちが悲鳴を上げた。
レニー「この子たちは、人を見る目があるようで。申し訳ございません。」
フィン「ふっ」
フィンがレニーの嫌味に気づいて吹き出してしまった。
「どいう意味ですの!?」
さぁ、行きましょう。」
ライラ「えっ?でも……。」
彼女は本来Aランクの生徒ではない。
そう言えば、どうなるのだろうか……。
レニーは、ライラの手を握って引っ張って行く。
ライラ「申し訳ございません。」
レニー「あなたが謝る必要はありません。」
ライラのことは、既に学園で噂になっていた。
教師たちの中にも、彼女を快く思わない者もいるのかもしれない。
レニーは、エンバー伯母様にライラの教育を頼んでいたのだ。
ビビアンも一緒だから大丈夫だとは思うけど……。
エンバー「レニーとマリーが彼女を許しているのなら、私は構わないが……。――君はそれで良いのかな?」
エンバーは、ライラを見た。
ライラ「……はい。――よろしくお願いいたします。」
ライラは、エンバーに頭を下げた。
エンバー「では、ビシバシ指導することにしよう。」
エンバーは、豪快に笑った。
お昼にいつものようにテラスに集まった
サーリア「それで、あなたちはどこから来たの?」
マリー「どこから……。ここではない国というか、別の世界かな?」
ライラの顔を見ると、彼女も頭をかしげていた。
ライラ「そうですね。――元々いた場所では、魔法などもありませんでしたし、妖精などもファンタジーの世界でした。」
昔、世界地図を見たけれど、全然違っているようだし、未来と過去というわけでもないだろうな。
チェイス「……儀式で言っていたが、ライラ嬢は何かの主人公なのか?」
私とライラは、顔を見合わせる。
マリー「正確に言えば、ここにいる皆さんがある物語の登場人物なのです。――しかし、ただの物語なので、ストーリーは関係ないと思います。」
ライラと話した時に、詳しいゲームの内容は伏せることに決めたのだ。
ミシェル「物語と、この世界で起こっていることは違うってこと?」
マリー「そうよ。物語で、レニーは神獣とも出会ってないし――他の出来事も全然書かれてないことなの。」
ライラ「しさ……あの人も、自分の見た未来とは違っていると言っていました。」
チェイス「そうか……。では、これからのことはわからないのだな。」
レニーのこれからを懸念しているのかしら。
ミシェルは、何故か微笑んでいる。
マリー「どうしたの?」
ミシェル「いや、なんでもないよ。」
サーリア「で、ライラはもうレニーやマリーに危害を加える気はないのよね?」
ライラがビクッとした。
サーリアの目は大きいので、目力が強く少し怖いのかも……。
ライラ「はい。――もちろんです。」
サーリアは、ライラをじっと見つめる。
サーリア「……。それなら良いわ。もうビクつくのはやめなさい。」
フンっと顔をそむけた。
彼女のなりの優しさなんだろう。
リーン「また、誤解されるような言い方を……。」
レニー「サーリアさまは、罪の意識に縛られず、堂々とするようにおっしゃっているんですよ。」
レニーは、ライラに微笑んだ。
サーリアの顔が赤くなっていく。
ライラ「クスっ、ありがとうございます。」
サーリア「ッ、べつにおどおどしているのが、見ていて腹が立つだけよ。」
彼女もきっと変われるだろう。
こんなに、優しい人たちに囲まれているんだから。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー――――
コツコツコツ……。(階段を下りる音)
エリック「……来ると、思っていましたよ。エンバー。」
エンバー「だろうな。――聞きたいことがあるんだ。」
エリック「当てましょうか?――レニー嬢のことですね?」
エンバー「……何を知っている?」
エリック「私にもはっきりはわかりません。――しかし、彼女の魔力は私たちの持っているモノとは桁が違う。」
エンバー「……未来は全く違っているのか?」
エリック「えぇ、命を犠牲にした術も当てになりませんね。」
エンバー「誰ならわかるんだ?」
エリック「ふふっ、あなたの師匠と対立していた人物なら……。少しは役に立つかもしれませんね。」
エンバー「なっ、まだ生きているのか?」
エリック「さぁ、ここ20年は会っていませんが……。10年程前に、街に来ていたようですよ。」