それぞれの画策
レニーがアンリの部屋を出た。
フィン「何を話したんですか?」
レニー「……。」
フィン「レニーさま?」
バタバタバタ(衛兵の足音)
「国王が会いたいとおっしゃっています。――よろしいでしょうか?」
レニー「はい。案内してください。」
アンリと何を話したのだろうか。
危害を加えられたようには見えないが、何か知らなくても良いことを聞かされたのかもしれない。
これ以上、レニーさまの負担を増やしては欲しくないんだが……。
アンガス「わざわざ来てもらって、すまないね。――彼女は、どうだったかな?」
レニー「これからは、きちんと食事をとると約束してくれました。」
にこやかに話してはいるが、国王が聞きたいのは別のことだろう。
アンガス「……ふふっ。全く、アレクセイに似ているな。」
レニーさまが、話した内容を話す気が無いと気づいたようだ。
レニー「そうですか?――よく、母に似ていると言われるのですが。」
アンガス「本当に敵わないなアストレア家には。――儀式や結界の件は、実に見事だった。国王として感謝する。」
レニー「いえ、聖女の件を納めたのは私ではなく、チェイス王子やライラさまです。」
銀髪になったレニーさまは、以前よりも増して視線を集める。
衛兵たちの中にも、見惚れている者がちらほら……。
アンガス「謙虚だな。――唐突だが、婚約者を決める気はないのかな?」
あぁ、本当の目的はこれだったのか。
レニー「本来、私ではなく姉のマリーが先ではないのですか?――それに、社交界デビューもまだしていませんし。」
アンガス「今は、決める気はないということかな?」
レニー「はい。」
旦那様も相当だが、やはり国王の気迫は凄い。
彼に、平気で話しをするレニーさまの神経はどうかしている。
アンガスの表情が柔らかくなる。
アンガス「君は賢い子だ。人との関わりを大切にし、思いやりと力を持っている。――あまり1人で抱え込まないことを祈るよ。子を持つ親としてね。」
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レニーの作戦は上手くいき、私とライラはゲームの話で盛り上がった。
まだ、彼女が心を開いてくれるのには時間がかかりそうだけど・・・。
私は、ライラと大好きな乙女ゲームの話が出来たことが嬉しくて、彼女が帰ってからも戻ってきたレニーに熱弁してしまった。
レニー「つまり、お姉さまがしていた乙女ゲームというのは、何が面白いんですか?」
マリー「えっ、だから、選択しによって見れる画像やイベントが変わってくるのよ!――攻略対象たちの表情やセリフも違ってくるし、全ルートをクリアする必要があるの。」
レニーは、熱弁する私を見てクスクスと笑っている。
レニー「ハッピーエンドしかないのですか?」
マリー「いや、そういうわけではないんだけど……。」
どういえば伝わるだろうか。
どれ程、あのゲームが面白かったか……。
フィン「いつになく真剣な表情ですね。」
レニー「そうね。昔から、ブツブツと何かを言っている時のお姉さまは、乙女ゲームのことを考えていたのかもしれないわ。」
どちらかと言えば図星だ。
最近は、乙女ゲームとこの世界を照らし合わせることは少なかったけど、当初はそればかり考えていたのだから。
レニー「さぁ、明日は学校なので、そろそろ部屋に戻ります。」
マリー「ちょっと待って!少しは乙女ゲームのことを理解してくれた?」
レニーの腕を思わず掴んでしまった。
必死過ぎたかも……。
レニー「さっぱりです。――でも、お姉さまの情熱は伝わりましたよ。」
くそっ、こうなればこの世界でもゲームを作るしかないのか……。
レニー「お姉さま、ゲームのレニーの方が好きですか?」
首をかしげるレニーが可愛すぎる。
マリー「そんなわけないわっ!だってあなたは……。」
ゲームの登場人物じゃない。
そうね。本当は、それを最初から私もライラも理解しておくべきだったのね。
レニー「ふふっ、お姉さまの人生なのです。選択しに縛られる必要も、画面越しに誰かに気持ちを馳せる必要もありません。」
レニーは、私の手を握った。
妹にドキッとするのはおかしいんだろうか……。
マリー「そうね。――今は、こうして触れることができるものね。」
フィン「いつまでいちゃついているんですか?」
つい、見惚れしまっていた。
レニー「仲間外れにされた気分なの?」
フィンの顔が赤くなる。
フィン「っ!!早く部屋に戻らないといけませんよ。」
フィンは、顔をそむける。
彼のことは好きだ。レニーの良き理解者だろう。
ゲームには、登場しないこの2人はどうなるのかな。
マリー「おやすみなさい。レニー。」
レニー「おやすみなさい。」
パタン(ドアが閉まる音)
レニー「フィン。あなたも従者を辞めて他のことがしたいなら、遠慮しなくて良いのよ。」
フィン「ふっ」
彼女の後ろを歩いて何年になるだろう。
前を歩くレニー様の髪にさえ触ることが出来ない。
手を伸ばせば届く距離なのに、果てしなく遠い。
どれだけ鍛錬しても、レニーさまに追いつけるはずもない。
従者を辞めれば、この気持ちは消えるのだろうか。
レニーがいきなり振り向いた。
レニー「もし辞めても、マフィンが食べたくなったらいつでも来ていいわよ。」
フィン「はぁ……。全くあなたって人は、ほんとうに。」
選択しなんて俺にはないんだ。
彼女が誰を選んだとしても、俺はどうせここでしか息が出来ない。
フィン「俺は、自ら望んでここに居るのです。一生側にいますよ、レニーさまが離れろと言うまで……。」
この狂いそうなほどの熱を抱えて。
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コンコン(ドアをノックする音)
アレクセイ「入っていいぞ。――こんな時間に何の話かな?」
ミシェル「以前お話ししたことを覚えておいでですか?」
アレクセイ「ウォーリアのことか?」
アレクセイは、手に持っていた書類を置いてミシェルを見た。
ミシェル「はい。――許可をいただけますか?」
ミシェルは、アレクセイに手紙を渡した。
アレクセイ「王家は通さないつもりなのか?」
ミシェル「我がアストレア家は、外交を担っているので問題はないと思いますが。」
アレクセイがミシェルを見つめる。
アレクセイ「全く賢いのも問題だな。――許可は出すが、失敗は許されないぞ?」
ミシェル「わかっています。」
次から第6章突入します!