罪と罰
「2匹の神獣ねぇ……。」
ミシェルが本を開きながら呟く。
神話に登場していた”光と闇を司る神獣”は、このことだったのか?
それとも……
「お前の計画が狂ったんじゃないのか?」
「ふっ、書庫に来るなんて珍しいねダニエル。」
ダニエルは、本に手を伸ばした。
「レニーをどうするつもりなんだ?」
本当に双子っていうのは厄介だな……。
全てを知っているわけではないだろうけど。
「どうもしないよ。ただ、レニーが生きやすい環境にしたいだけさ。」
強大な魔力を持った公爵家の次女。
精霊使いで、しかも、2匹の神獣までセットなんて……。
「レニーが生きやすいねぇ……。不自由には見えないけどな。」
ダニエルがミシェルを見た。
「余計なお世話だとしても、僕は僕のしたいようにするよ。」
あまりにも出来過ぎた話だ。
このままではレニーは、間違いなく争いの火種になってしまうだろう。
一部の公爵家は、アストレア家に恩があるから大丈夫だろうけど
他の貴族は、そうはいかないだろう。
「……レニーに選ばせないつもりか?」
「そういうわけじゃないよ。」
ただ、レニーが自由に思うがまま生きられれば……。
「1つ聞きたいことがあるんだ……。お前、レニーが……。」
廊下を走る音が聞こえて来た。
「アーティ?」
「坊ちゃんたち、レニーさまはどこにいるか知りませんか?」
アーティが息を切らしている。
「レニーなら、自分の部屋だと思うけど。」
「いや、たぶん姉さんのところじゃないかな?」
姉さん、そういえば何があったのかきちんと聞いてないな。
「何があったんだ?」
「すいませんが、今は話している時間がありません。ありがとうございます。」
アーティが頭を下げて去って行った。
「ミシェル、追いかけるか?」
「……いや、僕らには出来ないことなんだろう。」
レニーにしか、できないことか……。
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「お父さま、私ライラさまと2人になりたいです。」
アレクセイは、レニーを見て頷いた。
緊張するわ。私、レニー嬢の思い通りみんなの前で話せたのかしら……。
「ケガはないのですか?」
「えっ、はい。私は大丈夫ですが、衛兵の方が……。」
予想外の言葉に、思わず声が上ずってしまった。
「そうですか。なら、良かったです。」
銀髪というのかしら、微笑む彼女は女性の私でも見惚れてしまう。
「……わかっていたのですか?私が何を話すか。」
国王たちと取り残された私は、レニー嬢に特に指示を受けたわけではなかった。
彼女は、教会の人間に食事の提供を強化するルートの説明と、自分たちのパイプになるように指示をしただけだった。
ただ……。
「演技なしで、あなたの言葉を話してください。」
これだけ。
私が、聖女になると話したらどうするつもりだったのだろうか……。
「ふふっ、本当はどちらでも良かったのです。……だって、あなたは痛みを知っているのでしょう。」
「……。」
過去が、レニー嬢には見えているのかしら。
馬車が石碑に到着した。
「レニー、できそうかい?」
レニーは頷いた。
「この子たちが、着いているもの。」
ネブルとリネィは、元の姿に戻った。
石碑に触れた、レニーの目は再び赤くなった。
アーティ「……旦那さま。」
アレクセイ「……。」
レニーと神獣が光に包まれ、アザレアが光り出す。
ライラ「きれい……。」
光が国中へと広がって行く。
アレクセイ「成功したようだな。」
さっきの人は、もう逃げ出してしまったのかしら。
レニーが、ライラの方へ向かって歩いてくる。
目が元のブルーに戻っているわ。
どうゆう仕組みなのかしら?
レニー「ライラさま、この世界で生きていけそうですか?」
真っ青な目が、私を見つめる。
レニー「もちろん、私たちとです。――私たちには、知らない世界や見えていないモノがたくさんあります。だから、力を貸していただけませんか?」
レニーが、ライラに手を差し出した。
ライラ「……はい。喜んで。」
涙が溢れそうになる。
私を認めてくれる人、傷ついた心に気づき手を差し伸べてくれる私よりも小さい子。
決まっていたのね……。
私は、どれだけ頑張っても主人公になることはできない。
でも、不思議とみじめな気分にはならない。
レニー「あなたへの罰は、2度と自分を諦めないことです。――悔いのない人生をこの世界でおくること、約束してくださいね。」
アレクセイは、呆れたように微笑んだ。
胸が一杯で、頷くことしかできなかった。
アーティ「私が、教会まで送って行きましょう。」
ライラ「ありがとうございます。」
自分を諦めないこと……。
前世でも、そう思えれば何か変わったのかもしれない。
もらったチャンスを、もう無駄にはできないわね。
アーティ「アストレア家の人々の言葉は、刺さるモノがあるでしょう。」
この人も、レニーさまの従者のように救われたのかしら。
アーティ「レニーお嬢さまの期待を裏切ることは許しませんよ。」
ライラ「はい。」
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ディアスは既に逃げただろうな。
捜索は出しているが、問題は奴がどうやって……。
レニー「お父さま、私はこれで良かったのでしょうか……。」
珍しく自信がないのか。
アレクセイ「何を悩んでいる?」
レニー「聖女を決めなかったこと、ライラさまに言った言葉も全て私のエゴなのでしょうか。」
アレクセイ「そうだな……。何が正しいかなんて私にもわからないさ。」
レニーが黙り込む。
あの時だって、自分たちがしたことが正しかったのだろうか。
レニーのような決断を下せれば、今のようには……。
レニー「酷いことをしたのかもしれません。」
アレクセイ「それは、彼女にしかわからない。――ただ、お前たちには実行するだけの能力と、守るだけの力がある。」
レニーが、ネブルとリネィを撫でた。
アレクセイ「迷いながら進みなさい。――間違えた時は、仲間がきっと助けてくれる。」
レニーは微笑んだ。
親としては、そんなに早く大人にならないでくれると嬉しいんだけどな。
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「何やら騒がしいな。」
「主様まだ、ご存知なかったのですね。一時だけ、入口が開いたのですよ。」
「ほぅ。誰の仕業だ?」
「恐らく、人間ではないかと……。」
「誰が塞ぎに来たのだ?」
「それが、わからないのですよ。」
「わからないだと?ふふっ、丁度退屈していたのだ。きちんと塞がっているか、見てみることにしよう。――グライア、妹たちを起こせ。」
「かしこまりました。」