儀式ー12
チェイス王子が口を開いた。
「石碑のせいで、別の世界が開きました。」
「別の世界?」
「……影の世界です。」
チェイス王子は、どう話すか迷っているようだ。
「それで、どうしたんだ?」
「……すでに塞がり、心配はありません。」
レニーを守ると言ったから、神獣のことを話さない気なのかしら。
「ほぅ……。――ここにいる皆が知らぬ世界が開き、それを塞いだというのか?それとも、影の世界とやらは勝手に塞がったのか?」
国王が、試すようにチェイスを見た。
「……っお父さま。」
「ネブル、リネィ。」
チェイス王子の声を遮ったのはレニーだった。
「なっ……。」
公爵や国王が唖然としている。
大人のびっくりする表情って少し面白いかも……。
「妖精王の指示で私たちが、影の世界を塞ぎました。」
「影の世界?」
国王たちも聞いたことがないみたいだった。
「どういったモノなのか。どういった世界なのかは知りません。」
「そうか。――それで、その者たちは神獣のようだが……。」
「もしかすると、神話の神獣かもしれません……。」
叔母さまが、レニーたちを見ながら言った。
レニーは、神獣たちを見る。
「さぁ、どうでしょうか?」
まぁ、神話の神獣かどうか確かめる方法はないか。
「契約をしたのか?」
「どんな能力を持っている?」
公爵たちが口々に質問をする。
バーンズ公爵が近づいた。
グルルルル
神獣が威嚇し、バーンズ公爵は後ずさった。
「……契約は多分必要ありません。――レニー、神獣と一緒に魔力をまとってくれるかい?」
レニーは、お父様の指示に従った。
「紋章?」
神獣と同じ紋章がレニーの額に浮かび上がった。
いつも、目が赤くなるわけじゃないのね。
「紋章というよりも、ルーン文字に似ているな。」
叔母さまが、口を開いた。
「どういう意味かわかるか?」
「私も読めるわけではありませんが、昔見たことがあります。」
ルーン文字って何か聞いたことがあるけど……。
「しかし、神獣を保有することでさえ例外なのに、2匹とは……。」
「それだけではない。――そうだろう、アストレア公爵。」
カーライル公爵がアレクセイを見た。
「アレクセイ、話してくれ。」
国王は、お父さまを見つめた。
アレクセイは、髪の毛をかきあげてため息をついた。
「……レニーには小さい頃から魔力がありました。――私は、独断でレニーの魔力を抑え本人にさえ隠してきました。」
お父さまは、私たちがレニーのことを知っていたのを隠す気なんだわ。
「そんな話し聞いたことがないぞ。――過去に一番早くても8歳なんだぞ……。」
「えぇ、例外です。――しかも、レニーは神獣の住処に入ったことがあります。」
みんなが静まり返った。
「レニー嬢、覚えているのかい?」
「残念ながら、ハッキリと覚えていません。」
まだ、5歳だったから覚えてないのは無理もないかな。
見ていたことを言うべきかもしれないけど……
「レニー嬢が、神獣を連れて出てくるのを目撃しました。」
チェイス王子が発言した。
国王の表情を見れば、彼が隠しごとをしていたのには気づいていたようだ。
こうなれば、黙っておく必要もないかな。
「私もその場におりました。――お父様にそのことを話したのは私です。」
「はぁ……。まったく君たちは。」
お父様だけに、被らせるわけにはいかない。
チェイス王子が味方してくれたのなら、尚更。
バンッ
「僕たちも知っていましたっ!」
息を切らしながら、ドナルドやロベルトやミシェルとダニエルが来た。
みんな街の警護に行っていたから、急いで帰ってきたのね。
宰相もお父様のように頭を抱えている。
「もういいっ、とにかくなぜ黙っていたんだ!」
バーンズ公爵が声を荒げた。
「守る為です。――教会から、そして……。」
「国からか……。」
国王が、少し複雑な表情でお父様を見た。
「あんなモノを隠していたとなれば、反逆罪に取られてもおかしくはないだろう!」
「お父さま、レニーは私の友人です。――モノ扱いするのであれば、お父様であろうと許しません。」
バーンズ公爵は、娘のサーリアに怒られ口をつぐんだ。
「確かに、隠すのも無理はない。――監視対象になったのは必然だろう。しかし、再び歴史を繰り返すわけにはいかない。」
「では、このまま自由にさせるということですか?」
いい加減に腹が立ってきたわ。
レニーは、何一つ悪いことなんてしていないのに。
「そもそも彼女は、罪人ではない。――レニー嬢、国を転覆させたいかい?」
国王は、優しくレニーに問いかけた。
「いいえ。チェイス王子を信じています。――それに、もし牢屋に捕らえられてもすぐに逃げて、家族を守れると思います。」
「ふふっ、流石アストレア家ね。」
レニーの言葉を聞いて、キーラ女王が笑った。
「どうしても監視したいというなら、私とアイリーンがお相手します。」
「もちろん私もだ。」
お父さまと叔父さまが、バーンズ公爵に言った。
「……監視する気はない。」
流石に、バーンズ公爵も何も言えないか……。
「しかし、少々目立ちすぎるな。」
確かに、威圧感は凄い。
レニーは、いたずらっ子のように微笑んだ。
「これなら、大丈夫ですか?」
ポンッ
「ふふっ、ハハハハハ。」
国王が大声を出して笑った。
「可愛い……。」
ビビアンやリーンの声が揃った。
ちっちゃくなれるのね。
でも、やっぱりチッチと比べると少し大きいわね。
レニーの肩と頭に上っていった。
「それなら、大丈夫かもしれないな。」
いや、ちょっと大丈夫ではないと思うけど。
一気にみんなの雰囲気が柔らかくなった。
「でも……。そう言えば、聖女のことはどうしましょうか?」
キーラ女王が言った。
確かに、そもそも聖女を決める為に儀式を行うと言っていたんだったわ。
「レニー嬢、聖女になる気は?」
国王は、レニーに問いかけた。
「聖女ですか……。」
「本人にその気がないのなら、勧めることはできないわ。」
レニーが妥当だろうけど……。
「しかし、国民に全てを話すわけには……。」
国王の言う通りだ。
司祭が、とんでもない儀式をしようとしていたなんて話すわけにはいかないだろう。
「レニー、何を考えているんだ?」
お父さまに言われるまで気づかなかったけど、レニーが完全に何かを企んでいる。
嫌な予感が……。
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「見つかった?」
「いや、開いた形跡はあるけど……出てきてないみたいだねぇ。」
「開いた?――人間が影の世界を開き封じたというのか?」
「さぁね。――でもここには、アイツがいたよね?」
「ヤツの力では無理だろう。」
「それじゃあ、全く知らないナニカがいるのかもしれないねぇ。」
「バカなことを言うな。――出来損ないの匂いで吐き気がする、帰るぞ。」
アザレアの花を1本ちぎった。
「ふふっ、ちょっと楽しくなりそうだなぁ。」
「おい、行くぞ。」