儀式ー10
皮膚がビリビリとする。
きっと目の前に現れた2頭の神獣のせいだろう。
グルルルル
真っ白なトラと真っ黒なトラ
一目見ただけで、他の神獣と違うことがわかる。
私を含め、他のみんなも言葉を失っている。
「これが、神獣の王……?」
チェイス王子が唖然としている。
「神獣の王?――レニー、じゃれつくのは後にして裂け目を塞ぐんだ。」
レニーは、すっかり神獣とじゃれ合っていた。
「私に、できるんですか?」
「あぁ、君にしかできない。――石碑に触れ、術式を破壊するんだ。」
レニーは、にっこりと微笑んだ。
神獣とレニーの魔力が繋がっているのがわかる。
額にマークのようなモノが浮かび上がり、レニーの目は再び真っ赤になった
レニーたちが、影の中を進んでいく。
「本当に、大丈夫なんですか?」
影でレニーたちが見えなくなっていき、思わず妖精王に問いかけた。
「見ていろ。――ふふっ、エリオットお前が選んだのは聖女どころではないぞ。」
司祭も言葉を失って、ただ影で見えなくなってしまったレニーを見つめる。
影が完全にレニーを飲み込んだ。
「おいっ、本当に……。」
チェイス王子が声を荒げた途端、破裂音のようなモノが鳴り響いた。
結界がはじけ飛び、影がどんどん消えていく……。
「レニーっ」
思わず、レニーに駆け寄った。
けれど血を流したせいでふらつき、体を支えられた。
「お姉さまっ!」
レニーの魔力に体が包み込まれ、回復していくのがわかる。
「全く、走ったら危ないですよ。」
何故か、妹に怒られた。
レニーの方が、よっぽど危険なことをしているクセに。
「こっちのセリフよ……。――本当に無事でよかった。」
「レニーさまっ。」
走ってきたのは、フィンだった。
「ふふっ、心配しすぎよ。」
フィンは、心配で気が気じゃなかったんだろう。
「まったく……。あなたはほんとうに。」
レニーは、いつものように微笑んでいる。
「レニー、あの娘……。」
妖精王が、ライラの方を見た。
「お姉さま、もうすぐお父さまたちが来るので後はお願いします。――私は、後で城へ行くとお伝えください。」
「えっ、ちょっと待って……。」
レニーと神獣とライラは、妖精王と共に姿を消した。
「……あの時の神獣なんだな。」
「きっと、そうだと思います。」
チェイス王子は、複雑そうな表情を浮かべている。
「チェイス王子。」
フィンは、チェイス王子に鋭い眼差しを向けた。
「わかっている――彼女を利用する気などない。」
レニーが言ったように、お父さまや他の公爵たちがやってきた。
「マリー、フィン。無事だったんだな。――レニーは?」
「レニーは、たぶん妖精の森へ。」
そうとう焦っていたのがわかる。
「妖精の森?」
「えぇ、ライラ嬢を助ける為だと思います。――後で、城へ行くと言っていました。」
安心したのか、アレクセイは頭を抱えて大きなため息をついた。
「司祭。――私の娘を巻き込んだ覚悟はできているのだろうな?」
すでにアーティが司祭を捕らえていた。
「お父さま……。私。」
父は、転生のことを知ってしまったのだろうか。
それに、司祭がそこまで悪い人には思えない……。
「……ゆっくりと話そう。――とりあえず司祭、お前には洗いざらい話してもらうがな。」
父は、私の頭を撫でた。
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「命があるのは、残り少ないポーション効果だろう。――全く、皮肉なもんだな。」
「それか、アナスタシアさまの最後の想いかもしれませんよ。――エリオットに罪を重ねさせない為の……。」
「ふふっ、全く。――敵わないな。」
アナスタシアなら、きっとそう願っただろう。
どんなモノにでも手を差し伸べるほど優しい彼女なら……。
「会ったのか?」
「いいえ。……ただ、なんとなくです。」
レニーは、にっこりと微笑んだ。
「お前の力なら、この娘を救えるかもしれない。」
「どうすれば?」
全く、迷わずに救うのか。
巻き込まれ、危険に晒されたにも関わらず……。
「救いたいのか……?」
「もちろんです。――妖精にしたことは許せませんが、彼女はきっと後悔しているでしょう。贖う機会は必要です。ただ……。」
「ただ……?」
レニーは、周りの妖精たちを見てワンダを見つめた。
「あなたたちが……ワンダがよければです。」
「……気づいてたの?」
「えぇ。――私に加護をくれたのは、復讐する相手を探す為でしょう?」
ワンダは、他の妖精たちが消え誰よりも怒って犯人を憎んでいた。
レニーに危害を加える気はないと思い、許可を出していたが……。
「全く、人が悪いなぁ。――選ぶ人を間違えたかもしれないね。」
「どうしますか?」
「……見殺しにして欲しい。――でも、僕の好きなレニーはきっと彼女を救うんだ。」
ワンダは、涙を浮かべてレニーに微笑んだ。
「私もワンダが大好きよ。」
レニーがライラに手をかざした。
神獣とリンクし光に包まれる。
本当に彼女を助けることができるのだろうか。
しかし、ここまでくると……。
「ふふっ、ワンダ見てっ。」
レニーの手には、種が握られていた。
「えっ……?もしかして。」
「ここまでとはな……。」
ライラの呼吸も元に戻り、生気がみなぎっている
ワンダは、受け取った種を土に戻した。
種は、ライラの中に残ったポーションだろう。
そして、ここの土で育てれば花と共に妖精が誕生するかもしれない。
「目を覚ますぞ。」
「……んっ。」
「ライラさま?」
ライラが目を覚ました。
状況が理解できないようだ。
レニーが大雑把に説明をした。
「……そう。――なぜ、助けたの。憎いはずでしょ?」
「事情を知らなかったとはいえ、憎いな。」
「なら……。」
確かに、後悔はしているようだな。
「お前の祖先は、ろくな人間ではなかった……。――レニーによって贖うチャンスを与えられたのだ。その命無駄にするな。」
「……あなたが?」
「えぇ、でも妖精が許可してくれたからです。――お城へ行きましょう。あなたにとって、彼は大事な人なのでしょう?」
ライラが唇を噛みしめている。
マリーと同じ転生者か……。
前世では、この子たちのような子に出会えなかったんだな。
「レニー、神獣が妖精で遊んでいる。――止めてきてくれないか。」
「ふふっ、わかりました。――あの子たち、チッチみたいですね。」
ひらひらと飛ぶ、妖精を追いかけている。
「ここであったことを他言するな。――お前は死にかけてなどいないし、ただポーションを体から取り出しただけだ。」
光の魔力といっても万能ではない。
死にかける程の傷を塞ぐなど、本来できるものではないのだ。
「……わかりました。」
「前世のことは知らないが、もう少し今の現実に目を向けるがいい。」
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「それで、誰が説明してくれるんだ?」
王様が私たちを見た。