儀式ー9
「お前があの時にアナスタシアを助けていれば!――お前にとって姉は……。」
司祭の目からは、涙が溢れ出している。
エリオットは、アナスタシアの義理の弟……?
妖精王は、黙っている。
「助けられなかったのではないですか?」
口を開いたのはレニーだった。
「そんなハズないだろう!――ヤツは、とんでもない魔力を持っているのだぞ。」
確かにそうだ……。
この結界を抜けられるほど、強大な魔力を持っている。
「1度、ワンダが魔法を使えなくなるのを見ました。――私の魔力が暴走した後です。」
訓練のあの時?
でも、次の日には平気そうに……。
「ワンダは、他の妖精によって回復させてもらっていました。――しかし、本通りにアナスタシアの魔力の暴走を妖精王が止めたのなら……。」
「回復させられる妖精がいなかった……?」
妖精王は、困ったように微笑んだ。
「全く。賢い娘たちだな。――アナスタシアの魔力は強力だった。我らは、魔力に当てられると回復するのに時間がかかる。」
「だが、会いに行くことはできただろう!」
本では確か……
「会いに行ったさ。――だが、檻には結界があった。それに……。」
「アナスタシアは、望まなかったのですか?」
レニーが妖精王に問いかけた。
妖精王は、黙ってうなづいた。
「でも、それなら国を滅ぼそうとしたのは……?」
お母さまの話だと、妖精王が国を滅ぼそうとしたって……。
「――あなたですか?」
レニーが司祭を見た。
「そうだ。――許せなかった、アナスタシアを助けなかった妖精もクズみたいな王子も何もかも。」
「ポーションを作ったのは、やはりお前だったのだな。」
初めてポーションを作った人物が、司祭だったのね。
「精霊使いの能力はなかったが、一応家系にはいたから術式を発明したんだ。――お前の名を語り、国に復讐を……。」
「アナスタシア復活の為に、今まで生きて来たのですか……?」
「あぁそうだ。何度も転生を繰り返し、何度も蘇生の実験をして……。――それなのにお前がっ!」
光の魔法で拘束されている、司祭がレニーを睨みつけた。
「アナスタシアは、本当に望んでいたでしょうか……。――あなたが多くを犠牲にして、自分を復活させてくれたと喜ぶ方だったのですか?」
「お前に何がわかるんだっ」
「なぜ、彼女は逃げなかったのでしょうか。――ご存知なんじゃありませんか?」
レニーは、妖精王の方を見た。
「……彼女は、家族の幸せを願っていた。――アンナのウソにもずっと彼女は気づいていた。そして、お前が必ず国を支える人物になると信じていたのだ。」
「私は……。」
大粒の涙を流す司祭を見て、レニーは拘束を解いた。
司祭は泣き崩れてしまう。
「愛していたのですね。」
レニーが司祭の肩に触れた。
「すまなかったな……エリオット。」
そう言うと妖精王は、リボンを取り出した。
「……それは。」
「ふふっ、やっぱりあのリボンはアナスタシアさまのモノだったのですね。」
レニーが、妖精王を見て微笑んだ。
司祭は、リボンを握りしめる。
「ずっと、持っていたのか……?」
「あぁ、あの木も残っている。――見せられないのが残念だがな。」
これほど、愛されていた女性なら少し会いたかったような気もするけど
レニーが無事でよかった。
「すまないが、結界を開けてくれないか?」
チェイス王子だった。
正直、すっかり忘れていた……。
「王子、どんな処罰も受けます――ただ、部下とライラは見逃していただきたい。私に騙されただけなのです。」
「それぞれ事情は聞くが、私から父に頼んでみよう。」
確かに、どんな理由があったとしても司祭のしたことは許されないだろう。
「すまないが、王子。――もう少し待ってくれ」
「えっ?」
妖精王は、レニーのイヤーカフに手を伸ばした。
「みんな石碑と離れなさい。――儀式は失敗したが……。」
司祭の部下が、司祭とライラを連れて離れた。
私も結界の側へ避難した。
何が始まるの?
ゴゴゴゴゴ
「――レニー、覚悟は良いか?」
地響きが起こり、アザレアの花が黒くなっていく
レニーはうなづいた。
イヤーカフが外れると、レニーの体が光だす。
「ふふっ、やはりそうか……。」
眩しくてよく見えないけど、妖精王の声が聞こえた。
「レニー……?」
レニーの栗色の髪の毛が、白にちかい金髪のプラチナブロンドになった。
「……なんだアレは?」
司祭が声をあげた。
アザレアの花の下から、黒い光が出ている
「2つの世界……?」
ビビアンが口にした。
2つの世界って……。
「神話の?」
「どう言っているのかは知らないが、いわば影の世界とでも呼ぶのだろうか。――儀式に反応して開いたんだ。」
影の世界?
「レニー、音が聞こえるだろう?」
レニーがうなづいた。
音なんか聞こえないけど……。
もしかして、庭園で言っていたあの?
「彼らが待ってる。――呼んでごらん。」
レニーの口が動いたけど、聞き取れなかった。
「……神獣?」
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再び地響きが起こった。
「一体どうなっているんだ……。儀式は阻止できたのか。」
「もし、成功したとすれば結界を解いているハズです。」
ドリューの言う通りだ。
この状況では、司祭も逃亡することはできないハズ。
「だが、みんなが無事なのかわからない。」
「今はただ……。」
空気が、神獣たちの様子が変わった。
「ガオ……?」
アウォーン
ガオが吠えると、他の神獣たちも同じように声を上げ始めた。
「どうしたんだ、お前たち」
公爵たちが困惑する。
「旦那さま……。」
石碑のある方向が光っている。
「……まったく。」
まさかとは思っていた。
本当に、あの子の元へあの神獣が姿を現したというのか……?
神獣が姿を見せたということは、レニーたちはきっと無事なんだろう。
「……アレクセイ、後で全て話せ。」
「そうですね。」
アンガスたちに説明すると思うと、ゾッとするな……。