儀式ー8
「……妖精王。」
「えっ、本当にいたのですか?」
ビビアンたちが驚いている。
まぁ、私も最初驚いたから仕方ないだろう。
「誰かと思えば……。――久しいな、エリオット。」
エリオット……?
どこかで聞いたような。。
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両親が私の魔力に気づいたのは、10歳になる頃だった。
貴族としては完全に落ちぶれた家だったが、魔力保持者が生まれたことで返り咲きしようとしたのだ。
しかし、私の魔力が強すぎて制御できないと気づくと、多額の金と引き換えにあっさりと私を引き渡した。
精霊使いの家系の伯爵家に引き取られた。
そこには姉妹がいて、姉のアナスタシアは精霊使いの能力も魔力もないと見放されていたのだ。
一方で、妹のアンナは要領もよく魔力にも目覚めていた。
彼女たちの両親は、精霊使いの能力が目覚めず焦っていたのでアンナが目覚めたと知りたいそう可愛がっていた。
養子として引き取られたからには、必死に勉強して色々な魔法が使えるように頑張った。
日に日に雑な扱いを受けているアナスタシアを見るのは、少し心苦しかった。
こちらが心配して声をかけても、彼女は大丈夫だといつも微笑んだ。
ある日、国王に呼ばれ家族で城へ向かった。
元々王子は、アナスタシアとの婚約が決まっていたにも関わらず、精霊使いの能力が目覚めたアンナを嫁にすると言い出した。
王家のあまりにも勝手な行動に心底腹が立ったけど、アナスタシアがこんなヤツと結婚しなくて良かったとも思った。
アンナは、婚約が決まるとアナスタシアを小間使いのように扱い出したのだ。
両親もそれを見ながら何も言わず、王子がアナスタシアに贈ったプレゼントも全てアンナが取り上げた。
「悔しくはないの?」
「宝石には元々興味がないもの。――それに、あの子ならきっと王妃にふさわしくなるはずよ。」
宝石に興味がないのは本当かもしれないけど、アンナが王妃にふさわしいなんてことはないだろう。
「ねぇ、エリオット。――妖精ってやっぱり綺麗なのかしら?」
「どうだろうね。――でも、僕が妖精ならきっとアンナ姉さんより姉さんに気づいて欲しいと思うよ。」
口が上手いと笑われたけど、心からの言葉だった。
アナスタシアは完全に見放され、街に行くことが多くなった。
ある日、汚れた服で戻ってきたのでいじめられたのかと思った。
「木の枝を折っちゃって、リボンを巻き付けていたら汚れちゃったの。」
無邪気に微笑むアナスタシアを見て、この家の当主になれば彼女を守ることができるのかと思った。
それからも毎日のようにアナスタシアは街へ行った。
楽しそうに出かける彼女の様子が少し気になった……。
ある日、アナスタシアは相手の事を話してくれた。
「ねぇ、エリオット。――素敵な人に出会ったの。」
「素敵な人?」
「ふふっ、少し不思議な感じの人なんだけど……。――とっても優しい人よ。」
どんな相手なのか気になった。
ある日、私は適当に理由を見つけて街に行った。
アナスタシアがどこで何をしているか聞いていなかったので、諦めて帰ろうとした。
帰り道で、凄い魔力を感じて恐る恐るそこに向かった。
今までに感じたことのない魔力を発していた男とアナスタシアは一緒にいた。
微笑みながら話しているアナスタシア。
明らかに人間とは思えない男を見て、思わず離れるように言い放った。
「姉さん、離れてっ!」
「エリオット!?」
「話していた、お前の義理の弟か?」
「ブランに向けて剣を向けるのはやめて!」
姉が必死に私の腕を掴んで辞めるように言った。
「何者だ?――おまえ、人間じゃないだろ。」
「ずいぶんと無礼だな。――それでは、何に見える。」
深いヴァイオレットの瞳が、私を試すように見えた。
「人間じゃないハズないでしょう!――謝りなさい。」
ブランは、ため息をついた。
「アナスタシア、もう会うのはやめておこう。」
「えっ、そんなの嫌です。――どうして……。」
ブランは、その場から姿を消した。
アナスタシアは、その後も毎日のようにブランを探しに行った。
「姉さん、もうヤツは来ないんですよ。――帰りましょう。」
「エリオット、放してちょうだい。」
「嫌です。――僕は……。」
掴んでいたアナスタシアの腕が光り出した。
「えっ……」
バァンッ!
アナスタシアの魔力が暴走した。
弾き飛ばされそうになった私を支えたのは、ブランだった。
ブランよって避難させられた。
「…アナスタシア。――大丈夫だ、手を取るんだ。」
動揺し、魔力を暴走させるアナスタシアにブランは歩み寄った。
アナスタシアがブランの手を取ると、魔力の暴走は収まったのだ。
ブランが妖精王だと知ったのは、この時だった。
妖精が見れるようになり、アナスタシアは妖精王の元へ遊びに行くようになった。
「ねぇ、エリオット。――私の手を握ってみて。」
アナスタシアの手を握ると、そこには妖精がいた。
「綺麗でしょう?――あなたにも見せたかったの。」
「綺麗ですね。」
魔力と精霊使いの能力が目覚めたことをアナスタシアは、両親には報告しなかった。
あの時の騒動も、私の魔力が暴走したと説明をして誤魔化すことができた。
でも、平穏な時間はアンナによって打ち砕かれることになった。
アンナの指示でアナスタシアは、王家に反逆者として捕らえられたのだ。
「どういうことですか?」
「エリオット。――あなたも知っていたのでしょう?」
そう言ったアンナの手には、アナスタシアの日記が握られていた。
「姉さんは、反逆者なんかじゃありません。」
「そうね。でも、彼女には死んでもらわないと困るのよ。――それとも、あなたが妖精王の元へ案内してくれる?」
アンナは、精霊使いの能力が目覚めたとは言っていたが、加護を受けていなかったのだ。
アナスタシアを解放してくれるならと、妖精王の住む森へ向かった。
「あなたが妖精王?――私に加護を与えなさい。」
「ふふっ、小娘が戯言を。――そもそも、お前には見えていないのだろう?」
アンナには、妖精など見えていなかったのだ。
「あなたの力でどうにかなるでしょ――姉を救いたくないの?」
妖精王が手を振ると、私たちは森の外に出されていた。
「後悔するわ。――これでもう、アナスタシアは助からないわよっ!」
アンナは、森に向かって大声で叫んだ。
アンナの計画を止める為に、王子の元へ向かった。
「アナスタシアをお助けください。――反逆者などではありません。」
「あぁ、知っているさ。――だが、あれだけの魔力があれば戦力になる。」
「どういうことですか?」
「隣国が欲しくてね。――戦争で役に立てばアンナではなく、彼女を婚約者に戻しても構わない。」
ウソをつきアナスタシアを陥れたアンナも、戦力として利用しようとしている王子も許せなかった。
「助けてくれ、お願いだ。――この国の外でも構わない。アナスタシアを……。」
気づけば、妖精の森の前で涙を流し妖精王に頼んでいた。