儀式ー7
「もちろん、術式などの勉強をしていなければ知らないでしょうし。――私は、叔母様から聞いただけです。」
「司祭さま……?」
司祭の部下が、不安そうに問いかけた。
「ただの戯言だ。――私を信じられないのですか?」
冷たい眼差しを部下に向ける。
部下は、黙り込んでしまった。
「まぁ、私は死体ではありませんが。――髪の毛以上のモノがあっても、実現しなかったのに大丈夫なのですか?」
私からレニーの表情は見えないけど、声のトーンでわかる。
司祭のことを煽っているんだわ。
「化け物になるのは、流石に嫌かもしれません。」
それにしても本当は、誰を復活させるつもりなの……?
「黙りなさい。それ以上の質問は受け付けません。――姉の為に魔力を注ぎなさい。」
司祭は、ライラの髪を掴んでレニーを脅した。
本当に、彼女は助かるのだろうか……。
「あなた、なんとも思わないの?――彼のあんな姿を見て。」
思わず、私を掴んでいる司祭の部下に問いかけた。
「……この国の為に、聖女が必要なのです。」
なんとも思っていないわけじゃないんだわ。
国の為……?
頭がフラフラしてきた。
ライラほどではないにしろ、私の手からは血が流れている。
「両手で魔力を送りなさい。――石碑が光れば、姉の止血をします。」
レニーは、両手で魔力を送り出した。
何度見ても、光に包まれる彼女の姿はとても綺麗だ。
もうすぐ、太陽が完全に隠れてしまう。
本当に、レニーには策があるのだろうか……。
太陽と月が完全に重なった。
空が真っ暗になり、静寂が訪れる……。
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「ここだっ、ここしかない。」
聖脈が交わるポイント。
魔力を暴発させられるとすれば、ここしかないだろう。
「息を合わせるんだ。――月がもう重なった。時間がない。」
頼む、間に合ってくれ……。
みんなの魔力をぶつける。
「……やっぱり。」
「気の毒だが……。」
聖脈は全然動きはしない。
「諦めるわけにはいかないんだっ!」
「そうだ、もう1度やるしかない。」
アンガスの表情を見ると、こういう時はやっぱり王なのだと実感する。
ゴゴゴゴゴ……。
「地震か?」
「……いや、違う。」
一体何が起こっているんだ。
レニー何を……。
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石碑が徐々に光り出す……。
レニーが、私の方を見てにっこりと微笑んだ。
「……なんだあれは?」
「レニー……?」
目が、真っ赤になっている。
「絶対に、手を離すんじゃない。」
司祭がレニーに向かって声を荒げた。
地響きが鳴り響く。
より一層、術式が完全に光だし石碑からも眩い光が放たれている。
パァン
衝撃音と目を開けてられない程の光と一緒に、私たちは弾き飛ばされ結界の壁に体が打ち付けられた。
「レニーさまっ!」
フィンの叫ぶ声が聞こえる……。
「まさか……。」
チェイス王子の驚く声が聞こえ、頑張って目を開いた。
「……成功なのか?」
司祭が、立ち上がりレニーに近づこうとする。
「名前を呼んで……。」
もしかして、本当に成功してしまったの……?
「……アナスタシア。」
えっ……。
「アナスタシアって、妖精王の……。」
思わず口にすると、司祭が私を睨み付けた。
「ヤツと、アナスタシアは無関係だ。――2度と私の前で口にするな。」
「司祭さま、どういうことなのですか!?」
司祭の部下たちが、動揺している。
「アナスタシアは、聖女なんかよりもずっと価値のある人物だ……。」
司祭は、愛しそうにレニーに手を伸ばした。
パシッ
レニーが、司祭の手を掴んだ。
「アナスタシア?」
「ふふっ。――やはり、聖女ではなかったのですね。」
「貴様っ、何を……。」
レニーは、司祭の首にぶら下がっていた石を奪った。
「これで、石碑を操っているんですよね。――確かに不思議な感じがする。」
「それを奪ったとて、使い方がわからなければ……。」
「でも、とりあえずあなたは石碑を使うことはできませんよね。」
司祭を魔法で拘束した。
「おい、娘たちを殺せっ!」
司祭が部下に向かって叫んだ。
「裏切ったのに、それは無理じゃありませんか?」
司祭の部下は、呆然としている。
確かにずっと信じていた相手に裏切られたのだ。
彼らが今まで何をさせられていたのかはわからないけど……。
国の為と思って行動していたなら、可哀そうな気もする。
「髪の毛はお返ししますね。」
レニーは、ビンを拾い上げて渡した。
最初から石碑に髪の毛など置いていなかったのだ。
「姉の命がかかっているのに騙したのか?」
「うっかり、自分の髪の毛を握ってしまって……。――ふふっ。この言い訳は流石に苦しいですね。」
司祭は、レニーを睨みつけた。
「だが、確かに術式は反応した!」
「それは、何故かわかりませんが……。――私には別の目的があったんです。」
レニーは、耳に手をかけた。
「もしかして……。」
チェイス王子と私の声が重なった。
「なかなか、外れなくて困っていたんです。――魔力を使えば壊れるかと思ったんですけど……。」
外さなかったんじゃなくて、外れなかったんだわ。
「でも、やっと外してもらえそうです。」
外してもらえそう?
司祭の表情が変わった。
レニーが振り返って笑顔を見せている。
ガシャン(手錠が外れる音)
「えっ……。」
「……ずいぶんと待たせたようだな。」