儀式ー3
「レニー、どういうことなの?」
「彼は……。ライラ嬢を使って妖精を捕獲していたのですよ。」
「えっ……?でも、そんなハズは……。」
だってお母さまは、他の精霊使いは知らないって言っていたし。
他の精霊使いたちは、能力を失ったって。
「おそらく、隔世遺伝です。――実際、彼女はワンダたちに気づいたことはありません。ですから、能力には目覚めていないのでしょう。」
「ふふっ、よく気づきましたね。ライラ嬢に精霊使いの能力はないですが、君たちと同じようにその血が流れているんですよ。」
精霊使いの能力があれば、妖精を捕まえることができるってことなのね……。
「私は、ただ妖精を捕まえるだけだと……。」
ライラ嬢は、何も知らずに妖精を捕まえていたんだ。
それに、ポーションの中身が何かも知らなかったんだわ……。
「ライラさま、あなたの捕まえた妖精たちは……。」
自分が捕まえた妖精たちがポーションになっていたと知り、ライラは混乱しているようだ。
ワンダの方を見たレニーは、それ以上口にしなかった。
「……司祭さま。――もう、そう呼ぶべきではないでしょうね。あなたは、何をしたのかわかっているのですか?」
「あぁ、そもそも妖精を傷つけたからなんだと言うのだ。」
こいつ……。
レニーが真っすぐに司祭の元へ行く。
パァン(頬を叩く音)
「なっ……。」
教会の職員たちが驚く。
職員たちがレニーを確保しようとしたが、司祭が止めた。
レニーが誰かに手を挙げるなんて。
手が震えてる。
本気で怒っているんだわ。
「よい。……それで、気は済みましたか?」
「いいえ。――妖精王やワンダたちの怒りはこんなモノではありませんから。」
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庶民のライラがポーションの元でもある妖精を捕獲し、司祭が作っていたとして……。
「なぜ、司祭がお前にポーションを渡した?」
「ふふっ、あいつが俺に渡すハズないだろう。盗んだんだよ。」
まったく、こいつらしいな。
「で、ポーションを盗み出して城に入り何をした?」
「アンガスを操っただけだぞ。俺が盗んだのは2つで、1つはヴィンセント公爵に渡してやったんだ。――ふふっ、ヤツは娘を婚約させたがっていたからな。」
確かにヴィンセント公爵は、ディアスが国にいた時から野心家だった。
ただの悪ふざけだったというのか……。
ライラと司祭がポーションを持っているなら、早く石碑へ行かねば……。
立ち去ろうとすると、ディアスが口を開いた。
「そういえば、お前の娘は相当な魔力を持っているようだな。」
「……子供たちに近づけば、今度こそ殺すぞ。」
アレクセイがディアスを睨みつける。
「俺は……お前の子供たちに手を出したりはしないさ。それにしても、司祭がしようとしている儀式を調べたか?」
「……あぁ、調べた。」
だが、聖女の儀式はどこにも見つからなかった。
結局ヤツは、内容をきちんと説明しようともしなかったからな……。
「どこにも、聖女の儀式などなかっただろう?」
「何を知っている?」
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「あなたを選んで正解だったようですね……。」
司祭が微笑みながら、手を上げた。
ガシャン
司祭の部下たちが、私を掴み手錠をかけた。
なんなの、全く気付かなかった。
「えっ……?」
魔法が使えない。
この手錠のせいなの……?
「どういうつもりですか?」
レニーの手が光り出す。
「まぁ、落ち着きなさい。姉が大事ならね……?」
司祭の部下が私にナイフを突きつける。
1度死んだ記憶はあるけど、あの時とは違う。
自分でも震えているのがわかる……。
「おい、マリー嬢を今すぐ解放しろっ!」
「わかっているんだろうな。――アストレア家を敵に回すのか。」
チェイスが叫んだ。
フィンのあんなに低い声は聴いたことがなかった。
「外野は、黙っていてください。」
司祭は、チェイス王子たちの方を見てニッコリ微笑んだ。
「姉にナイフを向けるのを辞めて頂けますか……。」
「あなたが、私に攻撃をしないのなら構いませんよ。」
司祭は薄ら笑いを浮かべながら、レニーの手を指さした。
でも、レニーの魔力が暴走しそうになっているのがわかる。
お父さまが怒っている時みたいに、体中がビリビリする……。
「レニー、大丈夫よ……。それよりも、何故…このようなことをするのか説明してください」
レニーの魔力が少しずつ弱まっていった。
正直、声が出るか不安だったけど良かった……。
突き付けられたナイフは、ゆっくりとおろされた。
「聖女の復活には、光と闇の魔力を持つ者の血が必要なんですよ。だから、マリー嬢には協力して頂きたいのです。」
血……?
私の血が、聖女の復活に必要なの?
それなら、やっぱり復活ってライラ嬢を聖女にするって意味じゃないんじゃないの
「……まさか。」
ビビアンの方を見ると、彼女の顔が青ざめていた。
「あぁ、確かあなたは魔術師になる為の勉強をしているのでしたね。――良かったですね。私の儀式が見られるのですから。」
「禁術を行うつもりなのですね。」
レニーが納得したように呟いた。
「しかし、誰も蘇生術と転生術を成功させたことはないハズです!」
ビビアンが司祭に向かって叫んだ。
「あぁ……。あなただったんですね。」
思わず、声が出ていた。
司祭だったんだ。私とライラ嬢をこの世界に呼んだ人物は……。
「感謝の言葉なら、いくらでも受け付けますよ。」
この男のおかげで、この世界にいるんだとしてもこんな事をされて感謝するわけない。
「まぁ、良いでしょう。――蘇生術も転生術も誰も成功させたことがないとおっしゃっていましたね?」
司祭がビビアンの方を見た。
「確かに蘇生術は、誰も成功しませんでしたが……。――転生術の成功例は、あなたがたも見ていますよ。」
司祭は、私とライラ嬢を見て微笑んだ。
「マリーが…転生者……?」
ビビアンの驚く声が聞こえる。
みんなの顔を見ることができない……。
黙っていたことを謝るべきなのか、言い出せなかった言い訳をするべきなのか……。
「えっなんで、バラさないって約束したじゃない!」
ライラ嬢が声を荒げた。
司祭とバラさないって約束をしてたんだ。
上手く頭が回らない……。
私も、司祭と手を組んでいると思われてしまったんだろうか……。
「お姉さま……。――前世の記憶ってあるんですか?」
レニーが振り返って私の方を見た。
喉の奥に何かが詰まっているような気がする。
上手く声が出なかった私は、黙ってうなづいた。
「わたし、前のお姉さまのことも知りたいです。」
レニーは、にっこりと微笑んだ。
「えっ……?」
予想外の言葉に、自分でもびっくりするくらい情けない声が出た。
「確か、感謝して欲しいとおっしゃってましたね。――仮に、あなたがお姉さまを転生させたのなら、そのことに関しては少しくらい感謝しても構いません。」
レニーの言葉に自然と涙が出ていた。
今は、泣いている場合じゃないけど色々な気持ちがあふれだして止まらなくなった……。
「ほんっとに、どこまでいい子ちゃんなわけ!?――姉妹愛なんてうんざりよ。司祭さま、さっさと始めてください。みんなの記憶は、後できちんと調整しておいてくださいね。」
司祭は、記憶まで操作できるの?
ビビアンがなろうとしている魔術師って一体……。
「そうですね。――もう始めましょう。」
司祭が部下に合図を送った。
ガシャン
「離してちょうだい!なんなのこれ!?」
するとライラ嬢が取り押さえられ、私と同じように手錠をかけられた。
「私ではないのですか?」
「あなたの体に傷をつける気はありませんよ。」
レニーは、自分が手錠をかけられると思っていたんだ。
確かに、ライラ嬢も光の魔力を持つ者……。
それならレニーは?
ビビアンたちが何かを話しているようだけど、上手く聞き取れない。
何かわかったのかしら……?
するとサーリア嬢が、結界を叩き叫んだ。
「レニー、今すぐ魔力を使って逃げなさい!」